東大の特徴である進学選択制度。後期課程の情報が足りないと感じ、迷っている2年生もいるだろう。本企画では、各学部の4年生に進学した理由、学部での授業、学生生活について話を聞いた。3S1タームの時間割も参考にし各学部の全貌をつかんでほしい。今回は、理学部・工学部について紹介する。
(取材・川田真弘、松崎文香、安部道裕)
理Ⅰ→理学部地球惑星物理学科
牧 梨乃(まき・りの)さん
専攻したい分野は特に決めずに理Ⅰに入学、興味の赴くままにさまざまな授業を取っていたという牧さん。自転車部での活動を通して自然と触れ合う中で、1Aセメスターから地球惑星物理学科と地球惑星環境学科の2学科に興味を持つようになった。フィールドワーク重視の地球惑星環境学科と迷いつつも、最終的には2Sセメスターで地球惑星物理学科への進学を決めた。前期教養課程で受けた「地球惑星物理学入門」という授業が面白かったことが現在の学科を選択する一つの理由だったという。
前期教養課程では、進学のための点数はそこまで必要なかったため、点数を狙うよりは、興味に従って授業を履修していた。地球惑星物理学科の良いところは、少人数の学生に対して多数の教員が所属しているため、学生と教員がコミュニケーションを取りやすいところだという。また、新型コロナウイルスが流行する前は、控室を利用して学生間でも交流を盛んに行っていたようだ。五月祭では3・4年生が一緒に展示を行うこともあった。
学科では興味分野にどっぷりと浸かることができる。ただ、大気海洋、固体地球、惑星・宇宙の3分野の単位を取る必要があり、興味がないものを勉強しなければならないこともあるようだ。さらに、単位認定の基準が厳しく、他学部の単位が認定されにくいという。
とはいえ、学科ならではの授業として、実験や実習は魅力的だ。3年次には、「地球惑星物理学実験」と「地球惑星物理学演習」、4年次には、「地球惑星物理学特別演習」が用意されている。特に、3年次の地球惑星物理学演習では、「Fortran」という言語を用いたプログラミングの授業が行われるという。他にも観測実習では、例えば黒潮の流量を測定したり、火山で化学物質の変化量を測定したりするなど、実際にさまざまな場所に足を運んで研究を体験することができるようだ。
進路は例年8〜9割程度が院進し、修士課程修了後は、博士課程、民間企業、官公庁、あるいは学芸員とさまざまな選択肢があるようだ。牧さん自身は、修士課程には進学する予定だが、その後は未定だという。
理I→工学部航空宇宙工学科
馬場 一郎(ばば・いちろう)さん
小さい頃から飛行機が好きで、航空技術を学べる東大を受験した。理Ⅰに入学後、都市工学や建築にも興味を持ったが、最終的には当初の目標だった航空宇宙工学科を目指すことにした。
航空宇宙工学科は進学選択の際に比較的高い成績が要求されるが、馬場さんは1年生の時必修科目「力学A」の単位を落とすなど怠けがちだったという。1年終了時に成績を見返して「このままではまずい」とやる気に火が付いた。2Sセメスターで多くの授業を履修することで全体の成績を上げ、進学選択の第二段階で無事内定を得た。
進学後は航空宇宙工学に関する基礎科目を一通り学んだ後、3Aセメスターからは航空・宇宙機について学ぶ航空宇宙システムコースと、エンジンなどの推進機関について学ぶ航空宇宙推進コースに分かれる。馬場さんは3Sセメスターに受講したジェットエンジンの授業に興味を持ち、推進コースを選択した。コース選択後は、各々の専門に特化したカリキュラムとなる。
授業では「先生が民間企業や政府の大規模プロジェクトに参加していることも多く、国内でどのような研究開発が行われているのか、詳細に聞くことができて面白いです」。一方で、実際にものを作る機会が予想より少なかったことが残念だと話す。「講義が中心で、演習の授業でも図面を描く程度でした」
より実践的な経験を積むために、馬場さんは3Aセメスターで工学部主催の「飛行ロボットプロジェクト」に参加。全長1メートルの飛行ロボットをチームで設計・制作し、飛行実験を行った。他にも、研究室が抱える航空機プロジェクトの実験機体の製作を手伝ったり、3年生を交えて無人航空機を設計・制作・飛行させるプロジェクトのリーダーを務めたりと、主体的に行動している。
4年次の春ごろから卒業論文に取り組み始め、卒業論文が終わる 12月初めから航空機・宇宙機やエンジンについての卒業設計を行う。大学院に進学する人が9割を占め、馬場さんもその予定だ。「工学系や機械系の基礎知識を一通り学習するので、航空宇宙以外の分野に進学する人もいます」。大学院修了後の就職先は重工系から航空宇宙と関係ない業界まで多彩だ。
理I→工学部計数工学科数理情報工学コース
助田 一晟(すけだ・いっせい)さん
高校時代から理数系に関心を持ち理Iに進学した助田さん。前期教養課程では国際系の授業にも関心を寄せ、TLPにも参加した。進学選択の時期になり他学科への進学も迷ったが、ガイダンスで聞いた「普遍(不変・不偏)性を学ぶ」という言葉に引かれて進学を決心した。近年水準が高まる計数工学科への進学に必要な点数を取るために、授業には休まず出席。失敗のリスクがある試験よりも比較的高得点が望めるレポートには丁寧に取り組んだ。外国語で失敗しなかったこともポイントだったと語る。
特定分野に依存しない、情報の概念や技術をベースとした「普遍的な原理・方法論」の構築というのが計数工学科の目指すところだ。「流行のAIや機械学習、データサイエンスなどに使われる数学を学べる学科です。数学や物理が好きな人はどの授業も興味が湧くと思います」
カリキュラムには、数学の諸概念の厳密な定義や議論に重きが置かれる理学部数学科とは異なり、さまざまな定理の証明を高速で扱う科目や、定理や数式が活躍する周辺分野を扱う科目が多い。持ち出し科目では物理工学科と共に物理を学ぶのも特徴だ。
数学の問題を解いて発表する授業では、レベルの高い同期から刺激を受けたと助田さんは振り返る。工夫を凝らして教員に勝るとも劣らない解説をする学生や、問題に関連した話題まで解説する学生もいたという。実験の授業ではオープンソースを使い、画像認識や音声認識をするシステムを構築している。「私の所属する数理情報工学コースの実験は、普段座学が大半を占める分、手を動かしてプログラミングやものづくりをすることを重視する授業です」
学科には学問に意欲的な学生が多く、授業外に5、6人で自主ゼミを開いて専門書を輪読している同期も多いという。助田さんも課外活動として、計数工学科で教壇に立った甘利俊一名誉教授の著書を通読するゼミに参加した。「前期教養課程のときよりも学問に向き合いやすい雰囲気ですね」
計数工学科の大多数の学生は大学院に進む。修士課程修了後は、一部の学生は博士課程に進むが、学んだことを生かして、データやシステム、IT関連あるいは金融関連の仕事に就く人が多い。