先日から、KADOKAWAとドワンゴの経営統合が報じられ、大きな話題を呼んでいます。ですが、約2ヶ月半前となる3月11日、KADOKAWAの角川歴彦会長とドワンゴの川上量生会長が、同じシンポジウムに登壇していたことを知る方は、そう多くないかもしれません。「メディアミックスの歴史と未来」と題して、東京大学で実施されたこのシンポジウムの内容を振り返り、両者の経営統合の意義、これからの「メディア」「サブカルチャー」の未来を考察します。
前回は、角川会長による基調講演をまとめました。中編となる今回は、識者によるパネルディスカッションの中から、特に川上会長の「プラットフォーム」に関する発言を中心にまとめます。
——まず、プラットフォームの定義とは何でしょう?
川上:プロモーション・流通・販売の3つが揃って、プラットフォームになると考えています。
例えば、出版、印刷、取次、書店というのも、ひとつのプラッットフォームと言えるでしょう。そもそも、紙に書いた記号を、他の食料品等と同様に買えって言うのは難しい。極論を言えば、コンテンツというのは基本無料、生きていく上で不要なものです。それを買ってもらうための仕組みが、プラッットフォーム、すなわち、プロモーション・流通・販売だと思います。
その点で、ニコニコ動画は販売を持っていません。ニコニコ動画という(プレミアム会員を除き)基本的に無料のコンテンツを運営している立場からは言いづらいのですが、コンテンツにお金を払ってもらう仕組みこそが、プラットフォームだと思います。
——そう言った意味で、ニコニコ動画の特徴をどのようにお考えですか?
川上:動画の上にコメントするというのは、本質的に邪魔ですよね。最初は、動画が見えなくなるのが面白いと思い、軽い気持ちで始めました。みんなが見たい時に見えないとう状態が、あくまで冗談として面白いと思ったのです。正直に言って、この手法がコンテンツの提供方法として優れているアーキテクチャとは思っていません(笑)。
しかしながら、結果的には、「動画+コメント」で、ひとつのコンテンツになりました。そこが最大の特徴になっていることは否めません。コメントができることで、ある意味、消費者もクリエイターになったと言えます。
原始的には、面白いことを言うやつが、コンテンツのはじまりだったわけです。みんな自分が喋りたいのであって、他人の話を聞きたいわけではない(笑)。だから、一方通行で届けられるコンテンツをおとなしく聞いていろというのは、生理的に難しいはずなのです。結果として、みんながコメントして、クリエイターになれるアーキテクチャが画期的だったと思います。
——ソーシャルメディアとプラットフォームの違いは何でしょう?
川上:プラットフォーム=人を集める手段、ソーシャルメディアはその一手段だという認識です。
プラットフォームでコンテンツを売るのと、居場所を作るソーシャルの話は別だと考えています。ソーシャルによって、リアルな場を超えて、ネット上にも居場所が作られるようになったのは事実です。しかし、そこにも2種類の「場」があるように感じています。
ひとつは、「ネット=ツール」と考えて、リアルな関係をネットで再現しようとする場です。これは、FacebookやLINEが当てはまるでしょう。もうひとつは、「ネット=住処」と考えられている場です。これはTwitterや2ch が当てはまるでしょう。「ネット=住処」としている人には、コンテンツもソーシャル上で十分流通しうると思います。ただ、「ネット=ツール」の人には、これだけでは弱い。
——ニコニコ動画は、ソーシャルという枠組みのなかで、どのように位置づけられるのでしょうか?
川上:実は、その辺の違いをニコニコ動画はうまくごちゃまぜにしています。これには、マーケティング的な意図があります。
例えば、公式生放送は比較的テレビ局に近い仕組みです。一方で、ユーザー生放送は、ただのおしゃべりにすぎないものも多い。一回30分で、1人が50番組していると、それって要は毎日雑談していることと同じなのです。でも、それって、「誰かとおしゃべりしたい」という根本的な表現欲求であるとも言えます。
こうした、クオリティに差があるものがあるからこそ、わざと混乱するようにごちゃまぜにしています。それを、相乗効果と称してやっているのが現状です。
——プラットフォームのデザインはどのように行えばよいのでしょうか?
川上:先ほどから述べているように、基本は販売まであってプラットフォームだと考えています。だから、実はテレビやインターネットのように、無料でコンテンツを届ける仕組みが例外だと考えています。
コンテンツをユーザーに届けるときに、無料にするだけでなく、コンテンツの質、そのコンテンツの見せ方をデザインし、しっかりお金を払ってもらうことが重要になるでしょう。プラットフォームが何のためのプラットフォームか、定義しなければならない時期に来ているのだと思います。
(文・写真 東京大学新聞オンライン編集部 荒川拓)
今夏、東京大学大学院情報学環 角川文化振興財団メディア・コンテンツ研究寄付講座は、「メディア・ミックス」をテーマとする約2週間のサマープログラムを開催します。詳細はこちら。