学術ニュース

2023年12月31日

若年期のアミノ酸摂取制限に寿命延長効果の可能性

 

 三浦正幸教授(東大大学院薬学系研究科)らの国際共同研究グループは、ショウジョウバエを用いた実験で、若年期にメチオニンの摂取を制限することが寿命を延長する可能性があることを明らかにした。成果は12月5日付で英科学誌『Nature Communications』オンライン版に掲載された。

 

 必須アミノ酸の一種であるメチオニンの摂取量制限には寿命延長効果があることが知られていたが、その理由には不明な点が多かった。三浦教授らは、ライフステージごとのメチオニンの摂取制限による寿命延長効果を検証し、その分子機構の解明を試みた。

 

 研究チームは、メチオニン量のみを10分の1にした餌をショウジョウバエに投与し、寿命延長・脂質代謝の変動・飢餓耐性の向上・生殖能力の低下など、これまでに報告された摂取制限の効果の多くが再現されることを確認。さらにライフステージの違いによるメチオニン制限の影響の変化を観察し、寿命延長効果との関連を解析した。同時に、腸の遺伝子の発現解析により、加齢による寿命延長効果の変化を詳しく調べた。

 

 結果、若年個体の方が老年個体よりも多くの遺伝子で発現量の変化が確認され、その中には寿命延長の機能があるものも多数存在した。その一つが、体内で自然と酸化するメチオニンを還元しもとに戻す酵素・メチオニンスルホキシド還元酵素A(MsrA)の遺伝子だ。体内の酸化型メチオニンの量は、メチオニン制限を行った若齢個体では大きく低下した一方、老齢個体では同様の効果は見られなかった。そこで、MsrA遺伝子の機能が破壊された変異体を用いて同様の実験を行ったところ、変異体では酸化型メチオニンが増加しており、若齢期のメチオニン制限による寿命延長効果が見られなかった。これにより、メチオニン低下に対応して生成されたMsrAが酸化型メチオニンを還元することで健康寿命を促進している可能性が明らかとなった。加齢によりMsrAを生成する機能が低下するため、中年期以降の個体ではメチオニン制限の寿命延長効果が弱まることも確かめられた。

 

 この研究は、栄養素制限のライフステージ別の効果の変化を解明した点で先駆的であり、今回の研究結果がヒトを含む他の動物にどの程度適用できるかが今後の課題。また、メチオニン制限状態を再現する方法を探ることで、食事制限によらない健康寿命延伸法につながると期待される。

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