朱文超研究員(東大大学院理学系研究科、発表時は博士課程在籍)、寺井琢也特任准教授(同研究科)らは、緑色蛍光タンパク質(GFP)に特定の金属イオンと結合できる合成低分子物質を組み合わせた新型蛍光バイオセンサーを開発した。既存のセンサーよりも汎用性が高いデザインを生かし、生物学研究の進展に貢献することが期待されている。成果は現地時間9月22日付の国際科学雑誌『Nature Chemical Biology』で公開された。
蛍光バイオセンサーとは、物質の濃度や化学反応に応じて光の強度や色を変化させ、生体内のイオンや分子の動きを可視化する分子のこと。化学と生物学を融合させた二刀流のデザインは「化学遺伝学(ケミジェネティック)」として、現代生物学において重要な役割を果たしている。センサーにタンパク質を用いると性能向上がしやすい一方、合成低分子を用いると検出対象が広いといったメリットがあったが、両者のメリットを一つに取り入れた化学遺伝学センサーは開発されていなかった。
朱研究員らは検出対象に結合する部位が合成低分子、可視化するための蛍光部位がGFPという新しいセンサーのデザインを考案(図)。まず、生体内で情報伝達に重要なカルシウムイオンを検出対象とし、タンパク質の変異体32種とキレーター10種の組み合わせ320通りの中から最適な組み合わせを見つけた。次に、タンパク質工学の手法で性能を向上させ、蛍光変化が11.3倍の強さにまで到達した。最後に、同じく生体内で重要な機能を持つナトリウムイオンを検出対象としたセンサーを同様の手法で開発し、センサーの設計手法がさまざまな金属イオンを対象として応用できることを明らかにした。
今回の新たなセンサーやその設計手法の開発は、脳や疾患などのメカニズム解明への活用はもちろん、さらなる高性能の新たな蛍光バイオセンサーの開発へ前進する知見となる。従来のセンサーでは未解明だった部分を補い、生物学の研究をさらに進歩させることが期待される。