東大の前期教養課程の授業数は3700を超える。リベラルアーツ教育を行う前期教養課程では、原則として文理・科類を問わずにさまざまな分野の授業を受けることが可能だ。なかでも「総合科目」は、七つの系列に分かれた、履修の中心となる選択科目群。ここでは、東京大学新聞社の記者おすすめの授業を三つ紹介する(授業の担当教員や扱うテーマは変わることがある)。(構成・宇城謙人)
D系列(人間・環境)「森林環境資源学」蔵治光一郎教授
日本の国土の3分の2を占める森林。高校までの地理や生物などでも扱う比較的なじみやすいテーマである一方、誤解も多いのが現状だ。本授業では、森林資源のスペシャリストである教授が、森林に関して判明している事実や、現状の課題を分かりやすく解説する。印象的だったのは、日本の森林面積は実は減少しておらず、日本の森林の問題は森林伐採ではなく、むしろ森林伐採者不足だということだ。授業は、8回の講義と1泊2日のフィールドワークで構成され、フィールドワークでは、東大が所有する各地の演習林で、木の伐採体験や最近植林した山の見学などを行い、森林を体で感じ取ることができる。決して難解な授業ではないため、森林に対する理解を深めたい人、座学だけではなく実際に森林に触れたい人におすすめだ。
E系列(物質・生命)「量子論」筒井泉准教授
高校までに学習する物理は古典物理学と呼ばれる分野の基礎に相当するが、自然界には古典物理学では説明できない現象が存在する。20世紀初めにそれらの現象を理解するために生まれた比較的新しい学問が量子論だ。この講義では量子論の中でも位置や運動量といった物理量を対象とする量子力学を主に扱う。量子力学の発展の歴史に沿って基礎方程式であるシュレーディンガー方程式や量子の状態を表す波動関数などについての講義が行われ、演習を通して理解を深めることができる。量子力学の知識は幅広い分野で役立つ。例えば理科の学生なら、必修科目である「構造化学」で分子の構造を量子論的なアプローチで分析することになる。難解な部分も多いが、量子論に必須の考え方を身に付けることができる講義といえるだろう。
F系列(数理・情報)「図形科学A」金井崇教授 加戸啓太講師
CADソフト(設計図面や製図の作成に用いるソフト)を用いた3次元の形状処理や図的表現、投影図について初歩から学ぶ。パソコン上で2次元の図を描き、そこから3次元の形状を作る。CADのさまざまな機能を用いて複雑な形状を作ってつなげたり、自由度を持った動かせる構造を作ったりすることができるようになる。この授業の醍醐(だいご)味は、各回に用意されている演習問題で、複雑な形状をどのような順番で、どのような機能を用いて再現しようかと試行錯誤すること。課題の内容は、機械部品や多面体の作成から、サインカーブやサイクロイドの作成、リンク機構(関節で連結された特定の運動をする機構)の作成など多岐にわたる。パソコン上で立体物を作り出した時の達成感をぜひ味わってもらいたい。