インタビュー

2016年6月14日

日本郵便社長に就任する横山邦男さんに聞くリーダーの心得

 現在、三井住友アセットマネジメントの社長を務め、6月には日本郵便の社長に就任する横山邦男さん。金融スマートデータの活用を推進し、ITで金融業界に革新を起こす人物として注目されているが、「投資の世界では人と人との血の通った関係が重要で、社会的責任を果たさない企業は必ず衰退します」と語る人情味あふれる人柄でもある。

 

 企業が果たすべき社会的責任とは何か、そのために経営のリーダーが成すべきこととはなんだろうか。横山さんのビジネスマンとしての感性には、東大での経験が大きく影響を与えているようだ。後編の今回は、東大の思い出と今後の展望を通して、横山さんのリーダー感に迫った。

(前編:スマートデータで金融は変わる? 三井住友アセットマネジメント社長 横山邦男さん

 

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社会に出て気づいた、大学で学ぶべきだったこと

 

−−横山さんにとって東大はどういう場所でしたか?

 

 大学1年生の4月の出来事をよく覚えています。衞藤瀋吉先生(東京大学名誉教授、勲二等瑞宝章)の国際関係論の授業でした。最初の授業で先生が、「君たち、サミュエルソンの経済学の本は、当然高校生のときに読んだと思う。どのくらいの人が読んでいるかな?」と聞いたら、半分くらいの学生が手を挙げました。講義が終わったときに、僕は宮崎弁で「サミュエルソンの経済学ってなんね?」と灘高出身の奴に聞いたんです。そしたら「君はそんなことも知らないのか」と言われた(笑)。

 

 僕は県立宮崎南高校の出身だったんですが、当時、宮崎県から東京大学には10人くらいしか行かなかったんです。だから地元の宮崎日日新聞には、「東京大学に10人合格」とデカデカと乗る。そんなところで生まれ育って、鼻高々で東大に来た。そしてここで現実を知ったんです。

 

−−4年生のときに留年したと伺いました。

 

 前期教養課程を終えて経済学部に進学してから、2年間経済を勉強しましたが、十分学べたという気がしなかったんです。まだ社会に出たくないという気持ちもありました。もう1年勉強して、自分が何をやりたいのかを見極めたかったんですね。

 

 かと言って、留年したおかげで十分経済学を学べたわけでも、何かが見えてきたというわけでもありませんでした。むしろ今でも僕が悔やんでいるのは、経済学部に入る前の前期教養課程で、文系・理系の垣根を超えてもっと学んでおくべきだったということです。

 

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 あのときは感じなかったんですけども、社会に出て思うのは、自分の専門を決める前に、人生の柱になるものを学ぶことの大切さ、つまりリベラルアーツの重要性です。欧米の金融界のエリートから彼らの学歴を聞くと、学部では歴史とか哲学とかを学んでいて、金融を学んだのは大学院以降、ビジネススクールや職場でというのが普通なんです。若いうちに養われた教養や知識が、人の高潔さや真っ直ぐな背骨みたいなものを作るということを、彼らはよく知っています。

 

 

「知」が養う「高潔さ」

 

−−前期教養課程で学んでおけばよかったと思う分野は何ですか?

 

 哲学や歴史ですね。今の世界や日本がどのように作られてきたのか、自分は今まで20年間どう生きてきたのか、この社会で人生をどう生きるべきなのか、それを見つめ直すことにもっと時間を費やすべきでした。

 

 学生の時には、社会でどんな能力が必要とされるかなんて分からないと思います。僕らの世代は、銀行に入るのは法学部や経済学部の学生ばかりでしたが、学部レベルで学んだ法学や経済学は、銀行ではあまり役には立ちません。

 

 学生のときに学んで欲しいのは、会社で役立つことではなく、たくさんの視点を得るための学問です。それは、何が自分に向いていて、どのような社会的使命を自分が果たすべきかを判断するために必要になります。新しいマーケットを作り、50年後の世界を作るような独創的な発想は、分野を超えてたくさんの学問を学んだ者にしか訪れません。

 

 そういった幅広い教養が、人の高潔さを育むんです。人の高潔さは、お金の財産の上に現れるのではなく、知の財産の上に養われます。私は東大出身で高潔さのない人間は許せないですね。東大で養った知の財産を、社会のために役立てることを考えてほしい。

 

 

日本郵便で果たす社会的使命

 

−−社会的使命といえば、6月から社長に着任する日本郵便や、その親会社である日本郵政は、郵便という公益性の高い事業を担っています。

 

 そうですね。社会的使命を果たすというのは、社会と共生するということです。それが日本で一番可能な企業が日本郵便だと思っています。郵便は、日本国民誰もが利用したことがある。田舎のお爺ちゃんやお婆ちゃんは、銀行や証券会社には入りにくいですけど、郵便局は身近ですよね。

 

 離島に手紙やゆうパックを届けるのは、確かにコストがかかります。しかし、こういった公益性の高いサービスがあるからこそ、お客様から信頼されている。収益は他の分野であげればいいんです。僕は日本郵便を、日本で一番愛される企業にしたい。

 

 

−−郵便以外の分野で収益を上げるというと、どのようなものがあるのでしょうか。

 

 例えば、どこの都市も、大きな郵便局は駅の近くにありますよね。これは、昔、鉄道で郵便を届けていたからです。たとえば、丸の内にある東京中央郵便局と東京駅との間には、大正時代に作られた赤レンガの地下通路がありました。郵便物を駅まで電気機関車で運んでいたんです。

 

 そういった駅近くの不動産を活用した再開発事業で、地方を活性化していきたい。KITTEという商業施設を、丸の内に続き、博多(4月オープン)や名古屋(6月オープン予定)にも作っています。僕は宮崎出身なので、地方の活性化には強い思いがあるんです。

 

 金融とITの話をしましたが(前編:スマートデータで金融は変わる? 三井住友アセットマネジメント社長 横山邦男さん)、手紙やはがきというものも、ITとうまく融合させて行きたい。それは同時に、文字を書くというアナログな文化の再興にもつながります。ラブレターを書くとかね。自筆はその人の性格が見えるじゃないですか。

 

 

−−日本郵便は、約20万人の従業員を抱える企業です。三井住友アセットマネジメントでは、若手社員の提案を取り入れて「金融スマートデータ研究センター」を立ち上げられましたが、社員との関係で心がけていることはありますか?

 

 よく、若い人ばかり可愛がりすぎだと批判されることがあります(笑)。僕は、若手社員とランチミーティングをよくやるんですが、これは若手社員が僕の知らないようなことをよく知っているからです。人間には能力の限界がありますから、自分の知っていることはどうしても偏ってしまいます。自分の世界以外のことを知るためには、ダイバーシティ(多様性)を活用していくしかない。

 

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 また、アンテナを広く張り巡らしておくことも、常に心がけています。自分の産業の役員クラスの人とばかり話していると、常識が非常識になっていきます。職業や世代を超えて交流し、幅広い視野を持っていないと、正しい経営判断を下すことはできません。

 

 社長に対して悪い情報は入れたくないというのが社員の普通の心理なので、大きな会社はどうしても情報が澱んでしまう。そうすると、先進的な発想も、社長や役員まで届いてこないんです。社長はネガティブな情報だろうがポジティブな情報だろうが、生の情報を自分で見つけに行くことが求められます。

 

 日本郵便は、従業員数が約20万人、郵便局の数は約2万4000です。そういう大きな企業では、より一層、自分で生の情報を取りに行くこと、社員に話をさせることが、経営判断を間違えないために大事になってきます。

 

 三井住友アセットマネジメントで、やる気のある若手社員の意見が「金融スマートデータ研究センター」に結実したように、日本郵便でも社員と豊かな関係を結んで、社会的使命を果たしていきたいですね。

 

(文責:須田英太郎、 写真:千代田修平)

この記事はGCLプログラムと東京大学新聞社の共同企画です。

前編:スマートデータで金融は変わる? 三井住友アセットマネジメント社長 横山邦男さん

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