東京大学新聞社は、11月7日(金)に本郷キャンパスにて、映画『ショート・ターム』の試写会を行う。児童養護施設を舞台にしたこの映画は、実名レビュー評価サイトRotten Tomatoes(ロッテン・トマト)で満足度99%(2013年1位)を記録するなど、世界で高い評価を受けたヒューマンドラマだ。
今回は、児童養護の現場で働くアシスタントである、International Foster Care Allianceの梶 愛さんに、日本の児童養護の現状や、行われている取り組み、また映画『ショート・ターム』の感想を伺った。
現場で働きながら学ぶ
International Foster Care Alliance (以下、IFCA)は、日米のソーシャルワーカーらが2012年に立ち上げたNPO法人だ。児童養護施設や里親家庭など、生みの親のもとから離れ、行政の保護下で育ってきた若者たちとともに、彼らが育った<フォスターケア>という仕組みを学び、地位向上のために活動している。
トラウマ治療法の専門家を米国から招聘し、日本の心理士・精神科医向けにワークショップを開催、米国で広まりつつある地域連携型里親支援のモデルを、日米の関係者で協力しながら学ぶなど、日本と米国が、お互いの児童福祉システムを向上させることができるよう活動している。
梶さんは大学で、教育社会学や文化人類学の枠組みから、貧困と学力の関係や、学校への適応/不適応の背景について学んだ。卒業後、児童養護施設で勤務するなか、国が進める政策と現場の子どもたちへのケアとの乖離から、フォスターケアの現状を正しく理解し、その根幹を学び直したいと考えるようになった。
その後、IFCAで日米のメンバーと共に各種施設や支援者との情報交換の場をコーディネートし、様々な立場の意見を見聞きする中で、日本や米国のフォスターケアについて全体像を学ぶことができたという。
地域のコミュニティは子どもの財産
日本のフォスターケアの現状について、梶さんは領域横断的な連携が足りないことを指摘している。市区町村や母子保健、医療、教育機関といったコミュニティレベルの虐待「予防」の領域と、入所施設や里親家庭での養育である「インケア」、そして施設を出、行政の手を離れた後の「アフターケア」。この3領域で、理念や数値目標の共有が不十分であるという。
また、梶さんは「地域は子どもの財産である」という考え方に注目する。『国連代替的養育に関するガイドライン』でも明記されているこの概念は、子どもを育った地域で保護し、その地域で親子支援をしていくという考え方だ。そこには、「子どもの財産である、コミュニティの文化や学校でのつながりを、フォスターケアが奪ってしまってはいけないのではないか」という現場の思いがある。
例えばある子どもの学校区内に里親家庭や施設があれば、子どもが生みの親と暮らせなくなっても転校をせずに済み、地域のイベントに友達と一緒に参加でき、きょうだいが離れずに済み、引き続き地域に見守ってもらうことが可能だ。諸外国で受け入れられているこのような取り組みを、日本なりに具体化し法制化していくための動きが進みつつあるという。
ショート・タームについて
映画『ショート・ターム』について、現場で働く者としての印象を聞いた。最も印象に残ったシーンは、入所している青年が、過去に自分が受けた虐待についてラップで表現しているシーンだという。フォスターケアに関わる者・ケアギバーは子どもや青年たちと接する際に、相当の想像力を求められる。かといって分かった気になり慰めるようなことを簡単にしてはいけない。『ショート・ターム』は、その難しさが良く表現されている映画であり、現場で働く者として共感できることが多くあったという。
ただ、食卓のシーンにあまり時間があてられなかったことが気になったそうだ。暮らしの中で子供たちをケアする環境では、子ども同士や子どもと共に食事をすることの意味は大きい。「食卓というものと、傷を癒して暮らすことについて、監督はどういった考えをお持ちなのかなという興味が湧いた」
梶さんと監督とのトークショーは、11月7日の試写会後に、19時から行われる。詳細はこちら。
(文責 須田英太郎 )
梶 愛
お茶の水女子大学文教育学部人間社会科学科卒業後、
IFCA webサイト
http://www.ifcaseattle.org/