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2023年2月25日

図書館増築、講義棟新営、1号館改修…… 駒場工事の全貌は

 

 旧制第一高等学校が1935年に東京帝国大学農学部と用地交換をして以降、時代と共にその様相を変えてきた駒場Iキャンパスが再び姿を変えようとしている。駒場図書館の増築計画を中心に、講義棟の新営や、1号館の改修の詳細を探る。(取材・原亘太朗)

 

(表)駒場図書館、新講義棟、1号館それぞれの計画の概要 (取材を基に東京大学新聞社が作成)
(表)駒場図書館、新講義棟、1号館それぞれの計画の概要 (取材を基に東京大学新聞社が作成)

 

★1号館改修・講義棟新営 

文化財的価値を維持した老朽化対策

 

 新しい講義棟は鉄筋コンクリート造の地上3階建て(図1)で21年に解体されたトレーニング体育館の跡地に新営される。目的は改修工事で一部使用できなくなる1号館の代替と駒場Iキャンパスの教育研究環境の充実だ。昨年12月に始まった文化財調査が終わり次第、工事に着手する。

 

(図1)新しい講義棟のイメージ(画像は東大施設部提供)
(図1)新しい講義棟のイメージ(画像は東大施設部提供)

 

 1号館の改修目的は建物の老朽化対策と機能改善。老朽化した内外装の改修と換気・空調設備の増設、非接触対応のトイレの設置などを行う。詳細については利用者の要望を踏まえながらこれから検討していく。はじめに建物の西側の工事を行い、1号館全体が一度に使用できなくなることはないようにする計画だ。

 

 東大施設部の担当者によると、1号館の文化財的価値の維持のために、外壁のスクラッチタイルはできるだけ残して剥落防止対策を中心に補修を行う。内部についても既存のデザインを生かし、エントランスの階段の意匠は大切にする予定だと話した。

 

★図書館増築 

アーカイブ化やアクティブ・ラーニングを推進

 

 昨年10月に駒場図書館は開館20周年を迎えた。この節目に、駒場図書館の増築計画が進んでいる。

 

 既存の図書館の東隣(図2)に増築される「Ⅱ期棟」は地上4階地下1階、約6890平方メートルの建物の予定。今の図書館(8651平方メートル)に接続し、入館は現在の入り口を利用する。100万冊を新たに収蔵できる大規模な書架、グループワーク用エリアである「ラーニング・コモンズ」のほかに閲覧席1000席、そしてプレゼンテーションや小規模なシンポジウムなどが行える「多目的スペース」が設置される。民間企業のさまざまな能力を活用して整備・維持管理を行うPrivate Finance Initiative(PFI)事業として建設される。

 

(図2)新棟は現図書館の東隣に建てられる
(図2)新棟は現図書館の東隣に建てられる

 

 図書館の増築に伴い、総合文化研究科の部局図書館や研究棟の図書室(アメリカ太平洋地域研究センター図書室を除く)に分散する蔵書のうち移管可能なものをⅡ期棟に集約する。これによって研究棟の蔵書スペースは研究・教育のためにも開放できる。貴重資料の閲覧スペースも改善し、デジタル・アーカイブ化を通じてそのオンライン公開を図り、貴重資料の閲覧環境の改善も進める。Ⅱ期棟にはアクティブ・ラーニングの導入をはじめとする近年の教育改革と大学の社会連携といった諸課題にこたえる特徴的な空間が二つ設けられる。

 

 一つ目の「ラーニング・コモンズ」はアクティブ・ラーニングやグループ学習のためのスペースだ。学生個人の座学だけでなく、学生がディスカッションや対話をしながら共に学ぶことが想定されている。複数の机が用意された開放的な空間には、個々に仕切られた学習スペースも併設される予定だ。静かな環境を必要とする通常の閲覧席と館内で併存できるよう、ゾーニングは慎重に行う。

 

 二つ目の「多目的スペース」は教員・学生が学内外の聴衆・視聴者を対象にプレゼンテーションや小規模なシンポジウムなどを開催するための空間だ。最大500平方メートルの予定。社会と大学の接点となり「図書館を通じた社会との連携」が生まれることを図書館関係者は期待する。大学が図書館に適切だと認める範囲で、民間提案・運営の福利厚生スペースも導入される可能性がある。

 

 工事期間中の利用制限は原則として行われず、II期棟と既存の棟の接続部分の工事の時にのみ、最小限の閉館をする可能性がある。それも定例の閉館期間などを使い、利用者に可能な限り不便がないようにするという。

 

背景に図書収蔵や座席キャパシティの問題も

 

 増築計画の背景には現在の図書館の課題と要請がある。第一に、図書館の収蔵キャパシティの限界がある。配架スペースが限られている中、毎年新しい図書・雑誌を購入しているために、駒場図書館の収蔵冊数はその物理的な限界が近づいている。一つの推計だと、2030年前後には現在の図書館の書架がいっぱいになり、新しい蔵書を受け入れることができない状態に陥る。このシナリオを回避するために書架を増やすことが喫緊の課題だ。

 

 第二に、閲覧座席やグループでの学習場所の不足も深刻だ。特に試験期間には図書館の利用者が急増し、閲覧席を確保できない学生も発生する。グループ学習室も1室しかなく、ディスカッションやグループ・ワークを多く取り入れたアクティブ・ラーニング型の授業に適応できていない。

 

 第三に、大学の社会連携が進められている中、社会と大学の接点としての図書館機能を充実させることが要請されている。プレゼンテーションやワークショップのための空間を構築することで、教員・学生が研究の課題を社会から発見し研究の成果を社会に還元するなど、社会との交流の場を作ることも今の駒場図書館の課題だ。

 

 これらの要請を踏まえた図書館の機能強化は、21年度に藤井輝夫東大総長が発表した大学の基本方針「UTokyo Compass」にも沿うと駒場図書館長を務める石田淳教授(東大大学院総合文化研究科)は話す。石田教授は総合文化研究科図書委員会新駒場図書館検討ワーキング・グループの主査として本計画に携わってきた。

 

 石田教授は駒場図書館の目指すものとして「学際知型ライブラリー」というビジョンを掲げる。自然科学・人文科学・社会科学の全域にわたる教育が行われるキャンパスで学部前期課程の学生が集い、「ラーニング・コモンズ」では問題関心の異なる者同士が討議を通じて課題への理解を深め、さらに総合文化研究科のさまざまな分野の学術資料がここに集約・統合され、そして、プレゼンテーション、サイエンスカフェ、ブックトークを通じて学外や国外ともディスカッションを行う、このような意味での「学際知の拠点」を築き、それを大学と社会との接点とすることを目指す。

 

 計画の立案は、試験期間に不足が顕著となる閲覧席の拡充やディスカッション可能なグループ学習室不足の解消といった、図書館利用者から寄せられた要望を踏まえて行ってきた。学生の要望を集約して学部と共有したいとする教養学部学生自治会には、2年前に構想の骨格が学部から伝えられているが、個々の学生からも「駒場Iキャンパスライフ改善フォーム」などを活用して意見を聴取することになると聞いている、と石田教授は話す。

 

 2月14日には、新駒場図書館増築の検討に向けた意見募集を駒場Ⅰキャンパスの学生を対象に行うことが発表された。回答期限は3月10日。

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