FEATURE

2021年3月22日

東大建築→大工→結婚→東大理Ⅲ !? 栗林熙樹さんが語る柔軟な生き方とは(後編)

 昨今、固定観念にとらわれない多様で柔軟な生き方が注目を集めています。そのような生き方を選んだ人たちは人生において何を重んじ、どう向き合っているのでしょうか。

 

 今回インタビューした栗林熙樹ひろきさん(理Ⅲ・2年)は、理Ⅰ入学後工学部への進学を前に1年間休学し、卒業後は建築会社に大工として就職・結婚しました。しかしその後、一念発起して大工を辞め東大理Ⅲを再受験し見事合格。現在は2度目の学生生活と子育てに励んでいます。

 

 さまざまな経験をしてきた栗林さんに学問や仕事、家庭など対する考え方について話を聞き、人生設計のヒントを探ります。

(取材・杉田英輝)

 

前編はこちらから!

中編はこちらから!

 

2度目の学生生活:学業と家庭に注力 妻への感謝と子どもの成長への喜び

 

──現在のどのような学生生活を送っていますか

 

家族と参加した2度目の入学式(写真は栗林さん提供、一部加工しています)

 

 授業は普通に受けていますが、サークルや部活までやる余裕はないですね。そのため、勉強とインターンが生活の中心です。インターンでは週4日くらいのペースで働いているのですが、時間に融通が利くので、空きコマの時間帯や子どもが寝た後に作業することもあれば、休日なら朝6時から10〜12時間働くこともあります。

 

 勉強面では、今はコロナ禍で外出が制限される上授業が忙しいため行けていないのですが、国立精神・神経医療研究センターで研究見習生として研究に携わっています。研究分野は計算論的精神医学というものです。自分の根本にある学問的な問いが「自分とは何か」ということだったので、コンピューターでシミュレーションやモデルを作り脳の働きを説明することで、脳における思考の仕組みについて、言葉だけでなく数式的に理解することを目指しています。研究に関わる中で、自分には医学はもちろん数学や物理、プログラミングなど全ての基礎知識が足りないことに気付きました。その意味では、東大の前期教養課程である程度勉強することは大事だなと思います。数学・物理・生物をつなげることに興味があったので、生命現象を物理的に説明することを趣旨とした授業や、統計力学など数学・物理の基礎的な内容を扱う授業で勉強していました。人文系の学問についても「許し」に関するさまざまな哲学者の思想を学ぶ授業を受講。「人間の思考とは何なのか」という興味の下、数学や物理から人間の高次な感情の動きまでを自分で説明できるようになれば最高ですね。

 

 人間関係については、クラスのコンパに参加したり自分からコミュニティーに入ったりすることはないですね。ただ、自分に興味を持って話し掛けてくれた学生や学問的な興味が近い学生とは個人的に話したりご飯を食べに行ったりしています。彼らからは、恋愛相談や人生相談をされることが結構ありますね(笑)。学生にとっては、20代後半というおじさんではないけれど先輩にしては年が離れている世代に会う機会が少なく、相談するにはちょうど良いのかもしれません。もし僕が18歳の時に同じ科類に10歳年上の人がいたとしても、その時自分は話し掛けられなかっただろうなと思うので、すごいなと思います。

 

──家庭とはどのように向き合っていますか

 

子どもと秋の公園で(写真は栗林さん提供)

 

 学生生活と家庭での生活を両立できているかと聞かれると、とてもできているとは言えないです。日中は授業やインターンがあるのでどうしても家事や子どもの世話はできないですが、最低限授業が終わりやることがなければ早く帰り、子どもが寝た後でもできることはその時間に回しているという感じです。そのため、本当に妻のサポートには感謝していますし、自分にできることとして妻や子どもと過ごす時間を最大限作るように頑張っていますね。具体的には、家に帰るとまず子どもにご飯を食べさせ、少し遊んだ後にお風呂に入れ、着替え、歯磨きをして寝かせていますし、妻とは子どもが寝た後に会話をしています。家事については、今のところ基本的には先に気が付いた方がやり、どちらかが忙しかったり体調が悪かったりするときはもう一方がこなすという感じで特にルールはないですが、妻も僕も不満なくやれていると思います。お互い必死ですが、自分が相手を思いやっている姿勢を示すことが大事だと思いますね。

 

 子どもの成長は本当に早く、見ていてすごくうれしいですね。初めて歩いたり言葉をしゃべったりする度に喜んでいます(笑)。昔は子どもの成長に喜ぶ大人を見ても、そんな大したことかなと思っていたのですが、自分が親になったことで人として温かくなったような気がしますね。一方、子育てで大変だったことも。2度目の受験生時代のことなのですが、当時子どもは生後3〜5カ月で、毎晩大体3時間おきくらいにお腹が空いて起きてしまいました。僕は夜中の2〜3時まで起きて勉強や仕事をしていたので、子どもが1、2回起きた時にはミルクを作っていました。

 

子どもの成長を温かく見守る(写真は栗林さん提供)

 

 

──YouTubeの動画投稿を始めたきっかけや、活動の中で感じたことを教えてください(栗林さんのYouTubeチャンネルはこちら

 

 コロナ禍で人と会って話す機会が減ってしまったため、自分がしゃべっていろいろな人に聞いてもらえる場所を作りたいと思ったことがきっかけです。元々小5の時に自分のホームページを作ったり、その後もブログなどで自分の思ったことをつづったりしていて、不特定多数の人に自分の中身を見せるのが好きなんですよね。これまで顔出しは、リスクが高い上に目立ちたがりと思われるのが嫌だったこともあり避けていました。しかし、今自分は学生という立場で、さらにそれなりに年齢を重ねたことで、そのようなプライドはなくなりました。そして、一番多くの人たちに見てもらえる媒体としてYouTubeでの発信を始めようと決めました。

 

 これまでYouTubeはあまり見てこなかったのですが、活動を始めたことでいろいろな動画を見るようになりました。すると、自分は一切知らないけど自分よりはるかに登録者数が多く有名な投稿者の人がたくさんいることを知り、生きている世界が分断されているというか、世の中にはいろいろなコミュニティーがあるんだなと感じましたね。また、投稿を始めた当初はネガティブな反応が多いのかなと思っていたのですが、意外と好意的なコメントが寄せられ、優しい場になっているなと思いました。自分の言いたいことを述べ、それに対して視聴数が伸びるのを見るのは、驚きや恐ろしさを感じる反面楽しくて中毒性がありますね(笑)。この先忙しくなって投稿の時間を取れなくなるかもしれませんが、楽しくやっていける範囲で無理せず活動して、うまくいけば収益化できると良いなとも思っています(笑)。ただ、もし活動を続けるとすると世の中のニーズを考えなければなりません。今まで自分はそういったことに興味を持ってこなかったのですが、YouTubeの動画投稿に限らず社会人として働く上でも世間の求めるものを考えることは必要だと思うので、勉強する良い機会かなと捉えています。

 

──今後の進路の展望はありますか

 

 まず、自分の興味の追求・生活費を稼ぐための職・社会貢献の現実的な折衷案として医者を目指し続けると思います。ただ、その目標は絶対的なものではなく、先ほども言ったように人間の脳の仕組みや人間とは何なのかということに興味があるので、それについて数学的・物理的側面から説明したいなというのが今の思いです。自分の知識や勉強してきたことを生かすこと・お金をそれなりに稼ぐこと・困っている人を助けられる仕事が医者以外にあるなら、そちらへ進んでも良いのかなと考えています。

 

──東大生へのメッセージ・アドバイスをお願いします

 

 今の東大生は、すごく真面目に勉強していて、1、2年生のうちから授業以外でも自分のやりたいことにちゃんと取り組んでいる人が多い印象があります。自分が不真面目だったからか僕らや僕らより少し上の世代では勉強の価値が軽視されていた気がしているのですが、東大に来たからにはその環境を生かさない手はないと思いますし、良いことだと思いますね。

 

 人生や生き方について言えば、同級生のSNSを見ていて、将来に希望を持っていない、あるいは生活できないんじゃないかといった内容の書き込みが割と多いなと思います。大学を出て多少友だちがいれば、生活できないことはないし何とかなるよと伝えたいですね。もう少し気楽に考えて、やりたいことをやるのが一番良いと思います。

 

東大建築→大工→結婚→東大理Ⅲ !? 栗林熙樹さんが語る柔軟な生き方とは(前編)

東大建築→大工→結婚→東大理Ⅲ !? 栗林熙樹さんが語る柔軟な生き方とは(中編)

タグから記事を検索


東京大学新聞社からのお知らせ


recruit
koushi-thumb-300xauto-242

   
           
                             
TOPに戻る