キャンパスライフ

2021年11月15日

委員長が語る、第72回駒場祭の軌跡

 

 11月21~23日と開催が目前に迫った第72回駒場祭。コロナ禍の今も途絶えることなく開催される学園祭の陰には、委員たちの努力がある。そんな駒場祭委員のまとめ役、中山智貴(なかやまともき)委員長(理Ⅱ・2年)を通じて見る駒場祭の姿を追った。(取材・松崎文香)

 

伝統を守り抜き、次世代に引き継ぐ

 

 「どこの大学に入学しても学園祭の運営に関わろう」と受験生の頃から決めていた。高校の文化祭で模擬店の店長を務めた経験から、大学ではたくさんの模擬店や華々しいステージを下支えする運営側に回りたいと考えたという。

 

 入学してすぐ、1年生のうちから運営に関わることができる駒場祭委員会の門を叩いた。一年目の昨年は、委員会公式の企画を立案・運営する「企画局」に所属し、来場者の人気を博した一般企画を表彰する「駒場グランプリ」の運営を担当。初めてのオンライン上でのライブ配信形式の企画ということもあり、機材トラブルなどへの対応に追われた。駒場祭が終わった後も、委員会そして学園祭全体を引っ張る先輩の勇姿が目に焼き付いていた。

 

 先輩たちに何か恩返しできないか──。「一番の恩返しは、先輩たちが守ってきた駒場祭を自分の代も守り抜き、次の代へ受け継いでゆくことだ」。組織の先頭に立ち駒場祭の伝統を守ろうと、第72期駒場祭委員会の委員長に立候補した。

 

 昨年の駒場祭を共に運営してきた仲間を尊敬するが故の葛藤もあった。「自分より優秀に思える人ばかりで『僕がトップでいいのかな』という悩みはずっとありました」。昨年の活動もオンラインが中心だったため、自分のことを知らない人もいる中での立候補となったという。「でも、だからこそ、その優秀な仲間たちと深く関わって自分の手で成功に導けたら良いなと」。正式に就任したのは5月だが、春休み中から次期委員長として委員会を取りまとめてきた。

 

 

 春休み中は執行代となる新2年生で「財務局」、「広報局」といった部局の編成や人員の配置決めを行い、新入生の入学を待った。5月には新たに1年生を迎え、第72期駒場祭委員会が発足した。その後は部局ごとに本年度の大枠を決め、それから委員会企画に出演するサークルへの打診や参加団体に対するサポートの準備といった具体的な活動に入る。

 

 中山は局間の調整や全体の取りまとめに奔走した。「委員長である僕が上から指示を出すという形式にはならないようにしています。あくまで担当者の意見を聞き、各局や委員間の緩衝材のような役割を果たしているつもりです」

 

 そうした部局ごとの業務と並行して、今年の駒場祭のテーマ決めが行われた。「具体的な案だけでなく、方向性などのぼんやりとしたものでも良いからと、委員会全体で意見を募り、ささいな考えも吸い上げて議論を進めました」。何度も会議を重ね、テーマは「動く」に決定した。「テーマが決まった6月はちょうど感染者が増加しており、人と人とのつながりが希薄に感じられた時期でもありました」。だからこそ、テーマはつながりを感じるものにしたい。テーマと共に採用されたロゴデザインは歯車をモチーフにしている。祭に関わる全ての人の想いが、歯車のように連なり、重なり合って「動く」、そんな駒場祭になればと願いを込めた。

 

第72回駒場祭公式ロゴ(画像は駒場祭委員会提供)

 

 

対面開催に引けを取らないクオリティーに

 

 昨年度に続き、本年度もオンライン開催となった駒場祭。昨年の開催期間中は東大生以外のキャンパスへの入構は認められていなかったが、今年は参加団体の構成員と招へい者については学外者の入構も認める予定だ。準備期間中の参加団体の対面活動については、駒場祭委員会の判断ではなく、大学のキャンパス入構規制の方針に準ずる。

 

 当初、委員会はキャンパス内・オンライン両方で企画の公開を行う「ハイブリッド開催」を目指し、東大内の新型コロナウイルス対応を取り仕切る新型コロナウイルス対策タスクフォースと交渉を重ねていた。しかし開催形式の決定が急がれる8月上旬、大学側から現時点で決断を下すならオンライン開催しか認められないと伝えられた。9月下旬まで開催形式の決定を先送りし、ハイブリッド開催の望みを託す手もあったが、運営の実務上の要請や参加団体の負担などを総合的に考え、8月11日にオンラインで開催することを発表した。「新型コロナウイルスの変異株が猛威を振るう中、学生を守らなければならない大学の立場で、ハイブリッド開催を認めることはできなかったと思います。あくまで僕個人の感想ですが、大学には難しい判断を下してもらったと思っています」

 

 先頭に立ち大学と交渉を行ってきた中山はオンライン開催をどう受け止めているのか。「オンライン開催は対面で学園祭を行うのが難しい時の代替案として受け取られがちですが、僕自身は悪いものではないと考えています。一昨年まではオンラインで実行される企画は存在せず、キャンパスに来ることが難しい遠方の方にとっては駒場祭も遠い存在だったと思います。一方オンライン開催では場所による違いは存在しません。特に、金銭的にも時間的にも駒場キャンパスに来るハードルが高い地方の受験生にとっては、東大に触れる絶好の機会になると思います。また一都三県以外にお住まいの保護者の方など、今まで参加が難しかった方にも広く門戸を開けるため、僕はポジティブに捉えています」

 

中山智貴委員長

 

 もちろん、世間的に言われているオンライン開催のデメリットも理解している。「模擬店などは物理的にオンライン化が難しく、またサークルなどが伝統的に行ってきた企画が失われてしまうことは残念に思います」。それでも「手探りの状態で開催した昨年と違い、今年の委員たちには去年獲得したノウハウがあります。オンライン開催2年目となる今年は、対面開催に引けを取らないクオリティーの学園祭を提供できる自信がある。その点は期待していただいて大丈夫です」

 

 新型コロナウイルス感染症流行下では、委員同士のコミュニケーション不足という課題もあった。「駒場祭委員会という責任ある立場で、感染症に対して甘い対応は取れない」。装飾物の制作など限られた活動をごく少数で行う他は、全てオンラインで進められた。例年であれば対面での活動を通じて委員同士の信頼関係を築く中、今年はどのように交流を深めてきたのか。

 

 「例年であれば対面活動の中で、所属する部局以外の人とも自然と関わるものですが、極力オンラインで進めてきた今年は自分の担当外の人と関わる機会が少ないと感じていました」。そこで昨年に提案された「こまっけろファミリー制度」を今年も採用。学年・部局に関係なく選んだ5、6人の委員からなる「家庭」を作り、定期的にZoomを用いた雑談を行うなど、小グループで交流を深めた。ボイスチャットアプリのDiscord(ディスコード)も活用して、いつでも気軽に雑談ができる環境を整えた。

 

企画をプレゼンする委員(写真は駒場祭委員会提供)

 

「委員全員の味方でありたい」

 

 取材当日の10月23日、委員たちは完成した全長10mほどの看板を駒場東大前駅のホームから見える道沿いに設置していた。「委員のみんなも、やるべきことはもう見えてきていると思います。後は自分のやるべきことをひたすら進めていく、そういう段階になってきました」

 

完成した看板を設置する委員たち

 

 この年末に開催されるNHK紅白歌合戦も「第72回」だという。「それだけ長い間、さまざまな状況の中で続けてきた駒場祭を、今年も開催するということにまず大きな意味があると思います。これまでの71回に関わった全ての人がつないできた伝統を守り切ることが僕たちの使命だと思っています。そして、欲を言えばその伝統に新しい価値を加えていきたい。……もっとも、本音ではなんとか大きなトラブルなく無事に終わってくれと願う気持ちが大きいです」

 

 「今年の駒場祭はオンライン開催ですが、去年よりパワーアップした『誰が来ても楽しめるお祭り』を提供できると信じています。駒場祭の公式ウェブサイトを訪れてくださる『来場者』の方には、勉強以外にもさまざまなものを極めた先鋭集団である東大生の本気を肌で体感してほしいと思います」

 

 この半年間、委員長という大役を務めてきた中山が大切にしてきたのは「委員全員の味方であること」だった。「例年だと10万人近くが訪れる大規模なイベントを、200人程度の人数で取り仕切ることの大変さは想像以上です。僕ができることは、多忙な業務に疲弊している人や、何かミスを犯した人がいた時に、常にその人の味方であることです。予算も時間も有限な中、局ごとに職務が違うため、それぞれの理想に基づく衝突は必ず起きます。その衝突を議論に繋げ、二つの意見を昇華させて一つの形にするのが僕の役目だと思っています」

 

 ちぐはぐになってしまった歯車をそっとかみ合わせ、再び回り出すのを見守る。謙虚だが内に秘める想いは誰よりも熱い中山。その熱が駒場祭を「動」かし、人々を歯車の輪の中に取り込んでいくに違いない。

 

 

 

 

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