東大の前期教養課程の授業数は3700を超える。リベラルアーツ教育を行う前期教養課程では、原則として文理・科類を問わずにさまざまな分野の授業を受けることが可能だ。なかでも「総合科目」は、七つの系列に分かれた、履修の中心となる選択科目群。ここでは、東京大学新聞社の記者おすすめの授業を三つ紹介する(授業の担当教員や扱うテーマは変わることがある)。(構成・宇城謙人)
A系列(思想・芸術)「外国文学」王寺賢太教授、塩塚秀一郎教授、塚本昌則教授、浜永和希助教
プルースト、ラブレー、モンテスキュー。フランスの作家である彼らの名前には聞きなじみがあるだろう。一方で、実際にその作品を手に取ることは少ない。本講義では4人の教員がオムニバス形式でフランス文学の名作を取り扱う。分野は小説、思想、詩と幅広い。各授業で展開される読解は大胆かつ深遠で、今まで経験してきたものとは根本的に異なる。その中ではスカトロジー(糞尿(ふんにょう)や排泄(はいせつ)行為についての文学)に秘められたラブレー作品の創作原理や『ナジャ』に見るシュルレアリスムなど、文学好きには垂涎(すいぜん)の的のトピックがふんだんに紹介される。ここで得られる知見は文学の枠内にとどまらず、自分と世界との関わり方を再考する上でも大いに役立つものになるだろう。魅力的な教員に誘われ、いざ文学の森へ。刺激に富む素晴らしい授業だ。
B系列(国際・地域)「日本語日本文学II」木村朗子講師
本講義では和歌を通して源氏物語を見ていき、平安の宮廷文化に対する理解を深められる。現代語訳を参照しながら、描写から読み取れる当時の文化や筆者が意図して暗示したことの解説が行われ、文法や単語の暗記が重要視された高校までの古文の授業とは全く異なる。几帳(きちょう)と御簾(みす)の厳重さはどう違うのか、光源氏が空蝉(うつせみ)を強姦(ごうかん)したという解釈は適切なのか、雨夜の品定めで話題に上がる「賢いが色気のない娘」は誰なのか。さらには登場人物が詠む歌に表されるそれぞれの性格などさまざまなトピックに触れ、物語がさらに面白く感じられる。また、課題として受講生が提出した短歌を鑑賞し講師がコメントをする歌会が毎時間行われ、受講生の詠んだ面白い短歌に触れられる。少しでも平安の宮廷文化や文学に興味がある人はぜひ受講してみてほしい。
C系列(社会・制度)「現代社会論」開沼博准教授
各省庁が毎年白書を出していることをご存知だろうか。本授業では授業前に防災白書や警察白書、国土交通白書などのさまざまな白書を読み、授業内でグループディスカッションや全体討議を行う。白書を読むと、省庁の意外な仕事内容や現代社会の問題が丁寧に解説されていて興味深い。数百ページに及ぶ白書の中から自分の印象に残った点を班に問題提起し、議論を進める。白書に対する疑問や忌憚(きたん)のない意見が飛び交う。学年や科類関係なく議論を交わすのは、あっという間で、刺激あふれる時間だ。ある回では実際に白書作成に関わっている卒業生にオンラインで話を聞いた。大量の白書を短時間で読み込み、自分の意見を短期間で形成、文章化する能力が養われる。複雑な現代社会を白書という新たな観点から見つめ直してみては。