日本版NCAAという言葉を聞いたことがあるだろうか。NCAAとは「全米大学体育協会」のことで、米国の大学スポーツを一元的に管理し、各大学のクラブへの運営支援を担う組織。同様の仕組みを日本の大学スポーツにも導入する試みがスポーツ庁主導で始まっている。スポーツ庁の日本版NCAA創設に向けたワーキンググループ(WG)に参加する境田正樹理事の話から、構想の実態や実現への道筋に迫る。
(取材・関根隆朗)
構想では、加入大学に各運動部をまとめる「アスレチック・デパートメント」を置き、各大学を日本版NCAAが統括するというもの。共通の安全基準や学業成績要件を設け、安全性確保や、学業とスポーツの両立実現を図る。
そもそも日本の大学スポーツでは、運営に大学が関与せず学生の自主性に委ねる方針が取られてきた。しかし、安全管理の欠如、不明確な責任体制、卒部生の寄付に依存した資金運営、所属学生への学習支援の不足など多くの弊害が発生。競技別の学生競技連盟(学連)の存在も、連盟を超えた交流を阻害している。
これを受け、昨年からスポーツ庁内で日本版NCAA構想が議論され、今年3月には18年度中の創設を目指すことが決定。9月に具体的な制度を設計する「学産官連携」の協議会が発足した。大学だけでなく学連も参加し、大学スポーツ関係者の連携の場となることが期待される。
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「ヒントは、3年前の国際バスケットボール連盟から日本バスケットボール協会への制裁に端を発するプロバスケットボールリーグ・Bリーグ立ち上げと、日本バスケットボール協会のガバナンス改革にあります」。Bリーグは元々あった二つのリーグを統合したもので、統合後の売上高は統合前の2リーグ合計の6倍以上となり、日本バスケットボール協会の売上高も2倍以上に増加した。この要因は三つあるという。
一つ目がガバナンス改革。日本バスケットボール協会に加えてBリーグ所属クラブや都道府県バスケットボール協会など、傘下団体の法人化やガバナンス改革を進めた。二つ目がデジタルマーケティングの導入。ウェブ上でのチケット販売やデジタルコンテンツ配信を行い、その中で得たビッグデータをリーグ運営法人と各クラブで共有することにより、新規顧客開拓やスポンサー営業などのマーケティング活動を実践した。三つ目が権益の統合。リーグと協会がそれぞれ持っていたスポンサー権、放映権などの権益を統合し、パッケージ化することで権益の価値を最大化した。
境田理事は日本版NCAAでも同じ手法が有効と話す。各大学の運動部統括組織と各競技を統括する学連組織のガバナンス改革。各学連や各運動部統括組織の有するデータの一元管理と、このデータを用いたデジタルマーケティングを実践できる体制の構築。各学連の持つ権益の統合による価値の最大化。以上三つの改革により大学スポーツ全体のブランド価値を高め、日本版NCAAのみならず各学連、各大学の運動会統括組織にも収益が上がる構造を構築できる。
境田理事は、社会や経済を変える潜在力がこれらの構想にあると指摘する。現在日本では、Society5.0(第四次産業革命)に向け、人工知能やIoT、ビッグデータ解析、ロボット開発などの分野でさまざまな技術革新が起きているが、情報インフラとネットワーク体制が圧倒的に不足している。大学が有する知、技、人材、情報ネットワークを活用し、大学を起点とした知識集約型の産業集積拠点を構築できれば、この課題は克服される。各大学が他の大学や自治体、スポーツ団体や企業と連携を図りつつ、日本版NCAA構想をきっかけとして、この構築に取り組むことができるのではないか。東大で昨年設置されたスポーツ先端科学研究拠点にはスポーツ科学のみならず医学、工学、薬学、情報理工学など様々な研究者が参加しており、この役割を担うことができるのではないかと考えている。
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日本版NCAAの実現に当たっては、各大学や各競技団体の意向を尊重し、一律的な加入強制は考えていないという。実際、米国の本家NCAAでも非加入の団体は多く存在する。目下の課題は日本にスポーツマネジメントのノウハウがある人材が少ないこと。しかし国の後ろ盾のなかったバスケットボール界の改革やBリーグ創設に比べれば、今回の構想はスポーツ庁が中心となり、文部科学省の高等教育局や関連企業、有識者の協力も得られるため、実現は十分可能と境田理事は話す。「構想で重要なのはスポーツを通じた教育の充実で、主人公はあくまで学生の皆さん。各部の統括業務、企業との渉外など日本版NCAAが絡むあらゆる場面で、若い方に参加してもらいたいです」
この記事は、2017年12月19日号の記事を再編集したものです。本紙では、他にもオリジナル記事を公開しています。
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