東大は、関東以外の地方出身が比較的多い。東京大学新聞社が2014年度学部入学者全員を対象に実施したアンケートによると、出身校の所在地に関する質問で「近畿」「中部」「九州・沖縄」「中国・四国」「東北」「北海道」の合計は40%を超えた。一方、各大学発表データによると早稲田大学と慶應義塾大学は約25%で、東大より少ない。
東大合格者が多い高校としては首都圏の有名校がよく話題になるため、地方の高校の実態が知られる機会は少ない。しかし地方にも東大合格者が10人を超えるほか、科学オリンピックで顕著な成績を上げるなど成果を出している高校は多い。この連載では、東京から離れた地域で多くの東大合格者を輩出する高校を取材した。
―――――― 熊本県立熊本高校は、14年度は東大に18人(うち現役9人)、13年度も19人(うち現役13人)と例年九州の公立高校でトップクラスの合格者を出す共学の進学校だ。1学年の生徒数は約400人。1時限が65分と長く、文理のコース分けが3年からと比較的遅いなどの特徴がある。 毎年9月に3年生を中心に体育祭、1・2年生を中心に文化祭が行われ、7月には他の学校ではあまり見られない水泳大会が行われるなど行事も盛んだ。夏休みの英イートン校でのサマースクールにも1年生を中心に20~30人と、多くの生徒が参加する。熊本高校の東大合格者が多い理由について、進路指導主事の小坂和海教諭に聞いた。
――熊本高校の特徴は
勉強にしろ行事にしろ、大抵のことは自分たちでやることでしょうか。本校では伝統的に「勉強させられている」という感じはありません。九州の公立高校では一般的な午前7時台からの課外授業もありません。わざわざ課外授業をしなくても生徒は自分で必要な勉強ができています。進路選択も自分の意思をしっかり持った生徒が多いです。
――14年度の入試をどう見るか
14年度は旧課程最後の入試でしたが、生徒にそれを理由とした焦りは感じられませんでした。東大合格者数も例年通りといった感じです。東大以外では京都大学が13年度の7人から14年度では21人と、3倍になりました。新幹線の開通で関西が身近になったのが大きいでしょう。 最寄りの旧帝大である九州大学が59人と多いですが、郊外の伊都キャンパスへの移転の影響で以前より人気がないように思います。最寄りと言っても熊本の自宅から通うのは現実的ではないので、旧帝大レベルを目指す生徒は思い切って九州を離れ、東大などを受験することも多いですね。
――14年度入試では、地方の優秀な受験生の多くが地元の医学部を受験したという報道が多くの雑誌などでみられるが
数年前から医学部人気は確かに高まっていますが、東大志望層が流れたということではないでしょう。確かに本校は入学時点で医学部志望者が生徒の約4分の1と多いです。しかし医学部は、入学すると将来の職業までほぼ決まってしまうという点で特殊だと思います。志望者は自分の医療への適性を考えて最終的な進学先を決めるため、実際に医学部を受験するのは入学時点の志望者の約半分です。医学部から東大に志望を移す生徒もいますね。 東大と地方の医学部を並べた報道は多いですが、実際の合格ラインは東大の方がかなり高いです。どちらも合格できるような生徒が必ずしも東大を避け、医学部を選ぶということはありません。
――東大受験を後押しする取り組みはあるか
希望者を募り、オープンキャンパスに参加させるくらいですね。特に東大だけを取り上げて勧めるようなことはしませんが、それぞれの学力を考えた面談などを通して東大志望者は増えることが多いです。例年入学時点での東大志望者は30人程度ですが、受験勉強が本格化すると40~50人に増えます。 外部模試もうまく利用して自分の客観的な学力が分かるようにしています。熊本は同じ九州の福岡や鹿児島と違い、東大に何十人も合格するような私立校がないので全国各県トップレベルの公立校と学力を比較することが多いです。
――16年度から東大は推薦入試を導入するが
本校から推薦できるのが最大男女2人ということもあり、あくまで補足的なものとして専用の対策をするつもりはありません。東大も推薦入試に特化したコースで対策してきた生徒の受験を望んでいるわけではないでしょう。 推薦条件を見ると、ある分野に極めて優れた才能を持ちながら、今まで東大を受験しなかった生徒の発掘を目指している印象を受けます。東大が求めるような能力を持つ生徒で、今まで東大受験を考えなかった層がどれほどいるのかは疑問ですが。
――東大に求めるものは
東大から近づいてきてもらい、地方の生徒にも身近な存在になることでしょうか。東大生に気軽に相談できるなど、東大を身近に感じられる首都圏の高校が有利なのは事実だと思います。東大が地方出身者を求めているとはよく聞きますが、本当に欲しいなら九州まででも来てほしいです。具体的には研究者の講演をより頻繁に開くなどですかね。特に親元を離れることが少ない女子向けの、女性研究者の講演は参考になると思います。
(取材・文 小原寛士)
【躍進する地方高校の実態】