駒場の前期教養課程の授業は、大半を一方的な講義授業が占め、退屈に思っている学生も多いだろう。しかし中には学生が目を輝かせて参加する、双方向的なゼミも開講されている。今連載ではそんな駒場の熱いゼミの実態に迫る。
国際研修「軍縮ゼミ」
(取材・尾方亮太)
平和についてさまざまな視点から議論したり実際に問題が起きている場所まで研修に行ったり……。教室で議論するだけのゼミとは一線を画すのが、全学ゼミ・国際研修「平和のために東大生ができること」、通称「軍縮ゼミ」だ。
開講されたのは2011年。きっかけは国連の軍縮部で働いていた大学院時代の友人との会話の中にあったと、岡田晃枝准教授(総合文化研究科)は言う。「将来日本の外交を担う人材を輩出する東大の学生も核軍縮について考える機会がないといけないという話になったのですが、『核兵器』や『平和』という言葉を聞くと学生は特定のイデオロギーや運動をイメージして避けてしまいます」。そこで岡田准教授は思い込みではなく、データや資料に基づいて平和や安全保障について客観的に議論する力をつけてもらおうと、このゼミを始めた。
扱うテーマは毎年異なる。初年度は被爆証言から平和を考えることを試みた。受講生は授業に招いた被爆者の方に質問をし、得られた証言を英訳して国連軍縮部に伝えるためにニューヨークに赴いた。帰国後には在日中の外交官の前でもその内容を発表したという。別の年の授業では国内の不発弾処理が困難なラオスに焦点を当て、不発弾などの小型武器について議論した。さらに実際に不発弾処理を担当しているラオス政府の部署を訪問。他にも海外での原爆の捉えられ方を知ろうと海外の歴史の教科書を読んで論文を書いたり、国連が出した軍縮への関心を高めるための冊子を翻訳して『軍縮のためのアクション』(国際連合)を制作したりもしたという。
多様なテーマから軍縮にアプローチするこのゼミだが、受講生全員が最初から授業内容に興味があったわけではないという。授業に付随している海外研修を利用してカザフスタンやトルクメニスタンに行ってみたかったから受講したという人も多い。その上授業準備の負担は総じて重いと口をそろえる。「初回に出された3000字のレポートは英語の資料を調べたり読んだりしたので、仕上げるのに10時間はかかりましたね」。課題をこなすのが大変なために受講生が激減することも少なくはない。
それでも受講生を引きつけてやまないゼミの魅力とは何か。ある受講生はこう語る。「大学では高校までと違い唯一の正解というものがなく、自分なりの正解を見つけないといけません。自分の考える正解を根拠を持って主張する力を身につけられるのがこのゼミの一番の魅力です」
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岡田晃枝(おかだ・てるえ)准教授(総合文化研究科)
04年、総合文化研究科国際社会科学専攻博士課程単位取得満期退学。修士(学術)。総合文化研究科「人間の安全保障プログラム」助手、教養教育高度化機構特任准教授などを経て17年より現職。(写真は岡田准教授提供)
この記事は、2018年12月11日号からの転載です。本紙では、他にもオリジナル記事を掲載しています。
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