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2022年8月8日

「情報」共通テスト導入 経緯と課題は

 

 2025年度大学入学共通テストから、新教科「情報」が実施される。国立大学では原則受験必須となるこの科目。東大は今年3月に共通テストの成績を利用することを予告した。なぜ情報科目の導入が決まったのか、そして実施に当たって現場の課題は。情報教育を専門とし、情報教育を推進してきた情報処理学会で理事を務めていた中山泰一教授(電気通信大学)と公立高校で授業計画設計に関わる教諭に話を聞いた。(取材・池見嘉納、原亘太朗)

 

25年より実施 国立大で原則受験必須

昨年3月に発表された共通テスト「情報」のサンプル問題の一部

 

 

 25年1月に実施される25年度大学入学共通テストの新教科「情報」は、本年度より高校で施行されている新学習指導要領の科目「情報Ⅰ」から出題される。試験時間は60 分で、他教科と同じくマークシート解答の筆記試験だ。

 

 「共通一次試験」以来出題されていた国語・社会(地理歴史・公民)・数学・理科・外国語のいわゆる「主要5教科」以外の教科が共通テストに加わることになる。国立大学の入試における利用にも加わるため、国立大学受験生にとっては共通テストの6科目受験が必須になる。25年度入試では、新課程の「情報I」を履修していない既卒生を対象に旧課程の「情報の科学」と「社会と情報」を合わせた経過措置科目を出題する経過措置が取られる。

 

 現在、数学の1科目として共通テストで実施されている主に商業高校や工業高校の生徒向けの「情報関係基礎」は廃止となる。「情報関係基礎」と「情報Ⅰ」の違いについて、中山教授は「専門的な勉強をしている生徒を対象に想定していた『情報関係基礎』と比べると普通科高校の生徒でも受けやすい難易度になるのでは」と見ている。

 

 なお、以前から高知大学や慶應義塾大学などでは一部学部・学科の一般選抜で情報の独自問題を出題している。個別試験について中山教授は、共通テストは「情報Ⅰ」のみだが「発展的内容の『情報Ⅱ』から出題をする大学も出てくるだろう」とも指摘。東大は7月発表の資料で25年度の入試の2次試験では情報を出題しない旨を予告した。

 

 

小中高の情報学習を測る試験へ

 

 高校教育で、情報が教科として始まったのは03年。当時は「情報A」「情報B」「情報C」から選択必履修だった(図)。13年からは理系的内容の「情報の科学」と文系的内容の「社会と情報」の2科目に整理されたが、プログラミングを内容に含まない「社会と情報」の採択が8割だった。これに加え「複数科目からの選択必履修だった頃は入試への導入は考えられなかった」と中山教授は当時の課題を指摘する。政府は13年に「世界最先端IT国家創造宣言」を発表。ITに関する多方面の政策が発表される中で、初等・中等教育でプログラミングや情報セキュリティーを学ぶ重要性が示された。これにより、17、18年告示の新学習指導要領で小中高12年間を通じてプログラミングを学ぶカリキュラムが誕生。高校ではプログラミングを含む「情報Ⅰ」が必履修となり、さらに発展科目「情報Ⅱ」が用意された。同年の第16回未来投資会議で共通テストへの情報科目導入の方針が示された。

 

(図)情報科目の変遷(情報処理学会の資料を基に東京大学新聞社が作成)

 

 今年1月には国立大学協会が「2024年度以降の国立大学の入学者選抜制度―国立大学協会の基本方針―」を発表。これにより、国立大学を受験するに当たって共通テストでの「情報Ⅰ」の受験が原則必須となった。

 

 「情報の共通テストは、小中高12年間で学んだことを測るもの」と中山教授。同時に、大学での情報教育を発展させるに当たっての重要性も強調する。「これからはプログラミングなどの科学的理解は文理問わず全ての高校生が学ぶ『常識』となる。大学入学時点でのスタートが変わる分、大学ではもっと先まで学べるようになる」と言う。

 

 

「人員・環境面に不安」 現場の課題は

 

 

 「情報教育の土台ができていないのに入試だけが先行してしまっている印象がある」。愛知県内の公立高校でカリキュラムの設計に関わるA教諭は、情報教育の改革と入試への導入についてこう考えている。情報教育の現場で特に課題となっているのが人員面と環境面だ。

 

 A教諭の高校では、今年から常勤の情報科教諭が配属されたものの、愛知県内の高校の全てに専任教員が配置されているわけではないという。

 

 全国的に見ても情報科教員の不足問題は長らく深刻な問題となっている。文部科学省が15 年に行った調査では、情報のみを担当する情報科の免許を持った教員は情報科担当教員の約2割に過ぎず、多くが他教科との掛け持ちであった。問題の原因について、中山教授は「情報科の教員になりたい人はいるが、それに見合う採用数がない」と指摘する。中山教授らによる調査では、13年度の全科目の教員免許取得者のうち情報科の免許取得者は2.7%の1826人。高校修了に必要な単位数のうち情報の割合も同じく2.7%で、教員養成という面では当時から十分にできていたという。一方、13年度の公立高校の情報教員採用数は、全科目の教員採用数の0.68%である34人にすぎなかった。「情報教員になりたくてもなれないし、情報教員という仕事を主軸に置いた人生設計もできない」と中山教授。「(高校で情報教育が始まった当初の)『情報A』は情報機器の扱い方などのごく基本的な内容だった。これが『情報専門の教員を採用しなくても、他教科の担任でも情報を教えられる』といった誤解につながったのでは」と指摘する。

 

 新課程の告示を受け、情報科教員採用数は増え続け、22年度には100人を超えた。23年度教員採用試験では初めて47都道府県全てで情報科教員の採用試験が実施される。A教諭が指摘するように全ての高校に十分な情報教員がいるとは言えないが、改善は進んでいる。

 

 環境面についても不安の声が上がる。GIGAスクール構想により、24年度中に全高校生に一人一台コンピューター端末が整備される見込みだが「タブレットを十分に活用するためのインターネット環境が整っているわけではない。情報教育の設備は高校によってさまざまなので、現場では行き当たりばったりの感がある」とA教諭は語る。

 

 本年度の高校1年生は学校や自治体によっては機器やネット環境の準備が不十分なまま情報を学ぶことになる。「他教科でもコンピューターを活用した学習や探究活動ができることを考えると、1年次から情報を学ぶことが望ましい」と中山教授。27年度入試からは小学生からプログラミング教育を受けた層が情報の入試を受けることになり、その頃には状況も改善されるのではと考えている。

 

 受験生の負担も課題点の一つだ。大学教員や予備校講師から成る「入試改革を考える会」は、今年1月発表の声明で「新教科『情報』が加われば、相当の負担増が見込まれます」と述べた。すでに一部の塾・予備校では情報の講座が開講されている。

 

 さらに、声明では受験科目が増えることで「受験生から着実な学習を行う余裕を奪い、表面的な理解や機械的な暗記を促進する弊害が生じます」と指摘されている。旧七帝国大学と東京工業大学の情報系研究科長から構成される8大学情報系研究科長会議が20年12月に文部科学省と大学入試センターに宛てた共通テストへの情報科目追加を支持する要望書でも「日々変化を遂げている情報技術を考慮しますと、暗記科目となってしまうことはむしろ危険」と述べた上で「作問においては、情報の本質を理解した上で、論理的に考えさせる問題とする」配慮を要望していた。現在発表されているサンプル問題について、中山教授は「『情報Ⅰ』のさまざまな分野を満遍なく出題している」とした上で、「何か暗記を問う問題ではなく、情報的な思考ができるか、プログラミングなどの利活用をしてきたかが問われている」と述べている。

 

 今年の秋冬ごろには試験時間の60分に合わせた試作問題が発表される予定。さらなる検証が行われる。

 

 

 

中山 泰一(なかやま・やすいち)教授(電気通信大学)

 

93年東大大学院工学系研究科博士課程修了。博士(工学)。電気通信大学准教授を経て、19年より現職。22年6月まで情報処理学会教育担当理事。

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