学術ニュース

2024年7月27日

「日本人」の起源解明へ 中国山地の遺跡発掘と年代測定

 米田穣教授、尾嵜大真特任研究員、大森貴之特任研究員(いずれも東大総合研究博物館)と中央大学、立正大学などの共同研究チームは、現生人類(ホモ・サピエンス)の日本列島への定着過程に関わる問題を解明する最古級の遺跡が、岡山県の蒜山高原を中心とした中国山地に分布していることを明らかにした。成果は5月26日に千葉大学で開催された日本考古学協会第90回総会、6月22日に岡山理科大学で開催された日本旧石器学会で発表された。

 

 今回の研究の目的は、⽯器群の分布範囲から遺跡の性格・機能を明らかにすること、⽯器群とともに出土する炭化材(火などを使用した遺構から見つかる炭化した木材)から遺跡を残した⼈々の活動の年代を推定すること、さまざまな年代測定技術により当時の気候や植⽣などの古環境を復元し、⼈類の⽣活環境を推定するためのデータセットを構築することなどだった。

 

 調査では、1980年代に岡山理科大学が発掘調査を実施した岡山県真庭市の小林河原遺跡の未調査部分の発掘調査と、真庭市の城山東遺跡における過去の発掘調査で出土した炭化材の樹種同定・放射性炭素年代測定が行われた。放射性炭素年代測定には、東大総合研究博物館が所有する加速器質量分析装置(AMS)が用いられた。

 

 小林河原遺跡の発掘調査では、後期旧石器時代初頭期の局部磨製石斧と隠岐島産黒曜石の台型様石器が出土した。局部磨製石斧の出土は岡山県内では3例目となった。後期旧⽯器時代初頭期の局部磨製⽯斧はオーストラリアと⽇本列島以外では発⾒されていない。また、島嶼環境産の黒曜石製石器が中国山地で発見されたことで、当時ホモ・サピエンスが海上を往還渡航していたことが証拠付けられた。城山東遺跡出土の炭化材の年代測定分析では、約34,000~36,000年前という近畿・中国・四国地方での最古の年代値が得られた。小林河原遺跡の石器群を包含した層とその下層から出土した炭化材はスギ(年代値は約42,000〜45,000年前)と同定された。スギは暖温帯〜冷帯に分布する。最終氷期最寒冷期(約25,000〜20,000年前)にむかって⽐較的温暖な気候と植⽣(サクラ属・コナラ属・ブナ属など)から亜寒帯性の気候・植⽣(トウヒ属・マツ属・モミ属など)へと環境が変化したとする先行研究を補強する結果が得られた。

 

 今回の研究は、「日本人」の起源解明の手がかりが蒜山高原を中心とした中国山地に残されていることを明らかにした。理化学的な分析による古環境の復元や、発掘調査を含む本地域でのフィールドワークを通じて、ホモ・サピエンスが日本列島に定着・適応した過程や、文化的特性・社会的関係の解明が期待される。

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