東京大学学部4年生の筆者は夏休みを利用して「未来都市・アスタナ」を訪れた。ある国の首都だ。どこか。
カザフスタンである。「~スタン」と名がつくだけで、友人達には行くことを心配された。
カザフスタンは面積世界第9位。内陸国では最大の面積をもつ、巨大な国だ。英語はほとんど通用せず、旧ソ連国であった影響で、住人のほとんどがロシア語を話せる。街中の表記もほとんどロシア語だ。
東大唯一の海外旅行サークル、Sailに所属する友人から、アシアナ航空がこの夏あらたに開くカザフスタン・アスタナ―韓国・仁川の就航記念チケットを譲ってもらったことから、この旅が実現する。
くしくも、安倍首相が今秋に中央アジア外遊を計画するなど、世界経済的にも注目度が集まる中央アジアだ。
就航記念をかざった旅は、最初から波乱に見舞われた。アスタナについたのが現地時間22時すぎ。夜半のため、市の中心部に行くバスはとうに終わっている。空港から外に出るなり「Taxi?」と声をかけてくる連中に囲まれる。海外旅行ではよくある光景の一つ、白タクである。こちらとしても彼らを利用するしかないので、値切り交渉の末に利用することとする。
宿はBooking.comというサイト経由で、Apartment at Nomad というフラットを一部屋予約した。白タクの運転手に住所を伝えると、「ここはやっていない。別のホテルを取った方がいいよ」と言う。運転手の仲間の宿に連れていくための営業トークだろうと思い、「いいから連れていってくれ」と強弁し、半ば強引に宿に向かわせるが、なんと、その宿は存在しなかった。同行していたもう一組の取っていた、同じブロックにあるはずの宿も存在せず。その場でWifiを借りて検索して発見した、すぐ近くにある(と地図上では表示されている)ホステルも、向かってみると存在しなかった。
存在しなかった、というと、もしかしたら語弊があるかもしれない。少なくとも、オンライン上の地図に表示されている地点には存在しなかった。おそらく、オンライン上での情報の整備がすすんでいないのであろう。ネットの情報に信頼を寄せる、普段の自らの生活の自明性を揺り動かされた。ネットでの予約の実効性を、微塵たりとも疑っていなかった。
結局、白タク運転手に追加料金を払い、同じく宿がなかったもう一組と合わせて6人が泊まれる部屋を探し出してもらった。こういう事態はままあるらしく、時刻はすでに午前二時をまわっていたが、運転手が心当たりのある民家の部屋を手当たり次第にまわる。4軒目にようやく”Done deal”となり、床に入ったのは午前4時前であった。
夜半に立ち寄ったアスタナ駅
こういったサービスとしては、空き部屋を貸すAirBnBに近いと思ったが、民家に泊まるというのはこういった旅先ではよくあることのようなので、むしろAirBnBは現実世界でやられていることを後からオンラインで情報化した、というのが実態なのかもしれない。
自分も新聞という情報産業に携わる身であるが、こういったオンラインの情報と現実での情報が矛盾する場合、どちらを信ずればいいのかは、一般論的には答えの出ない問いだ(カーナビと実際の道路標示の矛盾など、古典的な問いでもある)。
今回、現地の人に「自分が部屋を見つけてあげる」と言われた際に、営業かと思って断ったが、結局はそちらが正しかった。こういった「情報の落差」現象に、情報産業のプリミティブな形を見た。
スタートはこのような出だしであったが、アスタナ自体も見るべきところ、考えるべきところが多い都市であった。
次回はアスタナの観光的見どころをリポートします。
(文責 沢津橋紀洋)