東大の特徴である進学選択制度。後期課程の情報が足りないと感じ、迷っている2年生もいるだろう。本企画では、各学部の4年生に進学した理由、学部での授業、学生生活について話を聞いた。3S1タームの時間割も参考にし各学部の全貌をつかんでほしい。前回に続き、教育学部・教養学部について紹介する。
(取材・市川智也、金井貴広)
文III→教育学部教育実践・政策学コース:多種の教育現場 議論で考察
教師以外の道で教育に携わることを高校の進路学習で考え始めた。現場での教育方法学などを学べることに魅力を感じ、教育実践・政策学コースへの進学を念頭に文Ⅲを受験。前期教養課程では自分の関心の再確認するため、教育系だけでなく幅広い分野の授業を履修した。進学選択では別分野も考えたが「興味だけで学ぶなら自分で勉強すればいい」と、初志を貫いた。
コースでは、学校だけでなく地域や図書館の文化・社会活動なども含んだ幅広い教育現場での実践を読み解いたり、制度や政策の検討を行ったりする。扱える範囲の広さは「卒業論文で書きたいことが教育に関係してさえいれば、教員のうち誰かの研究領域と被るはず」だというほど。教員から一方的な知識の伝達が行われる講義形式の授業はほとんどなく、多くは学生間の議論が中心だという。授業はほとんど縛りがなく履修することができ、関心分野に比重を置いた学習がしやすいのも特徴だ。
伊坂さんは学校の教師や授業について関心があり、教育方法学の分野を中心に学ぶ。教員が現場で撮影した映像を見て気付いた点を、学生間で共有する「教育方法学演習」の授業が特に面白いと話す。「ある生徒のことを自分は『控えめで発言しない』と思ったのに対し、別の学生は『熟考している』と評することもあります。同じ映像でも人によって見え方が異なり、議論でそれを共有する中で自らの知見が深まります」
新型コロナウイルス感染拡大の影響もある。例年は実際に学校で観察を行えるが、感染対策のため映像に代えられた。「現場に行くことを楽しみにしていたので残念でした」。また、同じコースに所属していても、例えば教育行財政学を学ぶ人とは授業がほとんど被らないことも多いといい「人付き合いは多くはないです」と語る。
卒業生の進路は公務員を中心に、民間企業への就職や院進と多様だ。伊坂さんは「『日本社会の変容と課題』を受講し、教育格差に問題意識を抱きました。学校の先生としてよりも多くの生徒と関われる教育系の民間企業で、自分の作った教材やカリキュラムを提供したいです」と語る。
文III→教養学部教養学科総合社会科学分科・国際関係論コース:世界を回り、「自分の軸」を探す
高校生の頃からぼんやりと国際関係に興味があり、国際系の職業に憧れていた。進学先を悩んだ末、決断したのは多くの学生と同じく2年の夏。文Ⅲから教養学部後期課程への進学には高得点が必要なため、語学に熱心に取り組んだ他、各科目の勉強時間を確保するため履修する科目数を少なめにした。
国際関係論コースの学生は、国際政治、国際経済、国際法の必修3本柱に加え、その他の準必修科目から必要単位を履修する。コースの特徴は、受講生が固定されたゼミがないこと。代わりに、学生は自ら関心に基づき演習科目を選択する。
教養学部で最も難しいのは、自分の研究テーマを見つけ、研究の際に「明確な軸」を持つことだと三木さんは語る。学生の多くは国際系サークルに所属していたり、帰国子女であったりと、海外に興味を持っているのは共通だ。しかし、総合社会科学分科は教養学科の他分科と比べて人数が多いため「アットホーム感は若干薄め」。研究する地域や興味分野で人間関係が分かれやすい一方で、コースを超えて人脈を広げることもできる。また、教員との距離は比較的近く、レポートの相談などは気楽にできるという。
国際関係論コースの学生のうち半数近くは長期留学を選択するが、3Aセメスターのみ開講されている必修科目があるため、4年で卒業しようとすると必修・卒論・就活が重なり多忙になる。そのため、5年間学部に在籍する人が多数。スペインに3年生の秋から留学していた三木さんも5年で卒業する見込みだ。また、国際関係論コース以外の副専攻科目を勉強する、サブメジャー・プログラムを選択する人もある程度存在する。
各自の興味関心を持つ人が集まる国際関係論コースは卒業生の進路も幅広い。年によっては、民間就職と公務員・独立行政法人職員を目指す人がおおむね同数で、大学院に進学する人が若干少なめになる。民間企業では、コンサルティング会社や商社など、国際的な企業に就職する人がやはり多い。また、内定を得たものの、研究したいとの思いから、大学院進学に進路を変更する人もいるそうだ。
理II→教養学部学際科学科・総合情報学コース:情報学を起点に多様な学び
前期教養課程の「情報」や「アルゴリズム入門」の授業でAI、特に機械学習を学びたいと思い始め、学際科学科総合情報学コースに進んだ。興味のある数学や統計の分野も学べることや、教養学部の他学科科目など専門以外の科目も学びやすく感じられたのが魅力的だった。
2Aセメスターの「統計学」と「統計学実習」の授業で統計学の基礎から最先端に触れ、興味と奥深さを感じた三﨑さん。現在は、道具として使える機械学習と理論的な正しさを保証する統計学を学び「今手元にある限られたデータからできることはないか」を考えていくことに関心がある。
学際科学科には文系寄りのA群もあるが、総合情報学コースは理系寄りのB群に属する。しかし同コースの4年生のうち、約半数は文科出身。「情報学を起点とし、さまざまなことを学ぶ」という総合情報学コースでは、授業や研究の内容も十人十色だ。三﨑さんのように情報を本格的に、理論も含めて学ぶ人もいれば、情報学を用いて人間を理解することに興味があり、センサーから得られた情報を解析して「良い筋トレとは何か」を研究している人もいる。コースの同期と話をして授業や研究の内容を共有すると刺激を受けるという。進路も三﨑さんのような大学院進学のほか、エンジニアやコンサルタント、官公庁への就職と広範だ。
少人数のため、密な教育を受けられるのも学科の特長。学生と教員の距離が近く、質問や面談を行いやすいという。ただし自分からの働き掛けが重要だ。「どの学部でもそうだと思いますが、環境を生かすも殺すも自分のアクション次第」だと話す。
進学前から情報系に明るかったわけではない三﨑さん。高校生の頃は「Wordなどを使うので精一杯でした」。前期課程でもプログラミングなど情報系の授業を多く履修していたわけではないが、2A・3Sセメスター開講の必修科目の履修で後期課程の授業に付いていけた。進学選択について「どこに進んでも、自分が面白いと思うことはきっとあるし、卒業後の進路、就職先まで完全に決まってしまう訳でもありません。開かれた学問の世界から自分が少しでも面白いと思えるものを、自由に遊び心をもって決めてほしいです」