東大に入学する際、新入生は全員、大学で学ぶ二つの外国語を選択しなければならない。ここで言う外国語には、高校までに勉強してきてある程度使いこなせる既修外国語と、大学から新たに学び始める初修外国語の2種類がある。既修外国語として英語を選択し、初修外国語としてその他の言語を学ぶのが最もメジャーだが、そんな中で中国語、フランス語、ドイツ語のいずれかを既修外国語として選択した人が集まるのがインタークラスだ。その数なんと、1学年たった1クラスで26人(2017年度入学の場合)。今回はそんな、東大のマイノリティーとも言えるインタークラスの知られざる実態に迫る。
(取材・高橋祐貴)
他のクラスにはない結束力
普通なら高校まででは学習しない外国語をすでにある程度のレベルまで身に付けている学生が集まるインタークラス。その雰囲気は、他のクラスとは一線を画している。まず、他のクラスでは分かれている文理や科類が混ざっており、学んでいる言語も人それぞれだ。既修中国語選択の佐倉北さん(文Ⅰ・1年)は、「人によって文理や選択している言語が異なるので、一緒に受ける授業も少なく、あまり授業で顔を合わせることがないですが、全員が特殊な環境に育ち、今現在特殊な環境にいるからこそ絆が深まります」と話す。英語以外の外国語を高校以前に学ぶ人が少ないためか、インタークラスの人数は2017年度入学の学年で26人と数あるクラスの中でもまれに見る少なさ。既修フランス語選択者のジェッソン理々亜奈さん(文Ⅲ・1年)は、「みんなとても仲良しですが、それは少人数だからというよりは他のクラスの人とは一風変わった経歴を持つ人が集まっており、仲間意識が強いからだと思います」と語る。
他のクラスにはない絆の強さを見せるインタークラス。毎日昼にはクラス内で「インプラ」と呼ばれる、11号館・12号館・13号館の間の屋外スペースに集まり、ご飯を食べながら談笑するという。さらに年に2回、「インターライブ」と呼ばれるライブが開催され、1年生や2年生を中心にピアノ・ギターの弾き語りやダンス、マジック、漫才が披露される。先輩・後輩の縦のつながりも強く、年1回の「インター大コンパ」では上の代のインタークラスの学生だけにとどまらず、インタークラスのOB・OGまでもが多く集まって歓談し、大いに盛り上がる。「結束力が強い」と佐倉さんが語る通り、独自のイベントが盛りだくさんで仲の良いクラスのようだ。
中国人と帰国子女がほとんどの既修中国語の授業
実際に既修外国語として英語以外の言語を選択するには、どの程度の語学力が必要なのか。既修中国語の授業について、以前中国に住んでいたことがあり、大学受験も中国語で受けたという佐倉さんは、「普段の日常会話が問題なくできればついていけると思います」と話す。履修許可を得るために中国語の教員と電話で話す簡単な審査があったが、中国語が問題なく話せればまず落ちないという。15人いる履修者はほとんどが中国人で、日本人の場合は帰国子女ばかり。中国語の授業はSセメスター(春学期)で週2回、Aセメスター(秋学期)で週1回行われ、一列の授業で日常会話レベルの文章の読解や古文、作文を扱い、二列の授業では毎週あるテーマについてディスカッションを行い、その間に2回中国語による発表を行ったという。
既修中国語選択者が選択するもう一つの言語として一番多いのは既修英語だ。実は既修外国語と既修外国語の組み合わせも選択できる東大。他には初修スペイン語や初修ロシア語を選択する人もいるという。
既修中国語を選択することのメリットとして佐倉さんは、特殊な環境で育ち、ネーティブレベルの日本語が話せる上に中国語も堪能な、普通に暮らしていればなかなか会えない人たちと友達になれることを挙げる。「授業では中国語で会話し、中国の文化や社会についても理解を深めることができるため、とても楽しいです」
帰国子女の少ない既修フランス語選択者
一方、既修中国語の場合と違って、既修フランス語の選択者には、ネーティブや帰国子女は少ないという。2017年入学の履修者の中では、以前にフランス語圏に住んだことがあるのは2人だけだった。高校でフランス語を選択し、大学入学時にフランス語学習歴3年だったジェッソンさんは、既修フランス語を選択するためには「分かりやすく言えば仏検2級くらいのレベルが最低でも必要」と話す。中国語の場合と同様、履修許可を得るには大学教員との電話面接があるが、審査自体はそこまで難しいものではなく、自分のフランス語の経歴を話した後に、フランス語で5分ほど会話するだけだとのこと。
授業は全てフランス人の教員が担当しており、フランス語のみで行われるという。2017年の履修者は当初8人で、Aセメスターには2人がアメリカの大学に留学し6人になった。少人数なので一対大人数の一方通行的な授業ではなく、先生の質問に対して生徒が答えたり、生徒同士でディスカッションをしたりと、学生が積極的に参加する授業が中心だ。一緒に学ばれることが多い言語は、同じラテン系のスペイン語やイタリア語。普通に既修英語を選択する人も多い。
既修フランス語を選択することについてジェッソンさんは、発音や動詞活用の暗記が大変であり、英語に比べて日本で使う機会が少なくモチベーションを保つのが難しいなどの苦労はあるが、それを上回る魅力があると語る。「実用面ではフランス語は英語に次ぐ規模の国際公用語なので就職にも有利になるし、何より日本でフランス語を学んでいる人との交流が増えたり、新たな興味のある言語に出会えたりなど、フランス語をきっかけに得る刺激や経験は一生ものだと思います」
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既修外国語として選択できる言語にはもう一つ、ドイツ語があるが、その選択者は2017年の入学生については2人と、他の言語に比べ少なかった。例年はフランス語と同程度の履修者がいるという。残念なことに今回は既修ドイツ語の選択者に取材をすることはできなかったが、もし選択したならば、中国語・フランス語と同様刺激的な授業を受けられることだろう。
少人数での活発な授業と、縦横の強いつながりが魅力のインタークラス。もし既修外国語を選択するかどうか迷っている新入生がいたら、この記事も参考にしつつ、ぜひこの密なコミュニティーに飛び込んでみてはどうだろうか。
【受験生応援2018】