長い受験勉強の道のりの中では誰でも不安や苦労を感じることがあるだろう。東京大学新聞社は8月、現役東大生を対象に受験生の頃の心配や苦労などについてのアンケートを実施し、95人から回答を得た。アンケート結果から、地方出身の受験生や女子受験生など、立場によって直面する壁や経験する不安が異なることが浮かび上がった。(構成・吉野祥生)
地方出身や非進学校出身の学生が苦労したこと
アンケート内では、地方出身者を「関東1都6県以外の出身である学生」と定義し、進学校を「東大受験を推奨する・東大をはじめとする難関大学の受験に特化した教育を行う学校」と定義した。地方出身者は57人、非進学校出身者は24人だった。
地方出身1位・非進学校出身2位
「東大を目指す仲間が少ない」
長期にわたる受験勉強では、共に東大を目指す仲間がいることが心の支えとなることが多いだろう。しかし、地方や非進学校ではそもそも東大を目指す生徒が少ない。東京への地理的な遠さによって、精神的に孤立してしまうことがあるようだ。また、地方の進学校であっても関東の進学校に比べると東大志望者はかなり少ないため、励まし合う仲間が少なく、受験勉強のモチベーションが維持しづらくなると考えられる。
地方出身2位
「併願校を含め入試のたびに上京する必要がある」
首都圏にある大学の入試を受験する度に地元と東京を何回も行き来することとなり、緊張も相まってかなりの負担になるだろう。そのため、体調が悪くなってしまうこともあるようだ。東京へ向かう飛行機で酔ってしまい、入試前日に目まいのした状態で入試会場の下見をせざるを得なかったという経験談も寄せられた。入試の前日から東京に宿泊したが、実家と異なる環境であったためよく眠ることができなかったという声もあった。
地方出身3位「大学進学後の情報が少ない」
非進学校出身1位「東大の情報が少ない」
東大は学部2年の途中で進学選択があるため、出願時は後期課程で進みたい学部や学科をある程度想定して科類選択をするだろう。しかし特定の学部や学科に行きたいと考えていても、どの科類に出願すれば進学に有利であるかといった情報はあまり出回っていない。記者は首都圏の進学校出身だが、高校の教師も東大入学後の進学選択に関しては知らないことが多く、インターネット上の古く、不正確な情報に頼らざるを得なかった部分があった。進学に関連する情報が公式に公表されていない ことが、かえって情報格差につながっているかもしれない。
非進学校出身3位
「高校の授業で東大入試の対策ができない」
進学校では東大入試の対策に力を入れている場合も多く、塾や予備校などに行かずとも、学校の授業だけで入試対策ができることは少なくない。しかし非進学校では、東大を志望する生徒自体が少ないため、特定の大学の試験に特化した授業がなく、一般的な授業になりがちだ。また、住んでいる地域に大学受験塾がない場合は、塾の対面指導を受けることさえ困難な場合もある。ある程度出題形式が固定化されている試験科目が多い中、その出題形式に合わせた対策が難しい教育環境では不利となる場合も少なくない。
高校で設定されている授業科目が少なかったため、文科生では2次試験で出題される地理歴史2科目のうち1科目しか授業が行われず、もう1科目はゼロから独学しなければならなかったという体験や、授業進度が遅く入試までに範囲が終わらないなどの声が寄せられた。非進学校出身者は学校に頼れる度合いに限りがあり、独自で工夫して受験勉強を進めてきたことが分かった。
この他、地方出身者からは「入試の際はホテルなど慣れない環境だ」「模擬試験の会場が遠い」といった声が寄せられた。非進学校出身者からは「高校の課題が簡単すぎる」「塾に行く必要がある」という声も見られた。
女子受験生の不安や懸念
女子であると回答した人は30人だった。
1位「東大の女子学生の割合が低い」
東大の女子学生の割合は依然として2割前後と低い水準にとどまっている。女子の割合は科類によって大きく異なり、特に理科では1クラスに女子が数人しかいないということも珍しくない。入学後に女子の友人を作れるか心配していたという意見もみられ、周囲に女子が少ないのではないかという懸念が強いようだ。
2位「大学入学後の1人暮らしが不安」
入学後に親元を離れて1人暮らしを始める学生は少なくない。初めての1人暮らしが不安だという声は性別に関係なく多い。一方で女子の場合は、一段と防犯対策の心配が大きいため、物件探しが大変であったり、家賃がさらに高くなったりしてしまうとの意見が寄せられた。
3位「周囲の人が浪人を認めてくれない」
浪人することで結婚が遅くなってしまうため良くないという親の意見や、そもそも東大に入ることで結婚しにくくなるため無理して行かない方がよい、というような親族の反応があったという回答があった。このような回答は少数ではあったが、古くから続いてきた、女性に求められる社会規範によって、女子の東大進学が妨げられかねない事例であると考えられる。