駒場の前期教養課程の授業は、大半を一方的な講義授業が占め、退屈に思っている学生も多いだろう。しかし中には学生が目を輝かせて参加する、双方向的なゼミも開講されている。今連載ではそんな駒場の熱いゼミの実態に迫る。
「ココロのトリセツ」ゼミ
(取材・上田朔)
「自分のメンタルも他人のメンタルもケアできる人を育てたい」。こう語る細野正人特任助教が実施する主題科目「ココロのトリセツ」は実践に重きを置く。心との向き合い方を学ぶこのゼミでは実際の精神障害の事例が取り入れられ、受講生は実体験とも照らし合わせて議論を深める。臨床例を中心とする学びは「悩みを抱える人の支援者になったとき、相手に合った対処法を考える上で役立つ」と修了生の一人は話す。
ゼミの学習が日常の場面に還元されたという学生も多い。ある修了生は大学で人間関係をつくれず悩んだが「精神的につらい時の、自分の心への対処法を学べた」と振り返る。別の受講生は「例えば目が不自由な人を支援するとき、いきなり手を握っては相手を怖がらせてしまう。人の心に配慮した支援の方法を学んだ」と話した。
授業形態もただの座学ではない。本年度のAセメスターでは100人を超える受講生が4人ほどずつのグループに分かれ、「自尊心」や「生きづらさ」といったお題について議論する。各グループは議論の内容を他の受講生の前で発表し、発表時にはポスターを使うことも多いという。
「アクティブラーニング」を取り入れたゼミは学生からも好評だ。受講生の一人は「自分と他人の意見を突き合わせる機会が与えられることは他の講義にない面白さ」だと語る。「交流を重視」するという細野特任助教はセメスター内に3回以上は外部の講師を招待。政治家秘書や聴覚障害の当事者の家族など、さまざまな講師の話に耳を傾け質問を投げかけることで、受講生は普段会うことのない他者の人生と触れ合う。学生や大人との豊かな交流もこのゼミが学生を引き付ける魅力の一つだ。
受講生は前期教養課程の1年生が中心。昨年度のゼミでは70人ほどが受講を志望し、志望理由書によって約40人が選抜されたという。本年度のAセメスターでは志望者が123人に及び、ついに選抜しきれずそのほとんどを合格とした。
受講生の志望理由はさまざまだ。人間関係の悩みを抱えた学生、精神障害の当事者を親に持つ学生、医者として精神障害の治療に携わりたい学生などがゼミに集まる。「多様な背景を持つ学生をバランスよくとることが選抜時の方針」と細野特任助教。学生の多様性と活発な対話が、100人を集めるこのゼミの活力源なのだろう。
細野 正人特任助教(ほその まさひと)
(総合文化研究科)
精神保健福祉士。10年より、石垣琢磨教授(総合文化研究科)に師事。14年より現職。精神科リハビリテーションの研究と新しい技法の開発に従事している。
この記事は、2018年12月11日号からの転載です。本紙では、他にもオリジナル記事を掲載しています。
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