先生が黒板を向いている間にそっと単語帳を開く。そんな経験はあるだろうか。授業中にこっそり授業とは関係ない勉強をする「内職」。十人十色な受験生時代を送ってきた東大生たちに内職への思いを聞いたところ、41人からアンケートの回答があった。倫理的な観点や内職の効果についてさまざまな意見が飛び出した。東大生による「内職是非論争」を紹介したい。(構成・丸山莉歩)
時間の節約? かえって中途半端? 〜内職の効果編〜
当時を振り返って、内職をした理由・しなかった理由や効果があったかについて意見を集めた。
- 高校と塾で教え方が違ったため内職。自分の勉強時間を確保できたが、教員との関係が悪くなった。(理Ⅰ・2年・内職あり)
- 教師が話すことに自分でフィルターをかけると学んでいることにならないと思ったため内職せず。(文Ⅲ・2年・内職なし)
- 授業を聞く意味がなかったため内職。受験勉強を大幅に進められた。(理Ⅰ・1年・内職あり)
- 授業が受験に意味がないと思ったため内職。受験勉強をできたが、あまり集中できなかった気がする。寝た方がまだ良かった。(文Ⅲ・1年・内職あり)
- 授業スピードが遅く、受験に不利だと判断して内職。模試の復習などは放課後だけではこなしきれず、内職ありきの学習サイクルを作っていた。自分で戦略を練って学習するスキルが身についたが、教師に質問しづらくなった。授業を無視して内職をしている手前、そこは線引きすべきだと思っていた。質問は予備校で済ませた。(農学部生命化学科内定/科類無回答・2年・内職あり)
- 忙しくて別に学習時間を用意するのが難しかったため内職。今から振り返ってメリットはなかった。内職をすると全てが中途半端になる。(文Ⅲ・2年・内職あり)
- さほど自分の学力と乖離していない授業で内職するのは効果的ではないので内職せず。定期試験用の勉強が減るのが(内職をしないことの)メリット。ただ、私の高校では理科の進度が比較的遅かったので、内職して個人的に進めておけばよかったと後悔した。(所属無回答・内職なし)
- 勉強できる人もしているしできない人もしていて一概には言えないというイメージ。内職によって自分がすべきと思う勉強ができたり、あまりためにならない授業時間を有効に使えた。(文Ⅲ・1年・内職あり)
今回の調査では、内職経験のある人が圧倒的に多かった。内職をした理由の多くは、「時間を有効に使うため」だった。しかしその中でも、振り返って内職肯定派か否定派かは割れた。「意味がなかった」、「授業を聞いておくべきだった」という後悔が散見される一方、振り返っても内職は有益だったと言う人は多い。
内職をしなかった理由としては、先生への申し訳なさの他に「『内職をしないと大学に受からない』ようでプライドが許さなかったから(所属無回答)」、「時間の使い方として、それが最も効率的であったから(医学部医学科・3年)」などが挙がった。内職をした人に比べ後悔は少ないが、内職すればよかったという意見も存在した。
先生に失礼? 先生も黙認? 〜倫理問題編〜
効果を感じていたとしても、内職は本来後ろめたいもの。内職についてどう思うか、特に倫理面に関する意見を集めた。
- 自分の価値観では、内職は授業中の居眠りよりも罪深い。(文Ⅲ・1年・内職なし)
- 内職はなくてはならないもの。学校の授業のレベルが低く、内職しないと東大を目指せなかったから。先生も黙認でした。(理Ⅱ・1年・内職あり)
- 自分にとって意味がない、むしろマイナスだと感じた授業であれば積極的に内職するべき。(工学部化学生命工学科・3年・内職あり)
- あまりいいイメージはない。学校には授業を受けに来ているので、授業と関係ないことを勉強するなら欠席すればいいのに。真面目に受けている人が他の人が内職しているのを目にすると嫌な気持ちになると思う。(文Ⅲ・1年・内職なし)
- 勉学目的の内職は良い事。読書などの非勉学目的の内職との区別が教師にとって難しいことは問題。(理Ⅰ・1年・内職あり)
- 先生に気を遣うなら授業外ですべき!(理Ⅰ・1年・内職あり)
- 内職はあまりふさわしいことではないが、やむを得ない事情で内職することも理解できる。(工学部都市工学科内定/科類無回答・2年・内職あり)
- 内職で話を聞いていなかった人とグループワークをしていて、全く話が進まなかったことに若干いら立った。(文Ⅲ・2年・内職なし)
- 別に内職が悪いとは思わなかったが、教師が熱意を持って、受験には関係なくとも何か重要なことを伝えようとしているときに、目の前で授業道具を全く出さずに参考書を解く人を見たときはさすがに少し人間としてどうかと感じた。(所属無回答・内職なし)
- 必要悪。受験が競争である以上要領の良さも勝ち負けを左右するので……。ただマルチタスクが苦手な人などもいるので一概に有効でもなく、受験生、先生両者にストレスを与えるので本当は「内職禁止令」でも出てほしい。(文Ⅲ・1年・内職あり)
- クラスの一部の人のみ受験で必要だった科目(現代社会)の先生は、その科目が必要な人だけ前に来させて、それ以外の人は後ろの方の席で内職することを認めていた。(文Ⅲ・1年・内職あり)
倫理面では互いに相いれない価値観が立ち上がった。最も多かったのは「内職するか否かは個人の自由」「大々的にやらない限りいい」のような、向いている人が勝手にするのは自由という中道から肯定派寄りの意見。しかし「正義(理学部物理学科・3年)」など全面的な肯定派や、「せめてもの礼儀として隠す努力はするべき(所属無回答)」「先生に失礼(文Ⅲ・2年)」など、後ろめたさを答えた人も少なくなかった。
内職否定派のある回答者は「内職は個人の自由」としつつ「だが、これは生徒が自分のなしたことの責任を自分で負うことができる場合や、生徒が内職によってより高い時間的効用を得ることができる場合の話である。また、大学受験と無関係な教科も無視すべきでない。私は(受験と無関係な教科で内職するなどの)受験を優先する人より幅広い教養を持った人と連帯したい。とはいえ世間や象徴界に縛られている限り、(完全に自分の意思・責任で内職するのは)難しいことだと思う」という旨の、1000字超の意見文を寄せてくれた(医学部医学科・3年)。