入試本番まであと少し。宇宙医学に目覚めさまざまなプロジェクトに参加している石橋拓真さん(医・6年)に、自身の受験や東大での生活について語ってもらった。学びにあふれた東大生活を想像し、 東大で活躍するイメージを持って、全力を出し切ってほしい。(取材・小原優輝)
━━宇宙医学とはどのような分野ですか
一言で言うと、人体が宇宙でどのようにふるまうのかを探求する学問です。宇宙飛行士の健康管理と、宇宙環境下での医学実験の二つの柱から成り立っています。
━━宇宙医学に興味を持ったきっかけは
小さい頃から宇宙飛行士になりたいと思っていました。当時は理系しか選抜に応募できず、理系の中で何の専門にしようかと考えたとき、有人宇宙飛行ならどんなミッションにおいても医学が必要とされるのではないかと思い、理科III類から医学部に進むことを選びました。
入学当初は、医師として宇宙飛行士の選抜に応募しようくらいの考えで、宇宙と医学は直接は結び付いていませんでした。ただ、入学後しばらくして自分の凡庸さに悩む時期があり、東大になぜ来たのか、東大で何がやりたいのかなどを1ヵ月ほど考えているうちに、宇宙医学という分野があるのではないかと思いついたんです。
インターネットで調べてみると、実際に宇宙医学の研究プロジェクトの資料が見つかり、その面白さにとてもわくわくして、資料に載っていた先生方一人一人にメールを送りました。伺ったお話の内容は興味深く、これからの可能性がある分野だと感じました。
━━1浪を経て東大に合格しました。浪人時の勉強スタイルは
部活や学校行事に打ち込んだ現役時代とは打って変わって勉強一色の生活でした。数学が苦手だったので、最初から応用問題を扱う東大志望者向けの校舎には行かず基礎から叩き直しました。朝起きて予備校に行き、授業を受け、放課後も帰ってからもまた自習する。1日12時間ほど勉強する生活を1年間続けました。
━━受験当日から合格発表までの過ごし方は
国立大学の後期日程試験のために面接や小論文の練習をしたり、『ブラックジャックによろしく』などの医療漫画を読んだりして過ごしていました。ですが「もしかしたら合格しているかもしれない」「今やっているような小論文は書かなくていいのかもしれない」という期待が常にどこかにあり、そわそわしていました。
━━大学生活について聞きます。Space Medicine Japan Youth Communityに参加していますが、その活動は
有志で運営する勉強会サークルで、航空宇宙医学に関心のある学生が全国から集まったLINEグループが母体となっています。月に1回宇宙医学者の方をお招きしてオンラインセミナーを開いたり、論文査読会をしたり、夏休みには実際に航空宇宙医学の現場を見学したりしています。また、英語で書かれた宇宙医学の教科書を日本語に翻訳するプロジェクトもやっています。
━━今まで学んだことは現在の活動にどのように生きていますか
1年次の「初年次ゼミナール」という授業で、中須賀・船瀬研究室という航空宇宙工学で人気が高い研究室の先生のゼミをたまたま受講できました。大学に入るまでは夢でしかなかった宇宙開発が、実際に予算が投じられる、現実的で意義のある事業なのだという視点を与えてもらいました。今しているさまざまな活動でも、宇宙開発は学問の対象であるだけでなく、社会に実装されるべき事業なのだという意識を持ち続けています。医学部を目指して入学していながら、航空宇宙工学の先生の授業を受けられるのは、東大ならではだと思います。
━━今後の展望は
卒業後は救急救命医として臨床スキルや医学知識を身に付けたいです。それに加え、大学で身に付けた宇宙医学の知識も生かし、産学どちらからでも、宇宙開発に貢献していきたいです。そして当然、宇宙飛行士の選抜があれば絶対に応募しますよ。
━━受験生へのメッセージをお願いします
これを読んでいる皆さんが感じているだろう不安やドキドキや緊張を、丸ごと楽しんでもらいたいです。もちろんまだ合否は分かりませんし、大学に入ってからの未来だって誰にも分かりません。でも、不確定だからこそ未来を自分で作れるし、それってすごく心躍りますよね。そんな気持ちで受験に臨めたら、きっと入学後も東大という環境を存分に楽しめるのではないでしょうか。
受験のように、震えるほど緊張して高ぶる瞬間はそう多くありませんが、そんな瞬間がたくさんある人生はとってもいい人生だと思います。その第一ラウンドに立てていると捉えれば良いんです。怖がりながらでも楽しんで、全力で乗り越えてくれたらいいなと願っています。