学術

2017年1月12日

【KomabaTimes①】日本におけるジェンダー論

 本シリーズは、東大の「PEAK(教養学部英語コース)」の学生有志らで運営されている「Komaba Times」との連携企画です。

 以下は、Komaba Timesに掲載された記事”Discussing the Female Gender in Japan“の和訳です。

 


 「『東大美女図鑑』の学生たちがあなたの隣に座って現地まで楽しくフライトしてくれる!」

 

 この金持ちの旅行者たちに美しい東大女子と旅をする機会を与えた旅行会社H.I.S.のキャンペーンは最近強く批判を受けた。これほどあからさまな性的対象化は幸い世間からひどく非難されたが[1]、より深く探ると、このキャンペーンで紹介された女性たちは東京大学のサークル、「東大美女図鑑」の学内と学外で消費される雑誌にも取り上げられていることが明らかになる。彼らの目的は東大女子はただのガリ勉ではないということを表すことであると言われているが、なぜ女性にとって学者のみであることは望ましいことではなく、わざわざ外見にこだわらなくてはならないのか。

 

 これはあくまでも日本社会で見られる女性に関する深い問題の表れである。日本人女生は幼い時期から社会に女性らしさに関する家父長制度的な価値観を押し付けられ、周りの目を気にしながら育っていくのである。女性らの日常的な選択肢はこの過程によって生まれた男性優位な社会規範の反映にすぎないのである。

 

 東京大学の男女比がひどく偏っていることは一般的に知られていることであり、現在女性は全生徒の約2割を占めているのだ[2]。それに対し、教養学部英語コースPEAKの男性と女性の割合はほぼ同じなのである。世界から認めらている名門大学でもこのような割合が見られるのだが、なぜ東大ではこれほどの差があるのか。日本人女性は男性ほと学力が高くないため日本で最も競争力がある大学へ合格できないのか。それとも女子高生は東大へ通うことを自ら拒んでいるのか? それが事実ならば、生徒たちの選択肢は実際に自分の意思なのか、社会的構造概念によって影響されたものなのか問われる。現在東大二年生のある女子生徒は進学選択の際に東大を選ぶか、ローカルな女子大を選ぶか、という悩みを抱えていたことについて語った。大半の日本人男性は自分よりも高いもしくは同じ学歴を持つ女性を好まないため、東大女子は他大学を卒業した女性たちよりも比較的に交際や結婚に恵まれないと言われている。その上、社会から専業主婦であることが女性にとっての理想的な未来だということを教育されてきた女性にとって、名門大学へ通うことは将来に向けて不要なことになってしまうのだ。そのため、日本人女性は東大に受験することを初めから避けるのである。

 

 日本社会をより広い視野で考えると、現状は女性の人権の規制は第二次世界大戦以降存在しないものなのであり、机上の夢を追うことは十分に可能なのだ。しかし日本は男女平等的の面では他社会に遅れているのである。世界経済フォーラムが2015年度に行った研究によると、日本は男女平等に関しては142カ国中101位という、ケニヤやバングラデシュなどの途上国よりも低い順位に置かれ[3]、先進国の中では男性と女性の社会的差が異常に激しいことが示された。日本の労働力の63%は女性であるが、この割合は他の裕福な国々のものよりもはるかに低いのである。7割の日本人女性は一人目の子の出産後、10年以上働かないのに比べ、アメリカではわずか3割なのである[4]。働く代わりに専業主婦になり、家事、子育てや自分の親の世話などを行うのだ。キャリアーウーマンになるか専業主婦になることを女性は自由に選択しているとも言えるが、実際のところ彼女らの決断は社会からのプレッシャーにどれだけ影響や束縛されているのであろうか。

 

 なぜ日本人女性はこのような規範に立ち向かい、与えられた社会的地位を乗り越えないのか。フランス人哲学者シモーヌ・ド・ボーヴォワールによると、女性は従属とともに得るメリットを諦めなくないことが原因なのである。従属の対価として、男性は女性を保護し、これによって生活からリスクをなくすのである。つまり、女性は単に家父長制度的な社会に抑圧されているのではなく、自ら従順な性という役割を求めているのだ。

 

58人の東大女子の取材:三つの選択肢の中で最も望ましいものを聞いた
58人の東大女子の取材:三つの選択肢の中で最も望ましいものを聞いた

 

 この考えは日本女性にも当てはまるようである。「三食昼寝付き」と社員の厳しい生活、どちらかを選ぶのにはあまり深い考えは必要ではない。将来の願望を問われたところ、現在4年生のある東大女子は多国籍企業で積極的に活躍したいと言っていたが、彼女は少数派である。取材した大半の東大女子は専業主婦かパートで働く主婦になることを希望しているようだ。日本では男性が一方的に女性を結婚と子育ての生活へと押しているのではなく、女性たちが自らこの生活を選択しているのだ。

 

 東京大学では女性が入ることを拒否するサークルがいくつか存在することはよく知られているが、衝撃的なのは東大女子の参加を断るサークルの中には他大学の女性たちを歓迎するものがあることである。このような行動は非難され、理事・副学長も生徒への掲示を通して強く注意したが[5]、実際には解消されていない問題である。この問題は未だに家父長制度的で男性優位である社会を反映しているのであり、一見自由なように見える女性たちの決断はあくまでも社会によって植え付けられた規範の表明なのかもしれない。

 

By RongXuan Tan (翻訳:綿貫澪)

 

参考

[1] H.I.S. ‘fly with girls of Todai’ campaign crashes as travel agency assailed. (2016). The Japan Times. Retrieved from
http://www.japantimes.co.jp/news/2016/05/12/national/h-i-s-fly-with-girls-of-todai-campaign-cras hes-as-travel-agency-assailed/#.VziYtpF96hd

[2] Enrollment. (2015). Retrieved May 1, 2016, from http://www.u-tokyo.ac.jp/en/about/enrollment.html

[3] Gender Gap Report 2015: Japan.(2015). World Economic Forum. Retrieved from http://www3.weforum.org/docs/GGGR2015/JPN.pdf

[4] Japanese women and work: Holding back half the nation.(2014). The Economist. Retrieved from
http://www.economist.com/news/briefing/21599763-womens-lowly-status-japanese-workplace-has-barely-improved-decades-and-country

[5] Comment on the Activities of Student Groups(2015). Retrieved from
http://www.c.u-tokyo.ac.jp/eng_site/zenki/news/kyoumu/2015/%28Eng%29gakuseishuchi.pdf

 

【KomabaTimes】

日本におけるジェンダー論

Class of 2019: Lost in transition

駒場のちびっこたち―保育所より―

④駒場寮の記憶

⑤「意識高い」から何が見える?

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