文化

2021年8月17日

【火ようミュージアム】 「アナザーエナジー展:挑戦しつづける力──世界の女性アーティスト16人」

ミリアム・カーン《無題》 1999年12月29日 所蔵:OKETA COLLECTION(東京)

 

まぶしく輝くオレンジのエンパワメント

 

 現在森美術館で開催されている「アナザーエナジー展:挑戦しつづける力──世界の女性アーティスト16人」。世界各地を拠点として活動する参加アーティストたちに共通することは、第一にアーティストであることと女性であること。加えて、70代以上であることと50年以上のキャリアを持ちながらも国際的な評価を得たのが比較的高齢になってからであることだ。

 多様性を求める運動がさまざまな領域での広がりを見せている近年。#MeToo運動などに代表される2010年代以降のフェミニズムが「第四波」と称されるように、ジェンダーにまつわるそれはひときわ大きなうねりとしてある。そのような状況下で女性アーティストのみによる展覧会が開催されるとなれば、訪れる人々は多かれ少なかれ、女性へのエンパワメント(個人の自律的な意思決定や行動、社会への影響力の行使を可能にすること)の要素を見出そうとするだろう。

 

 実際、少なからぬ出展作品にはフェミニズム的な要素が根差していると言える。最も顕著なのが、米国生まれのスザンヌ・レイシーの出品作だ。ニューヨーク市の街中で行われた、女性の問題について365人の参加者が自由に語り合うというパフォーマンス《玄関と通りのあいだ》の記録映像が放映されており、展示室の床や鑑賞者のためのベンチには「Is RACE a feminist issue? 人種はフェミニストの問題?」、「Why do WOMEN earn less? なぜ女性の収入の方が少ない?」などの問いが記されている。ロビン・ホワイトの《大通り沿いで目にしたもの》は、トンガ王国の伝統的な樹皮製の布「タパ」が素材で、鳩、乗り物、戦闘機などのさまざまな模様が描かれた布が、展示室の中心に道を作るかのようにまっすぐ敷かれている。注目すべきポイントの一つは、タパは女性たちの共同作業によって作られるもので、本作もまた現地の女性たちとともに制作されたということだろう。さらに、詩や世界各地の歴史的・社会的事象を題材として取り入れているアンナ・ボギギアンの《シルクロード》は日本の絹産業の歴史をテーマとしているが、ボギギアンの関心の対象には明治日本の製糸業の発展が貧しい女性たちの重労働によって支えられていたことが含まれるという。

 

スザンヌ・レイシー《玄関と通りのあいだ》 2013/2021年 3チャンネル・ビデオ、デジタルプリント20分2秒(ビデオ) 本作はクリエイティブ・タイム(ニューヨーク)、ブルックリン美術館エリザベス・A・サックラー・センター・フォー・フェミニスト・アートの協賛によって2013年に制作されました。 展示風景:「アナザーエナジー展:挑戦しつづける力―世界の女性アーティスト16人」森美術館(東京)2021年 撮影:古川裕也 画像提供:森美術館
ロビン・ホワイト《大通り沿いで目にしたもの》 展示風景:「アナザーエナジー展:挑戦しつづける力―世界の女性アーティスト16人」森美術館(東京)2021年 撮影:古川裕也画像 提供:森美術館

 

 女性アーティストのみによる展覧会であるということは、ともすると鑑賞者に何らかの固定化された見方を促したり、強要したりしかねない側面を持つということでもある。記者自身もまた、最初に本展に興味を持った際の入り口はジェンダーや年齢といった「枠組み」だった。

 

 しかし、出品された作品群は、時にその枠組みに力強く寄り添い、時にその枠組みを超えてゆく。なぜなら、それらの作品の主題となっているのがジェンダーや年齢に関することだけではなく、政治的な意識や地域のアイデンティティー、自然とのつながり、そしてそれらにまつわる個人的な体験などさまざまだからだ。そして、それらがどの作品にも幾重にも重なっている。

 

 インタビューの中でレイシーは、本展が「貧しい人びとや福島で生活を再建しようとしている人びとには届かない」ことを自覚しながら「ひとりの観客ではなく多様な観客に向けて作品を作っていく」ことが重要なのだとも語った。ボギギアンが日本の絹産業の歴史を題材としたのは、そもそも本展が日本で開催されるからこそであったし、その関心は女性たちの労働だけではなく、同時に当時の産業発展を支えた技術や精神、またそれらが現代の産業で生きていることにもあるという。参加アーティストたちにとって本展の観客は、ジェンダーや年齢などをはじめとする本展の「枠組み」に親和性を持つ人々であり、同時に「枠組み」に関係のないさまざまな人々でもあるのだろう。

 会場のあちこちには鮮やかなオレンジの文字が踊っている。本展にあふれる、個人的であり普遍的でもある「エナジー」を象徴するかのようだ。

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