今年1年の歩みを東大の変化に注目して振り返るこの企画。第2回となる今回は、3年後に迫る東大設立150周年に向けて生まれ変わろうとするキャンパスについて取り上げる。(取材・渡邊詩恵奈、劉佳祺、溝口慶、平井蒼冴)
【生まれ変わる東大─2024年をニュースで振り返る】第1回は以下からお読みいただけます。
駒場1号館 改修は来春まで
今年のSセメスター終了後、当初の予定より遅れて開始された駒場Iキャンパス1号館の改修工事。老朽化した内外装の改修と換気・空調設備の増設、直接手を触れずに利用できるトイレの設置などが行われている。工事は来年3月に終了予定で、その後は授業に利用される計画。現在、授業は19号館などで代替して実施されている。東大施設部は東京大学新聞社の取材に応じ、1号館の改修計画変更の理由として、工期中に代替利用する予定だった19号館の完成の遅れを挙げた。埋蔵文化財調査や設備機器の納期の遅延の影響が原因だ。1号館の利用は24年度Sセメスターまで継続された。当初は半分ずつ工事を行い授業への影響を最小限に抑える計画だったが、工事遅延や騒音の影響などを考慮し、1号館全体を利用停止して改修することになった。旧第一高等学校の本館として1933年に建てられ、築100年が近づく駒場1号館は、ロ字形平面やゴシック調のスクラッチタイル貼が特徴の国の登録有形文化財だ。改修工事は既存のタイルを出来るだけ残すなど、創建時からの材料の再利用に努めて行われる。タイルには剥落防止の補修が施され、建物外周部の窓には創建時の意匠が復元される計画だという。
駒場19号館 教室としての使用は24年度だけ
今年のAセメスターから授業などでの利用が開始された駒場Iキャンパスの19号館。建設の目的は、改修工事で一部使用できなくなる1号館の代替と駒場Iキャンパスの教育研究環境の充実だ。教養学部への取材によると、19号館の授業用途での利用は本年度限りの予定。今後の活用方法は確定していないものの、来年度以降は、大学本部が管理する建物となるため教室の内部は簡易的な作りになっている。例えば、教室のホワイトボードは固定式ではなく、移動式や壁に貼るタイプのもので代用されている。また、教壇にはダンボールが使われ、1号館の机や椅子、プロジェクターなどが一時的に流用されている。これらの設備は1号館の改修が終わり次第、元あった教室に戻すという。19号館は1号館よりも教室数が少ない。これは、当初の改修計画では今年4月から半年ごとに1号館を半分ずつ改修し、その間に不足する教室を19号館で補う予定だったためだ。計画変更に伴い、1号館全体分に相当する教室数が確保されないまま改修工事は開始したが、他の建物なども最大限に使用し、Aセメスターの授業を行っている。
駒場図書館 東隣にII期棟増築
既存の駒場図書館(I期棟)の東側に「II期棟」を増築する計画がある。地上3階、地下2階、延べ床面積約7160平方メートル。II期棟には、通路で接続されたI期棟(8651平方メートル)から入館する。東大施設部がII期棟の工事について東京大学新聞社の取材に答えた。増築は民間事業者が施設を建設した後、所有権は東大に移るが、管理・運営は同事業者が継続するBTO(Build Transfer and Operate)方式で進める。約34億円の施設整備費補助金(建設費など)や約9.5億円の維持管理費など、文部科学省からの助成金が主要財源として予定される。しかし、物価高に伴う建設費高騰の影響で昨年9月に実施された入札に参加希望がなかったため、予算について現在、国と協議中だという。事業者選定手続きの中断に伴い、当初の工事日程(2025〜26年)、利用開始時期(27年)から遅れることとなる。手続きが再開された際には約1年間の事業者選定手続き後、事業契約を結んで設計および建設工事が進められる予定だが、詳細な時期は未定だ。接続通路の工事時には一時的に利用制限をかける可能性があるが、工事期間中も基本的に通常通り利用できる。II期棟の完成により、収蔵冊数に余力がなくなっていたI期棟内の蔵書が整理・統合される他、総合文化研究科の部局図書館や各研究棟(アメリカ太平洋地域研究センターを除く)に分散している蔵書の一部も移管される。これにより、研究棟内の蔵書スペースが解放され、研究・教育活動に活用できることになる。時期未定だが、将来的にはII期棟と接続してIII期棟も建設される予定。新棟には、教育改革や社会連携に対応した「ラーニング・コモンズ」と「多目的スペース」が設けられる。「ラーニング・コモンズ」は学生のディスカッションや共同学習を支援し、個別学習スペースも併設される。「多目的スペース」は教員や学生がプレゼンテーションやシンポジウムを行える場所で、大学と社会の接点となることが期待されている。
D&I棟 DEI推進の拠点として26年設置へ
東大は150周年記念事業の一環として、第2食堂(本郷キャンパス)の北にD&I棟(仮称)を設置する。2026年の建設を予定し、DEI(ダイバーシティー、エクイティー、インクルージョン)活動の推進拠点として、多様性包摂共創センター(IncluDE)が入る。IncluDEは東京大学新聞社の取材に、D&I棟(仮称)の詳細は現時点で未定なことが多いと答えた。入札ではA棟(4階建て)、B棟(地下2階、地上4階建て)、C棟(地下1階、地上5階建て)の建設が予定されている。IncluDEは今年4月に既存のバリアフリー支援室と男女共同参画室を統合する形で発足。バリアフリー推進オフィスとジェンダー・エクイティ推進オフィスを統合したDEI実践部門に加え、学内のDEI研究を集約するDEI研究部門、両部門をつなぐDEI共創推進戦略室で構成される。シンポジウムなどのイベントの他、月2回程度DEI関連の最前線の研究を共有するランチセミナーを開催している。現在IncluDEの活動は複数の拠点で展開されている。ジェンダー・エクイティ推進オフィスと戦略室専属メンバーは、本部棟にあるジェンダー・エクイティ推進オフィスを拠点に活動している。バリアフリー推進オフィスは学生支援センター(本郷キャンパス)と教養学部8号館(駒場Iキャンパス)に支所を置く。
赤門 27年の開門目指す
赤門は現在、災害などで倒れ通行人に被害が出る可能性が否定できない状態だという。昨年度の耐震診断を踏まえ、本年度から工期の検討など補強工事に向けた基礎設計を開始し、2027年度の開門を目指す。工事時には赤門周辺の通行規制も想定している。補強・修復工事への活用などを目的に、東大は寄付金を募る事業「ひらけ!赤門プロジェクト」を10月下旬から開始。寄付金は順次、歩行者が自由に歩けるゆったりした道(赤門ロード、仮称)の実現にも利用。赤門に隣接する東大コミュニケーションセンターの改修も計画され、赤門周辺で発掘された遺構の保存・展示が目指されている。再開門を目指す27年は東大の創立150年・赤門建立200年に当たり、東大は関連事業への寄付金活用も検討中。寄付金は約2920万円(12月15日時点)集まっている。赤門は基礎診断で耐震性能の低さが判明し、21年から閉鎖されていた。東大によると、22年度には史料調査や構造調査、地盤調査、構造検討を実施。昨年度には耐震診断の実施と補強案の策定をした。工事は今後入札を行い外部業者に発注する予定で、工期も検討段階。国などの補助金の利用も検討しているという。
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