多くの来場者でにぎわった第75回駒場祭。駒場Ⅰキャンパスは平常の授業時には見られないほどの人で埋め尽くされたが、第1体育館もいつもと違う装いだった。体育館3階に大きく鎮座するテントのような空間。そこには東京大学地文研究会天文部(以下、天文部)が一から作り上げて上映する、プラネタリウムの世界が広がっていた。(取材、撮影・宇城謙人)
プラネタリウムの入場待ちの長蛇の列に並び、少しずつ前に進んでいく。入場はドーム内に空気が一気に流入してドームの膨らみに影響を与えないようにするため、「満月」「上弦の月」「下弦の月」「新月」という名前に分けられた、約30人のグループごとに入場する。自分の入場はまだかまだかと、プラネタリウムへの期待が膨らんでいく。
130時間以上もかけて制作したというドームに入ると、中央には見上げるほどの高さの大きな投影機が。レンズと光源を組み合わせてできる5種類の投影機によって映し出されるのは、天の川や1等星だけでなく夜空を見上げてもほとんど見えない7等星にまで及ぶ。また、赤色のベテルギウスを投影するにあたっては、黄色のLEDを用いるなど工夫を凝らした。
天文部によるプラネタリウムには九つのプログラムが用意されていた。部長の江川諒太さん(理・3年)は「一般的なプラネタリウムのような星空解説から、タイムスリップして歴史上の人物に会いに行くファンタジックな作品までいろいろなプラネタリウムをお見せできたのではないでしょうか」と、天文部のこだわりを誇らしげに振り返る。今回鑑賞したのは『冬の星座のものがたり』というプログラム。天文部の冬合宿に来た2人が、頭上に広がる星々にまつわる神話について語るという設定のプログラムだ。
オリオン座、こいぬ座、おおいぬ座…とそれぞれの星座に結びついた、それぞれの神話の奥深さとその軽妙な語り口に、耳を傾ける。おうし座はゼウスとエウロパの恋のエピソードを象徴しているという。その昔、美しい王女・エウロパに見惚れたゼウスは、牡牛に変身してエウロパに近づき、地中海に浮かぶクレタ島へ連れ去ってしまう。「今なら刑法第225条営利目的等略取で間違いなく逮捕だね」。解説員のウィットの込んだ解説に、会場に笑いが起きる。
このプログラムでは、ドームの外を出てからも星空を楽しめるような解説を目指したという。星座の解説にとどまらず、天体写真の撮影術や星の観察方法についての話も深く語られていた。カシオペア座や北斗七星をもとに北極星を探して方角を見定め、赤道儀と望遠鏡を使って星を観察する。そうして見つけた星座の物語に、思いをはせる。ドームの外でも役立つ知識を知り、一つ賢くなった気がする。
天文部のプラネタリウムの開催は、実に5年ぶりだった。自分たちで星空を一から作っていくのはやりがいのある作業だったが、苦労もあった。中でも大変だったのは、ノウハウのわからない中での作業。準備は試行錯誤の繰り返しだった。投影機で映し出す映像がドームにうまく映らず、調整には30時間もの時間がかかったそう。うまくいかず緊張感が漂った時期もあったというが、部員同士がお互いを信頼し、コミュニケーションを欠かさないようにした。そのかいがあってか、上映は成功。3日間で1350人が来場した。天文部の卒部生だけでなく、一般の観客からの「プラネタリウムの復活おめでとう」という声は、本当にうれしかったそうだ。
「今年のプラネタリウムはなんとかやり遂げた感じで、やりたかったことでも削らざるを得ない部分もありました。来年以降はよりパワーアップしたプラネタリウムをお届けできればと思います」と意気込む江川さん。来年以降、天文部はどんな星空を見せてくれるだろうか。