毎年多くの東大生が受験する国家公務員採用総合職試験。国家公務員を志す学生にはもちろん、まだ進路に悩んでいる人にとっても国家公務員自らが語る職務の実情やその素直な感想は参考になるだろう。
今年は、法務省・財務省・農林水産省(技術系、事務系)・文部科学省・気象庁の東大出身者に取材。現在の省庁を選んだ経緯や担当する業務内容、省庁の魅力や就活生へのメッセージを聞いた。第一回では、法務省と財務省を紹介する。(構成・本田舞花、取材・石川結衣、堀添秀太)
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法務省 再犯防止で社会貢献
平田真之(ひらた・まさゆき)さん/法務省矯正局成人矯正課処遇第二係。17年教育学研究科修了。
人と人との関わりやつながりに興味があり、大学では心理学を専攻。自治体の学習支援にも参加し、子供たちへの支援活動も行っていた。報道を通じ児童虐待に関心を抱き、親子関係や重要な他者との関わりに興味を持ったことも国家公務員を志したきっかけだ。
国家公務員として心理学の知識を生かせることを知り、人間科学区分で受験。犯罪をした人や非行のある少年との面接等の際に、大学で勉強したことが役立つという。また、彼らの処遇等に直接携わる矯正施設や保護観察所といった現場と政策立案等に携わる本省を行き来できる点に魅力を感じ、法務省を志した。
試験対策は大学院1年次に開始。予備校には通わず、過去問を解くほか、基本的な書籍を読むなど独学で対策を続けた。面接対策として法務省の政策を調べた。
入省後は保護観察所で勤務。犯罪をした人や非行のある少年の社会復帰のため、面接や認知行動療法に基づくプログラムなどを実施した。保護観察官は一定の地域ごとに1人で担当することが基本。1年目から手探りながらも保護司をはじめとした民間協力者と連携しながら業務に臨んだ。「違法薬物の使用を繰り返していた障害があった人が、福祉支援を活用しながら生活の目処を立てられるよう考えていけた」ことが印象に残っている。
3年目からは少年刑務所に赴き、調査専門官として矯正処遇等に向けて、受刑者の犯罪の経緯、性格や特徴の調査などを行った。保護局を経て、現在は矯正局で刑事施設における社会復帰支援制度などの対応をしている。実際に制度設計に関わり、それが現場で生かされることがやりがいだ。
法務省での仕事は、再犯防止などの重要な課題に向けて、現状を踏まえつつ、社会情勢の変化に合わせた対応が求められる。
「大変だと感じることもありますが、同時に魅力的だと思います」と語る。
犯罪をした人や非行のある少年の更生に立ち会い、政策の企画立案ができるのは国家公務員ならではの仕事。デスクワークだけでなくそうした人たちとの関わりの多い法務省では、政策や専門知識を熟知しているだけではなく、彼らの更生に向けて粘り強く取り組むことが求められる。今後も「被害者も加害者も生まない社会」を目指して社会に貢献していきたいと話す。
取材当時は国会会期中であり、また来年6月から施行される拘禁刑の整備のため忙しいが、早く帰れる時は帰るようにワークライフバランスの調整も図られているそうだ。
「国家公務員は社会を支える点でやりがいを感じられる仕事です。採用説明会などに参加し、国家公務員も選択肢の一つとして検討してみてください」
財務省 社会全体を考え、説明責任を果たす
高校生の頃に研究者か国家公務員になりたいと思い東大を目指し、文Iに入学し法学部へ。法学に加え経済や国際政治なども学んだことで、俯瞰(ふかん)して社会を見る力が付いたという。官僚を選んだのは、自分は研究者には向いていないと感じ、また、文系研究者になるより、官僚になって研究成果を実装する方が社会にインパクトを与えられると思ったため。財務省を選んだのは、東大で学ぶ中で、結局は有限な資源をどう配分するかが大事だと感じたからだと語る。
民間の就活はせず、試験区分は「政治・国際」区分(当時)を選んだ。比較的新しい試験だったので対策が確立しておらず、有利だと思ったと語る。大学の授業で使うような基本書や研究者の新書、予備校の教材を使いつつ、同じ区分を受ける学生の自主的な勉強会で対策した。
入省後に配属されたのは主計局総務課で、予算全体や国会対応のとりまとめに携った。2年目の7月に異動し、現在は地方財政係で働いている。地方財政係は地方交付税などを扱う部署で、総務省がカウンターパートとなる。予算編成にむけた準備も財務省の重要な仕事であり、財政制度等審議会の学者や他省庁、自治体と連携して資料を作り、国会議員への説明も行う忙しい印象がある省庁だが、実際には、部署ごとにある繁忙期以外はあまり忙しくないという。
現在の部署では若手が一つの事業を担当することが多く、その若手の裁量は大きい。金山さんもそれを実感したことがあるという。「私が担当する地方公営企業について、ヒアリングと検討を重ねた上で制度改正を提案し、結果として設備にかかる費用の負担を平準化できました。国の財政と公営企業の経営の双方に良い結果が見込まれ、このような制度変更は自分がいなければ実現しなかったので、達成感がありました」
東大で学んだことは仕事に役立っていると語る。「例えば、政治学で学んだ政策決定などのモデルは現実の理解に役立ちますし、政策を作る際の数値設定には経済学が役立っています」
将来は他の部署や他省庁への出向などの経験を積んでから、再び予算編成に携わり、社会をより良くするものに資源を回したいと語る。国家公務員に向いている人の特徴として、関係者などに論理的に説明できる、物事の吸収が早い、独自の強みを持つ、などのことを挙げ「総合職の採用は15〜25人程度と少ないので、各々の武器がある人が集まると良いと思います」と話す。データ分析やITの知識は大きな強みだという。東大生に「省庁は面白い人・仕事が多いので、ぜひ国家公務員になってほしい」と語った。
【記事修正】9月18日午前11時47分 平田さんの経歴を一部修正いたしました。
【記事修正】9月19日午後1時26分 平田さんの就活年表を修正いたしました。