駒場で学ぶ学生なら一度は利用したことがあるだろう駒場図書館だが、その掲示物などに登場する、図書館をかたどったマスコットキャラクター「こまとちゃん」について、知られていないことも多い。またその歴史や、蔵書はどのような基準で選ばれどれくらい増えているのか、グループ学習室と対面朗読室の活用法など、図書館自体についても謎が多い。これらの知られざる秘密について、駒場図書館図書館サービスチームリーダーの武笠まゆみさんと、図書館サービスチーム利用者サービス担当でこまとちゃんのイラストや漫画を執筆している「画伯」さんに聞いた。(取材・小原優輝)
キャラクターグランプリで入賞 表情豊かなこまとちゃんの魅力
──こまとちゃんの魅力・チャームポイントは
画伯 しゃべれるところです。ゆるキャラはしゃべらないことも多いですよね。図書館の広報をするキャラとして、しゃべれる設定が役に立っています。
──表情が豊かなところも魅力と感じます
画伯 そうですね。イラストレーターに頼むのではなく、一職員がその場で描いているので、表情のバリエーションを豊かにできるのは利点です。
武笠 図書館サービスを担当している職員が描いているので、業務とキャラクターが直結しており、例えば駒場図書館の蔵書以外の本も一緒に返却されるなど、実際の経験に基づいた「あるあるネタ」などを盛り込めているのも魅力だと思います。
画伯 あとは、図書館の形がそのままキャラクターになっているというのも面白いですね。
──こまとちゃんの「腹黒な天真らんまん。ドタバタ系がんばり屋さん」という性格はどのように決めたのですか
画伯 最初は決まっていなかったのですが、私が描くようになったときに自然とそうなりました。ただかわいいだけだと特徴が弱い気がしたのと、かわいいキャラは他にもいるので。
こまとちゃんは図書館側でもありながら、利用者側の意見も言えるキャラでもあってほしいので「好き勝手なことを言うキャラ」みたいな言動をさせていたら結果的にそうなりました。
──こまとちゃんの体の大きさは
画伯 基本的には駒場図書館の建物そのものがキャラクターになっており、本が増えて体重が重くなるなどの設定があるものの、作劇上の都合でその設定を無視して図書館内に現れることが結構あります。大きさの設定は曖昧ですね。館内ではどこにでもいてどこにもいないという感じです。
──今までにどのくらいこまとちゃんを描きましたか
画伯 漫画だけでなくイラストやポスターも描いているので、200、300点は描いていると思います。
──こまとちゃんの誕生の経緯は
武笠 当時の担当者に確認したところ、2005年度に利用案内をリニューアルするにあたり、表紙を図書館の写真ではなくキャラクターにすることで、利用案内の内容を大きく変えたことが伝わりやすくなるのではないかと思い、建物をベースにキャラクターを作成したというのが誕生経緯だそうです。当初はイラスト1点のみを使用していましたが、2014年に「画伯」が引き継ぎ、当初のイラストに加えて、新しく描き足して現在に至っています。
──駒場図書館にとってのこまとちゃんの役割は
画伯 イラストや掲示物にこまとちゃんがいることで、「これは駒場図書館の物なんだな」と認識してもらえるのが一番大きな役割です。
武笠 しかも、図書館の形をしているので、なおのこと「図書館の広報だ」と分かりやすい。
画伯 あとは、X(旧Twitter)では絵が付いている方がインプレッション数が伸びるので、こまとちゃんがポスト(旧ツイート)の中にいてしゃべることで、皆さんに図書館のお知らせを見てもらいやすくなるというものもあります。
以前にはこまとちゃんの缶バッジなどを製作したこともありました。そういったノベルティーの素材になるというのも役割の一つですね。
──こまとちゃんのグッズ販売の予定は
画伯 図書館としては、予算をグッズ作成よりも本の購入に費やしたいと思っています。ですが、要望の声があれば作るかもしれません。
──こまとちゃんの活躍で印象に残っているものは
画伯 やはり、2015年に図書館総合展の「図書館キャラクターグランプリ館の働き者部門」で入賞したことです。私は絵を描いただけで、発表の資料は職員が総出で作りました。
大学図書館のキャラクターは公共図書館に比べてあまり外部に出ないものなので、総合展でこんなキャラクターがいると紹介でき、評価も頂けて、学外での活躍の機会ができたのが印象に残っています。
あとは、駒場図書館の公式サイトに載っている図書館の使い方の漫画「駒図のルールあれやこれ」を描いたことも印象に残っています。
──こまとちゃんを描くのは楽しいですか
画伯 それはもちろん楽しいです。描くのも、こまとちゃんが漫画の中で騒いでいる様子を見るのも好きですね。
──学生には、こまとちゃんにどう接してもらいたいですか
画伯 こまとちゃんが掲示物などの中にいるのを見て「ああ、駒場図書館の物なんだな」と思ってもらえれば広報の役割は果たしていると言えるので、それくらいで大丈夫です。
研究も学習も手厚くサポート 駒場図書館の秘密
現在の駒場図書館が開館したのは2002年。それよりはるか前の旧制第一高等学校の時代、現在の駒場博物館が図書館として利用されていた。
一高が東大教養学部となった後の1969年、現在のアドミニストレーション棟の位置に教養学部図書館が竣工(しゅんこう)し、前期教養課程生が利用した。後期課程生や教員・大学院生は8号館の教養学科図書室などを利用していた。教養学部図書館が資料の増加で手狭になり、さらに前期教養課程の学習用・後期課程の研究用で別の場所に分けられていた資料を統合する必要があったため、駒場図書館が開館した。
そんな歴史を持つ駒場図書館の蔵書は、2002年の約57万冊から、毎年約5000〜1万冊ずつ増加してきた。現在は約71万冊にまで増えている。昨年度は、総受け入れ冊数約6500冊のうち、寄贈は約1400冊だった。受け入れているのは駒場にいる利用者の研究や学習で利用されるような資料であり、既にある資料や、寄贈者自身の小説・エッセイは基本的に寄贈されても断っている。
図書館側で修理ができないほど破損した本や、内容が古くなった本、2冊以上ある本、他の東大図書館に所蔵がある本などは廃棄している。しかし、希望する学内の図書館・室や国立大学の図書館に譲渡するなどして、できるだけ再利用するように努めているという。
数ある蔵書の中には貴重なものもあり、森鴎外の論文や夏目漱石の書き込みがある本、江戸時代に出版された本や、研究者が収集した資料を文庫としてまとめたものなどがある。これらは申請をすれば原本を閲覧することができ、また東京大学デジタルアーカイブズで画像を公開していて、手軽に閲覧が可能である。
図書館は資料でほぼ満杯になりつつある。利用頻度が少ない本を入れる図書館外の保存書庫の余裕もなくなってきている。増加する資料の配架場所の確保と閲覧席やラーニングコモンズの拡充を目指し、II期棟を作る計画が進んだという。工事期間は25年度〜26年度を見込み、地上4階・地下1階建ての建物となる予定だ。
所蔵冊数は増え続けているが、コロナ禍の影響で、貸出冊数と入館者数は減少した。昨年度には、貸出冊数はコロナ以前の数字にほぼ戻ったものの、入館者数は8割程度にとどまっている。一つの仮説であるが、コロナ以前は授業やサークル活動がなくてもキャンパス内の図書館に立ち寄る人がいたが、現在ではそのような人が少ないのが原因かもしれないという。
駒場図書館の特徴は、本の貸借など研究のための機能だけでなく、閲覧席を広く確保したりグループ学習室・対面朗読室を整備することで、学習機能にも力を入れている点にある。本郷キャンパスの総合図書館には及ばないものの、閲覧席は約1100席あり、東大内の他の部局の図書館よりも設備が充実しているという。
2階にあるグループ学習室はカウンターで申請すれば利用できる。ゼミや勉強会のために今も使われており、授業期間中にはある程度利用されているという。
対面朗読室の利用にはバリアフリー支援室への申請が必要だ。最近では電子書籍に音声読み上げ機能が搭載されてきていることもあり、利用が少なくなっているものの、拡大読書器や点字の辞書が室内に設置され、視覚に障害を持つ人が資料を読む際の利用を想定している。
前期教養課程の学生と後期課程生や大学院生を含めた全ての学生が利用する場として、研究・学習のための資料が幅広い分野にわたって存在しており、学習設備も整っている駒場図書館は、駒場で学ぶ学生のあらゆる「学び」を支援することに特化した図書館だと言えよう。