毎年多くの東大生が受験する国家公務員採用総合職試験。国家公務員を志す学生にはもちろん、まだ進路に悩んでいる人にとっても国家公務員自らが語る職務の実情やその素直な感想は参考になるだろう。東大出身者に、現在の省庁を選んだ経緯や担当する業務内容、就活生へのメッセージを聞いた。
(構成・葉いずみ、取材・佐藤健、葉いずみ)
農林水産省(事務系)
現場の近くで日本をより良く
小学生の頃に外交官の存在を知り、国家公務員を意識。東大入学後は法学部に進んだ。大学同期や周囲から日本の将来への諦めを感じる中「日本の課題に向き合い、変える側になりたい」と国家公務員への思いが固まったという。志望を決めた学部2年次から予備校に通い、対策を始めた。
食への関心が強かったことに加え、農林水産業は日本の現状を打開する可能性を秘めていると考え、説明会で職員と心地よく話せたことも決め手となって、農水省を選んだ。農水省の職員は「穏やかな人が多くギラギラ感はないが、内には熱い思いを秘めている」と語る。
所属する大臣官房秘書課では、農水省の総合職事務系の採用を担当。学生との面談、説明会の企画、予備校などの業者との打ち合わせなどを行う。外部と関わる機会が多く、省の代表として対応するため、農水省を俯瞰(ふかん)的に見るようになった。官庁訪問の時期が近づくと忙しくなる一方、夏休みやゴールデンウィークには長く休暇を取れ、プライベートも充実させられている。
2年程度おきに、個人の希望などを基に省内の異動が行われる。以前は米政策を担当する部署に所属。主食用米の消費量が減少する中、生産者が自らの経営判断で麦・大豆・野菜などのより需要がある作物を生産できるよう、米以外の作物に転換する支援などを行っていた。
理系も含め、さまざまなバックグランドを持つ職員がいる。入省後の教育も充実しており、法学部出身でなくても法律について十分な知識を身に付けられるが、法学部での学びを通して法的な思考が身に付いていたことは役立った。社会人になる前にさまざまな現場に赴いたことや、内々定後に米国に短期留学し、世界から見た日本に触れたのも学生時代に経験して良かったことだという。
農水省での目標は、農林水産業を魅力的な産業へと変えていくとともに日本の食を世界に広めること。農林水産業は斜陽産業と思われがちだが、ロボットなどの先端技術を使ったスマート農業や輸出の拡大といった今までにない在り方で、日本を引っ張る産業にしたいと語る。現在は、国際交渉や輸出に携わるために留学も検討している。
農水省は他の省庁に比べ「現場により近い」ことが特徴。農林水産業や食品関連事業も含めた業界全体を所管する農水省は、人々の意見を集約し、公平性を保ちながら国として適切な政策を作り、伝えなければならない。そのため周囲との関係を構築し、信頼してもらう人間力が求められる。「泥くさく仕事をして、皆さんに納得していただいて初めて進められる部分があります」。落合さんも出張の際にJAなどと意見交換をする。時にはプライベートでも農家に話を聞きに行くという。
民間企業では利益や営業成績に左右され実行が難しい、日本を良くするための「あるべき論」のみを考えられる点は国家公務員ならでは。「日本の課題そのものに向き合えることがやりがいです」。労働環境や待遇面の改善も進んでいるため、これらを理由に国家公務員を諦めないでほしいと伝えた。
農林水産省(技術系)
同僚や現場の人とのつながりの中で
周囲の友人に影響され「せっかくなら自分もチャレンジしよう」と、学部4年次に総合職試験を受験した。試験区分は「農業科学・水産」を選んだため、農学部での学びや院試対策の勉強が生かされた。合格後は一旦修士課程に進学し、修士2年次に官庁訪問をした。
修士課程では農学生命科学研究科の育種学研究室に所属。稲の胚と胚乳の大きさの比率が、遺伝子レベルでどのように決まっているのかを研究した。研究と現在の仕事に直接の関連はない。しかし実験と考察を繰り返して身に付いた論理的思考や、研究成果を伝えるための説明と資料作成の技術は現在の仕事にも活かされているという。
官庁訪問では、生活の大事な基盤である農業を通じた社会貢献をしたいと考え農水省を検討。業務内容に加えて働く人にも引かれた。「仕事に誇りと責任を持ち、楽しそうに働く姿を見て農水省に決めました」現在は農業経営に関する企画立案を行う経営局経営政策課に所属している。課の窓口担当を務め、課に任された業務を課内で調整し成果物をまとめる仕事をしている。
6月の取材当時は、同15日に閉会した通常国会で成立した農業経営基盤強化促進法等の改正法案に関する業務を行っていた。法改正により「人・農地プラン」の取り組みが法定化される。農業者の減少の加速化が見込まれる中、生産の効率化などを通じた農業の成長産業化に向け、農地の集約化などを進める必要があることから、改正法では、市町村ごとに将来の農業や農地利用の在り方を話し合い、それを基にした「地域計画」を定めるものとしている。現場周知のために、資料作成などの説明会の準備を行っている。法律の具体的内容は現場の声も聞きつつ確定させるため、対面での現場訪問も行っているという。
特に大変な業務は拘束時間の長い国会対応業務。ただ入省時の6年前と比べると国会議員の質問が各省庁にすぐに提出されて、質問待ちの時間が短縮されるなど改善しつつあると話す。
仕事の魅力は法改正などの重要な決定に関われる点だ。議論が活発で相談もしやすい環境も好きだという。「困ったときは詳しい人が親身に相談に乗ってくれて。人と人とのつながりの中で働いています」。一方責任が重く、知識不足を感じることも。所属部署以外の知識を踏まえつつ広い視野を持つ必要性があると話す。
今後は知識と語学力を一層身に付けて国際関係の仕事をすることが目標。入省2年目で就いたポストで国際会議を担当したものの、知識と語学力不足で歯がゆさを覚えた。「現在7年目でポストは三つ目。今後いろいろなポストを経験して視野を広げ、より良い判断ができるようになりたいです」
業務は省内の職員だけでなく、現場の人ともコミュニケーションを取りつつ進めるため、話すことが好きで好奇心旺盛な人に向いている。山口県への出向時に平松さんは毎日現場の人と話したという。「私自身何が自分に向いているのか毎日悩んでいました。説明会などに積極的に参加し、自分に合うのは何なのか考えてみてください」
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