東大の特徴である進学選択制度。後期課程の情報が足りないと感じ、迷っている2年生もいるだろう。本企画では、各学部の4年生に進学した理由、学部での授業、学生生活について話を聞いた。3S1タームの時間割も参考にし各学部の全貌をつかんでほしい。今回は、法学部・経済学部・文学部について紹介する。(取材・市川智也、近藤拓夢)
文Ⅰ→法学部第1類:「特徴のない」ことで広がる選択肢
高校生の頃、ぼんやりと国家公務員になることを考え、文Ⅰに入学。前期教養課程では、法学の勉強にやりがいを感じ、多くの文Ⅰ生と同じく法学部第1類(法学総合コース)と第2類(法律プロフェッション・コース)で迷った。第1類への進学を決めたのは2Aセメスターのことだった。
コースの特徴は「特徴がないこと」だと語る。実定法などの必修が少なめで、履修の自由度は法学部の他のコースより高い。ほとんどの人は、必修以外の時間割を自分の興味がある授業で埋めており、イスラーム法などニッチな科目を含め、さまざまな内容を学べる。10単位を限度に、他学部の授業の履修も可能。また、第3類(政治コース)とは違い、卒業にリサーチペイパーを必要としていない。当初公務員試験を受ける予定だった池畑さんは、授業を幅広く選べたことがその準備に役立ったという。
法学部の人間関係は「うわさ通りの砂漠」であり「法学部に入ってからは新しい友達ができてない」と振り返る。授業は一方通行で、成績は試験一発勝負で決まるため、出席率が極めて低い。一方、演習(ゼミ)は少人数で、教員との距離は近いが、新型コロナウイルス流行の影響でゼミの対面出席もほとんどなくなり、人間関係はさらに疎遠になりつつある。
授業によって膨大な量の資料を読む必要があるため、予習に時間がかかる場合がある。また、授業内容を書き起こした「シケプリ」を法学部生同士で作成する伝統がある。授業に出席しない学生は、シケプリを用いて試験勉強することが多い。池畑さんは、期末試験の1カ月半前から復習を始めているというが、2カ月前から始める人も。授業の負担はそれほど大きい。
法学部の履修システムは複雑な部分もあり、注意が必要だ。例えば、4年生で必ず12単位を取得する必要があり、資格取得やインターン、就職活動に時間をかけたい人にとっては負担になり得る。
法曹志望者が多い第2類や、政治学を志す人が選択する第3類に比べて、第1類は民間志望から公務員志望まで志望する進路は幅広い。存分に迷いを待ってくれる環境であるからこそ、多様な進路に進む結果が生まれるのかもしれない。
文II→経済学部経済学科:実用性では測れない経済学の面白さ
高校生の頃から経済に興味があり、経済学部への進学自体は入学前から決めていた。経済学科への進学を選んだのは2年次になってからだ。
一言で経済学とは言っても、その中身は企業統治(コーポレートガバナンス)やマーケティングといった実用に直結しやすい分野から「経済とはそもそも何か」を問う理論的な分野までさまざまだ。経済学部に設置されている三つの学科のうち、数学を使う授業が特に多いのが金融学科で、経営学科では企業で活用できるようなマーケティングを中心的に学習できるという。
経済学科に所属する石坂さん自身は、さまざまな時代の経済の歴史に触れられる経済史や「お金はなぜ価値を持っているのか」を学ぶ「上級世界経済Ⅰ」や財政論を扱う「財政Ⅰ」、国際貿易論を学ぶ「国際経済Ⅰ」など理論的研究に関する授業を中心的に受講。前期教養課程で受講した「経済Ⅰ」や「数学Ⅰ」などの学習内容は、2Aセメスターで受講した、経済学部の全学科共通の必修選択科目などの内容に直結したという。
将来直接役立つというより「好みにもよるけど、授業が面白いということが経済学科の一番の魅力だと思います」と語る石坂さん。理論的な内容は一見実用的でないようにも思えるかもしれないが「経済はどのように生まれたのか」「1000年単位で経済がどのように変化して、どのような影響を社会に与えてきたのか」といった内容の経済学科の授業は興味深いという。例えば経済史の授業では、共産主義や昔の資本主義といった、現在とは異なる経済システムに触れられる。それらを理解し、想像するのはとても面白いとのこと。経済学科の選択必修は他の二つの学科よりも経済史が多いことから「経済だけではなく、歴史も好きな人には経済学科は向いていると思います」。ただ、それぞれの学科に設置されている選択必修科目同士に共通する授業が多くあることから「学科間の差はそれほど大きくないんじゃないかな」とも語る。
周囲に英語が得意な人が多いことから、進路としてよく耳にするのは英語力を生かせるコンサル業界。石坂さん自身もコンサル業界に進むという。
文III→文学部人文学科日本語日本文学専修:自国の文学に触れ、感受性を涵養する
高校時代から古典が好きだった武元さん。大学入学前から海外で活動する舞台演出家を進路として考え、現在はモデル活動などを通したアーティスト活動を行っている。進路選択の決め手は、自国の文化を知り将来の強みとするためだ。『源氏物語』など中古文学(平安時代の文学)を専攻し、崩し字を読むための勉強にも取り組む。
最も重要な演習の授業では、割り当てられたテキストを現代語訳し先行研究を要約した上で、独自の論点を構築して議論をする。さらに、各分野の最新の研究について学びを深められる特殊講義という授業もある。『古事記』から太宰治に至るまで専門とする時代の異なる6人の教員が、同じテーマでそれぞれの時代について語るという授業に特に興味を引かれたという。武元さんが受講した2019年のテーマは「文学と性愛」だった。「鋭く刺激的なテーマで時代ごとの話を聞けるので、大変面白かったです」。昨年度退職した渡部泰明教授(当時)の和歌の授業も印象的だった。「和歌が詠まれるのは言葉を尽くす必要のない恋の絶頂期ではなく、むしろ言語化が必要とされる恋愛の成就までの過程と失恋後である」という理論は現代に通ずるところもあり興味深かった、と語る。
文学の研究には「たった一つの正解」がなく、答えは向き合う中で変わっていくので、その流動性を楽しめる人に向いているという。「自分なりの答えを見つけていくことが好きな人には適していると思います」。他学部の学生が読む論文とは趣の違う文学的な論文を読んだり、言葉に誠実に向き合う人と触れ合ったりすることで、日々の行動や季節の移ろいに対する感受性などにも変化が表れる。「文学は目に見える益にはならないかもしれないけど、自分の心の肥やしになるし、内面の充実という点に私は価値を感じています」
周囲には自分が本当にやりたいことに取り組む個性的な人が多く、友人に恵まれたと語る。専修は少人数の分仲が良く、新型コロナウイルス流行以前の19年度は教員や友人と旅行にも出かけていたそうだ。進路は出版・広告業界への就職の他、武元さんを含め院進する人も多い。