机の上にはワイヤレス・キーボード付きのiPad。左腕にはApple Watch。
インタビューに伺った自民党の小林史明衆議院議員は、思いのほか、そんな若者感あふれる人物だった。小林議員は広島県福山市出身。大学進学時に上京し、卒業後は5年にわたってNTTドコモに勤めた。2012年の衆議院議員選挙で初当選を果たし、現在2期目、自民党の青年局学生部長やネットメディア局次長として活躍している。
18歳選挙権成立後、初の国政選挙が7月に迫る中、日本の最大与党で学生部長を務める小林議員はどのような人物なのか。そして今、何を考えているのだろうか。学生記者がインタビューで迫った。
――小林さんが、政治家を志したきっかけは何ですか?
もともと政治家になるつもりはなかったんです。NTTドコモという会社に就職して3年法人営業をやって、その後、本社で人事部採用担当を経験したんですね。その時の経験から湧いてきた二つの想いがきっかけですね。
一つは、ルールに縛られていることの閉塞感です。
それはNTTだから、会社が大きすぎるので、国内での競争を押さえるためにやっている規制なんですよね。それで、お客さんの要望に応えられなかったり、やりたいと思っていることが実現できないということがあって、すごく窮屈だなと思ったんですよね。自分のやりたいことがルールによって縛られることに、閉塞感を感じました。
過去の経緯を考えれば、国内で圧倒的な力を持つ企業を規制して、競争をつくるという考えは理解できるけれど、国際的な競争力が求められている中、いつまでこんなルールで勝負してるんだろうと。「ルールを作る側は何考えてるんだ」という憤りがありました。これが営業時代の感覚でした。
もう一つは、教育システムに対する危機感です。
営業を経験した後、人事の採用担当になって、講演や面接で毎年2万人くらいの大学生に会いました。そうすると、「とりあえずいい会社入りたいんです」っていう人たちがあまりにも多くて、どういう生き方をしたいんだとか、こういうことを実現したいからこの会社を使いたいっていう感覚じゃない人が、あまりにも多かった。その子たちが会社に入ってどうなるかっていうと、勉強はできるけど仕事はできない。
最初は彼らが悪いのかなって多少は思っていたんですけど、いやむしろ、彼らは受験勉強を頑張って、いい大学に行ってと、社会の期待に応えて成果を出してきたわけです。でも、社会からの期待に一番応えたはずの人が、なぜか社会人としては活躍できない。答えの無い問題を解決していくという訓練を受けていないんですよ。
これは、そもそも教育の仕組みがおかしい。その仕組みを変えないと、一緒に社会を引っ張っていく仲間が出てこない。結果、自分たちの世代の人生が明るいものでなくなってしまうという危機感がありました。
規制による閉塞感と、教育システムに対する危機感。この二つを変えようと思ったときに、ルールを変える側に行きたいと思ったんです。「じゃあルールを変えられる仕事って何?」と考えたときに、政治家、国会議員だよねということになった。
生き方の選択肢に政治家があったのは、大学時代に、地元の政治家の事務所で、一ヶ月くらい、選挙の応援の手伝いをしていたんですね。それがあって、政治家という生き方のイメージがあった。こういう選択肢もあるんだなっていう感覚が潜在的にあったので、ある種、迷わず選択できました。
――今の学生に関する社会問題として、奨学金、ブラックバイト、国立大学の学費上昇、少子化などがあると思いますが、小林さんとして、特に力を入れたいとお考えの分野はありますか?
ブラックバイトの摘発や奨学金の充実は重要だと思っていますが、最終的には、自分で判断できる力をつけるってことだと思うんですよね。ブラックバイトを選ばないとか、ブラックバイトだった時にすぐ抜け出せるようにするとか、生きる力を養っておくってことが、究極的には重要なんだと思う。
その間違った判断をしちゃった時に切り替えられない人に、ある穴の蓋をしても、別の穴があって、そっちに行っちゃう訳ですよね。そうしたら、その穴をふさぐ、ということになっていく。それだと、ずっと穴を塞ぐことをやらなきゃいけなくて、キリが無いじゃないですか。
自民党的な自主自立という考え方、私も好きな考え方からすると、穴が見えたときによける力だとか、落ちてももう一回出て来られる力をつけてあげるっていうことが、実は一番、皆さんにとっては幸せなのではないか。それは社会に出たときも使うから、と思うんですよね。
なので、中学生・高校生のキャリア教育ですね。自分の生き方を自分で選択していく。その中に職業もあるし、いつ頃結婚しようかとか、子育てはいつ頃した方がいいかとか、それは東京で働くのか、いや、地元に戻って働こうとか、お金を沢山稼ぐのもいいし、社会課題解決型の仕事がしたいとか。選ぶ力をつけること、そして、選んで挑戦するときに応援する策を用意しておくことが重要なのかなと思います。
――若者に関する問題を解決するには、キャリア教育が一番重要だということですね。具体的には、どういった取り組みをされていますか?
議員立法で、キャリア教育の法案をつくっているんですね。中学生とか高校生に、いろんな民間の人たちと関わる機会やインターンシップの機会を教育課程に入れていくという法案があるんです。それを成立させることが、まず一つのステップ。それは、まさにルールを変えることにつながっています。
――それは、学校と連携してやられるんですか?
そうです。
――すべての中学・高校で?
そうです。できるところから、基本的にカリキュラムの中に入れましょうと。
――その時間については、企業の人や社会人の方をお呼びして、交流の場をつくるということですか。
そうですね。例えば大工さんが来てこういう仕事なんだよねって紹介したり、パティシエが来たり、サラリーマンが来たっていいし、地場の経営者でも。
――なるほど。僕の高校時代にも、そんな仕組みがあった方がよかったという気がします。
あった方がいいですよね。出会った大人によって、僕たちは生きる道が変わる。あんな大人になりたいとか、こんな仕事かっこいいって思う。
子供の時、最初に消防士か警察官になりたいって思うのは、身近でかっこよく働いているからだったりしますよね。本当はパティシエもかっこいいし、大工さんもかっこいいし、サラリーマンもかっこいいんだけど、その姿を見る機会がない。それを見せてあげると、実はすごく選択肢が広がる。
職業に興味を持つと、それに必要な能力をつけたいと思って、初めて勉強する意欲が湧くんですよ。今は、勉強してとりあえずいい大学行って、いい会社に入りなさいと言われる。それはなぜかというと、将来安心だからと。
でも、いまの社会で昔のような大企業で終身雇用が真に安心かどうかということから考え直す必要があります。むしろ、何かのスペシャリストになって、常に社会から求められる人材であることの方が安心かもしれないし、将来の子育てや親の介護も考えると地元に帰って起業した方が安心かもしれないですよね。
――フランスでは大学在学中にインターンに行くことが普通だと聞いたことがありますが、そういったことも考えてらっしゃるんですか?
そうですね、これから大学でインターンシップを必修化していきたいと考えています。なんでそれをやっているかというと、最後は、新卒一括採用っていうのを辞めちゃった方がいいと思っているんです。
私は一年生で内定が出たっていいと思うし、それで中退して働き始めてもいいと思う。外務省の外交官だって昔は大学三年生で辞めるのがエリートだった、ということを考えると、それでいいんじゃないの、と思っています。
今の企業の面接だと、学業の取り組みより課外活動を評価する傾向があるので、今それをすると問題ですが、大学での学業も課外活動を評価する。その上で、企業で実際に就業体験をした上で、仕事を決めていく。それが当たり前になった時に、初めて日本型にヨーロッパ型も混ぜた就職の形になると思います。今は、その方向に向かって歩みを進めているところです。
――自民党についても、党として力を入れていきたい所があったら教えてください。
真に必要な人を助ける仕組み作りです。これまでは「年齢が高い=困っている」という仕組みだったんですね。65歳以上定年で年金が支給され、病院に行くと負担割合が低いという、年齢軸による社会保障の仕組みだったんですけど、それを「本当に困っている人は誰?」ということを特定して、その人を重点的に応援するという仕組みに変えていく。ということをこれから自民党としてやっていきます。
なぜできるかと言うと、マイナンバーという仕組みを導入することで、収入が多いのか少ないのか、職業訓練の状況はどうかなど一人ひとりの状況がわかるようになるからです。今はわからないので、年齢が高いと働けないし病院に行く機会が多いだろうから、困っているだろうと判断しているんです。それが、ITや科学技術が発展することによって、可能になってくる。
――必要な人に必要な保障を届けていく、と。
そうです。年齢ではなく、本当に必要な人に必要な保障をということです。大学生だって助けが必要な場合がありますよね。
――最後に、現在の学生に対して何かメッセージがありましたら、お願いします。
私たちは人生100年の時代を生きる。だからこそ、自分の人生は自分で決めてほしい。
生き方って一つじゃないので、より多くの選択肢を見てほしいし、その中で自分で選択をしてほしい。何となく、新卒で大学を卒業したらすぐ会社に入らなきゃいけないとか、就職浪人しちゃいけないとか言いますが、本当は卒業してそのまま留学したっていいし、3年くらい社会貢献してから会社に入ったっていいと思うんですよ。自分の人生ですから、自分で選んでほしい。その方が納得感があって、必要なときに頑張れますから。
そのためには、いろんな世界の人と会ってほしい。それは、国籍もそうだし、立場もそうですね。今回のイベントは、その中の一つの政治家っていう選択肢を見る機会にしてくれたらいいな、と思います。
――ありがとうございました!
(聞き手・文:井手佑翼 写真:冨士盛健雄)
公益財団法人東京大学新聞社は、2016年の五月祭で「7月の選挙の話をしよう」と題したパネルディスカッションを主催します。今回インタビューにお答えいただいた小林議員の他にも、民進党の柿沢未途議員など豪華なゲストをお招きして、学生・若者に関わりの深い奨学金や大学教育、少子化といった問題について議論します。18歳選挙権実現後、初の国政選挙を前に、「若者と政治」について考えてみませんか?
企画詳細は以下の通り。事前申し込みは不要ですが、参加をご希望の方はFacebookページから「参加予定」または「興味あり」ボタンを押していただけると嬉しいです。皆さんのご来場をお待ちしています!
日時:5月15日 10:30~12:30
場所:安田講堂エリア 法文1号館(東)22教室(キャンパスマップはこちら)
主催:東京大学新聞社
協力:GEIL
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