部活・サークル

2024年9月24日

駒場演劇連載 【劇工舎プリズム】温かな仲間と織り成す静謐な世界観

 

 駒場には、劇団綺畸、Theatre MERCURY、劇工舎プリズム、ESS Drama Sectionの四つの演劇サークルがある。各団体の特徴や、それぞれが作り出す世界観はどのようなものだろうか。連載第1回目となる今回は、9月末に公演を控える劇工舎プリズムに取材した。(取材・宇城謙人)

 

自分たちの手で一から作り出す駒場の演劇

 

 駒場にある四つの演劇サークルの一つである劇工舎プリズムは、およそ40年の歴史がある、主に東京大学とお茶の水女子大学の学生からなるインカレサークルだ。毎年6月から7月の夏公演、9月末の秋公演、2月から3月にかけての新人公演と、計3度の公演を行っている。特徴的なのは9月末に行われる秋公演で、四つの演劇サークルのうち、この時期に公演を行うのは劇工舎プリズムだけだ。夏期休暇を活用して充実した準備ができるという。

 

 公演を行うのは、駒場Iキャンパスの生協書籍部の奥にある3階建ての多目的ホールで駒場小空間とも呼ばれている。駒場小空間には備え付けの舞台や客席、照明や音響の設備がないため、公演ではこうした設備をメンバーが一から設置しているという。

 

 年3度の公演では、2カ月前に脚本を書く人が決まり、1カ月ほど前からメンバーが10のセクションに分かれて活動している。1週間に1度、メンバーが全員参加するスタッフ会議が行われるほか、脚本の読み合わせも頻繁に行う。さらに公演1カ月前からは毎日練習し、1週間前になると駒場小空間を貸し切って練習をすることで、公演に向けた準備を入念に行うという。

 

 何もない駒場小空間に自ら公演の場を作り、多くの稽古や努力を重ねて駒場の演劇は生まれるのだ。

 

公演の直前期には、駒場小空間で稽古の大詰めを迎える(写真は劇工舎プリズム提供)
公演の直前期には、駒場小空間で稽古の大詰めを迎える(写真は劇工舎プリズム提供)

 

演劇を支える10のセクション メンバーが語る魅力とやりがい

 

 各セクションにはそれぞれ、メンバーが感じる魅力が詰まっている。そのうちの一つ、舞台セクションは大道具を制作するセクションだ。駒場Iキャンパスにある槌音広場オープンクラフトで活動するため、セクション員と顔を合わせる頻度が高く、和気あいあいと活動できるのがこのセクションの魅力の一つだと、舞台監督の五十嵐崇人さん(文III・2年)は語る。設計図通りに作成した大道具がしっくりこない時には現場の判断で調節したり、ちょっとしたミスがあっても笑い合ったりと、仲間たちと楽しみながらも力を合わせて大道具を制作できる雰囲気が五十嵐さんのお気に入りだ。大道具が完成して実際に舞台が建った時の喜びはひとしおだという。

 

 劇工舎プリズム主宰の増田友香さん(文III・2年)は音響セクションに所属することが多い。音響セクションは、公演の際に駒場小空間に自ら配置したスピーカーから、作成した音源を流すセクションだ。裏方志望で劇工舎プリズムに入った増田さんは、音響セクションの役職の一つであるオペレーターに魅力を感じるという。実際に劇が行われている間にパソコンを操作して音を流すオペレーターの仕事は、自分が劇の音響を一手に担うという責任感を強く感じる一方で、劇に直接関わる感覚が大きい分だけやりがいを感じられるのだ。

 

 他にも照明、役者、小道具、衣装、映像、制作、ウェブ、宣伝美術のセクションがあり、各セクションではメンバーが友好的に関わり合いながらも心から熱中できる雰囲気の中で、切磋琢磨(せっさたくま)して一つの劇を作り上げている。

 

 各セクションは掛け持ちが可能で、公演ごとに参加するセクションを変えられるため、さまざまなセクションを体験して多方面から演劇に参加できる点がやりがいにつながると、北井直弥さん(理I・2年)は語る。

 

「演劇の魅力を一人でも多くの人に」全員の力を合わせ最高の公演を

 

 他の演劇サークルと比べると、劇工舎プリズムは人数が少ない。しかし増田さんは「そのぶん一人一人にきちんと仕事が回ってくるのでやりがいが持てます。また、劇の世界観が共有しやすく、一体感のある仕事ができます」と誇らしげに語る。

 

 新歓で見た演劇をきっかけに、劇工舎プリズムの魅力にひかれて加入したメンバーたちも。北井さんは、独自の脚本のもとで行い、静謐(せいひつ)な印象の世界観が感じられる演劇に魅せられたそう。今年入舎したばかりのメンバーの中には、宮沢賢治『銀河鉄道の夜』をモチーフにした新歓劇の世界観に引かれて入舎したメンバーも。その根底に通じる世界観が、魅力の一つなのかもしれない。

 

 劇団内の温かな雰囲気の中でメンバーが切磋琢磨しながら作り出す演劇の、独自の世界観で観客を魅了する劇工舎プリズム。9月末に控える秋公演は、入舎2年目のメンバーにとっては執行代として参加する最後の公演となる。五十嵐さんが「自分が舞台監督で良かったと誰かに思ってもらえるものにしたい」と意気込むように、メンバーは最高の公演を行うために日々励んでいるところだ。「駒場小空間は演劇に携わっていない人にとっては馴染みが薄い場所かもしれないけれど、照明や音響を含めて一から作り出す魅力を一人でも多くの人に感じてほしい」と増田さん。9月末の公演では、劇工舎プリズムの作り出す世界観に多くの人が魅了されるに違いない。

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