「東大教員と考える日本の問題」は日本が抱えるさまざまな社会問題について東大教員に話を聞く企画です。今回のテーマは「対外国人意識」。
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「日本では『社会の一員である外国人』というイメージが希薄なのではないでしょうか」。そう語るのは永吉希久子准教授(東大社会科学研究所)だ。日本では1990年代から、労働者の不足を補う形で積極的に外国人の受け入れが行われた。定住も進み、2020年には国内に暮らす外国籍者の3分の1以上が特別永住者または永住者の資格を持っている。しかし「いまだに外国人を社会に内包された存在ではなく、日本人と切り離された『外国人』として捉える傾向が強いと思います」と指摘する。
そうした意識は、多文化主義か否かの対立軸で語られることが多い欧米の対外国人意識とは性質を異にしている。日本人は同化主義的だといわれるが、実際には民族的なマイノリティーの文化維持に比較的肯定的だ。しかしその背景には、多様なルーツを持つ人を「日本人」の範囲に含めない姿勢がある。外国人が自分の文化を維持するのは構わないが、社会の一員として日本人と同等の保護が与えられる存在だとは考えていないのではないかと分析する。
「同等の存在として扱わない」という意識が表れやすいのが、権利付与に関する問題だ。例えば、移民受け入れといった抽象的なテーマについて、必ずしも世論の多数が否定的な見方をしているわけではない。しかし「仕事が少ないときに日本人と同等の扱いをするか」などの条件が付くと話は別だ。こうした状況では、大多数が日本人が優先して雇用されるべきと答えるという。「外国人に対して付与される権利はあくまでも『恩恵』であり、日本人の側の状況によっては自由にはく奪可能だと考えている可能性があります」
また、権利保護についての意識の希薄さから、何が差別に当たるのか、認識が十分形成されない面もある。例えば17年に法務省が公表した調査では、外国人であることを理由に入居を断られた経験があると回答した人は4割近くに上った(図)。さらに「外国人お断り」といった条件に直面した人も。「ヘイトスピーチなどのあからさまな表現以外でも、差別に当たり得ることが認識されていないのでは」と永吉准教授は指摘する。16年にはヘイトスピーチ解消を目指す法律が、規制や罰則については特に規定しない理念法として制定。共通理解が形成されつつあるが、十分浸透しているとは言い難い。「法律が制定されても、存在を知られなければ意味がありません。報道などで積極的に取り上げるべき」と話す。
新型コロナウイルスの流行がもたらす影響も見逃せない。一般的には外国人と接する機会が増えると理解も深まるとされるが、新型コロナウイルスの流行で接触は難しくなった。さらに景気の悪化で生活支援が必要になる人が増えることもあり得る。「過去にも、外国人の生活保護受給と結び付いて、排外的な世論が扇動されることがありました」。今後「日本人が当然優先されるべき」との意見から、日本人と外国人の二項対立の図式が持ち出され、異質な存在だというイメージが強化されるかもしれないと語る。
では、より現実に即した認識を形成し、社会で内包していくために何が必要か。永吉准教授は方策の一つとして、報道機関の取り上げ方を改める必要があると指摘する。「インターネットで発信される外国人についてのさまざまな意見も、情報源はマスメディアが大きな比重を占めていて、まだまだ影響力は大きいです」。出身国とのつながりを強調して報道するのではなく、国内に暮らす国内の構成員として捉えることで、実態に即した議論が可能になると強調する。(中村潤)