大学受験は悩みが尽きないもの。どうせ誰かに相談するなら、その道のプロにアドバイスをもらいたい! そんな受験生や保護者などからお悩みを募集し、様々な専門家や東大の教員、東大生などに話を聞く連載企画「受験なんでも相談室」。今回扱うのは「入浴方法」に関する質問。入浴について医学的に研究をする早坂信哉教授(東京都市大学)に話を聞いた。日頃意識することは少ないが、毎日欠かせないお風呂での過ごし方についてこの機会に見直してみてはいかがだろうか。(取材・佐藤健)
今回の質問
効果的な学習のために集中力を高める入浴方法を教えてください!(大学生)
目的に合わせた入浴法を
みなさんは自律神経という言葉を聞いたことがあるでしょうか。自律神経とは、内臓の働きや体温などを調節する神経系です。自律神経には交感神経と副交感神経という二つがあり、集中力を高めるときには交感神経を、これから休むときや寝るときは、副交感神経を高める必要があります。どちらを高めるかによって入浴法を使い分けるとよいでしょう。
例えば夜寝る前などリラックスしたいときは、副交感神経を高めるために、副交感神経のスイッチが入る40度のお風呂に10分間、肩まで漬かって入ります。入浴後で上昇した体温が下がってくるタイミングで良い睡眠が取れるようになるため、就寝の1~2時間前に入浴すると良いでしょう。また、食事の前後30分に入浴してしまうと、温められた皮膚に血液が集まる分、胃腸へ向かう血液が少なくなり消化に良くないので避けたほうが良いです。同様に運動直後の入浴も、本来であれば筋肉で栄養を運ぶべき血液が皮膚に集中してしまうので控えましょう。
お風呂に入った後は体が睡眠に向かうので、勉強する場合でも暗記やその日の復習などを1時間程度行うにとどめ、睡眠の妨げにならないようにしましょう。また湯船に入らないと疲労の蓄積につながるので、普段から湯船に入るようにすることが、勉強の効率のためだけでなく、長時間座っていることが多い受験生の健康にとっても大事です。
休日でだらけてしまってやる気が出ないときや、試験を受ける日の朝などは、42度の熱めのお湯に短時間漬かるか、熱めのシャワーを1、2分浴びると交感神経を高め、集中力を上げることができます。一方、就寝前に熱めの温度設定で入浴すると体が興奮状態になって眠りにくくなるので、タイミングに注意してください。
工夫を加えて入浴を気分転換の場に
入浴中にはおよそ800ml、ペットボトル1.5本分の汗が出るという研究もあるので、入浴の前後にはしっかり水分補給を行うことが重要です。特に入浴前に飲み物をコップ1、2杯分飲んでおくとよいでしょう。
お風呂の効果は体が温まることにあります。体が温まると血管が広がり、それが疲労回復につながるので、お風呂を上がった後もすぐに服や靴下を身につけ、保温を忘れないようにすることでしっかり疲れを取ることができます。
入浴の効果を高めるために受験生におすすめなのは、炭酸系の入浴剤です。炭酸ガスが皮膚から吸収されることで血管を広げてくれる作用があります。疲労回復だけでなく頭の血流も良くなり、勉強にも効果が期待できます。
他には、アロマオイルの中から、ラベンダーや柑橘類の香りなど自分の好きなものを探し、洗面器に数滴垂らしてお風呂場に置くことでも、気分転換やストレス解消になります。受験生だとなかなか遊ぶ機会もなく、お風呂をリフレッシュの場としている人も多いのではないでしょうか。音楽を流したり、脱衣室の電気はつけたままで、お風呂場の電気を消してみたり、LEDのキャンドルなどをお風呂場に置いてみたりするのも良いでしょう。自分が落ち着く匂いや薄暗い空間に囲まれることで、副交感神経を高めて、質の高い休息が取れるようになります。気分転換の一つとして30㎝ほど湯船にお湯を張る半身浴をしながら勉強するのもいいかもしれませんが、あくまでも休息の場としてお風呂を使うことが大切です。
忙しい生活を送る受験生へ
塾や図書館で夜遅くまで勉強している受験生の中には、入浴後すぐ就寝しなければならない人も多いでしょう。そのようなときは体が温まりすぎて眠りにくくならないよう、湯船につかる時間を5分程度にとどめるなど、少し気を配るだけでも十分です。無理に理想的な入浴法を守るより、しっかりと睡眠を取ることの方が大切です。週末などに時間を取れる場合は、理想的な入浴法を試してみてください。
お風呂はただ体を洗う場所であるだけでなく、疲労回復や、リフレッシュ、質の良い睡眠に導くなどのさまざまな効果があります。受験は長期戦なので、お風呂に入って日々の疲れを取ることも重要です。食事や睡眠に気を付けるのと同じように、効率良く勉強をするための生活習慣の一つとして入浴法をうまく活用し、受験を乗り切ってください。