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2017年3月27日

訪問してもわからない? 研究室のオモテウラ【調査報道:ブラックラボとは何か③】

 
 

 ブラックラボは果たして実在するのか、それとも都市伝説じみた虚構なのか?この連載を通して調査し、研究室におけるブラックさとは何か、前回前々回に引き続き考察する。今回は現役の理系学生に話を聞いた。

 

 文系学生と比べ、院への進学率が圧倒的に高い理系学生。研究職に就く条件として修士号または博士号を掲げる民間企業も多く、専門的な研究ができるのは大学院からと考えられているようだ。東大の理系学生の約7割、国家資格取得を目指す6年制の医学部医学科、農学部獣医学科、薬学部薬学科を除くと8割近くが大学院に進学する。学部で配属された研究室に引き続き所属するものもいれば、他の研究室や他学部、他大へと移る学生もいる。

 2015年(第65回)学生生活実態調査の結果報告書より

 

 平成28年度大学院学生の入学状況によると、東京大学大学院の入学者は3200人程度で、その半数近くを占めるのは他大からの外部進学者だ。数ある大学院の中で東大の大学院を志望した理由は「自分の志望した研究科(専攻分野)があったから「スタッフ・環境・設備が優れているから」「将来の進路を考えて」などが挙げられる。

2015年(第65回)学生生活実態調査の結果報告書より

 

 他大の研究室の情報は、内部に親しい人がいない限りなかなか入ってくることはない。そのため事前に研究室のHPを見比べ、研究科主催の説明会に行くなどして候補を絞り、最終的には研究室訪問で得た感触で行きたい研究室を決めるというのがよくあるパターンだ。

 

 今回話をきいたCさんも外部進学者の1人。Cさんは都内の私立大学から東大の院へ進学した。元々やりたい研究テーマがあり、院試を受ける前は複数の研究室を訪問した。最終的には「一番自分の興味にあっていて、教授も魅力的だ」と感じた東大のとある研究室を第一志望に据え、見事合格を果たした。「合格して第一志望の研究室に行けることがわかった時は本当にうれしかったです。研究も就活もこの調子で上手くいくと思っていました」と語る。

 

研究室訪問とは違った先生の素顔

 

 しかし入学してひと月もせずに、研究室を訪問した時とは違う雰囲気を感じるようになった。

 

 初めに小さな違和感を持ったのは入学して3日目、Cさんの同期が数分遅刻して登校した時だったという。Cさんが配属された当初、研究室のコアタイムは9時半~17時と定められていたが、先輩が数分遅刻してきたところ「時間通りに来ないとはどういうことだ、過ぎてるぞ!」と声を荒げきつく叱りつけた。その日がたまたま不運だったわけではなく、それ以来研究室の空気が張り詰めていると常に感じるようになった。「教授は学生室に誰がいて誰がいないかを常に見ていました。長時間いない人がいるとどこへ行ったかを周りの学生に聞いていて、監視されているような気がしました。研究室を訪問した際は先生はとても物腰が柔らかくて、理路整然と話すかっこいい先生だと感じただけにギャップに驚きました」と語る。

 

 また、コアタイムである17時を過ぎれば帰っても構わないという説明を受けたものの、17時過ぎに研究を終え帰り際に「失礼します」と声をかけると不機嫌そうに一瞥するだけで返事はない。20時頃までいないと挨拶すらしてもらえないのだと気づいて以降、コアタイムを過ぎても帰りづらく、研究室で過ごす時間は徐々に伸びていった。

 

休日の連続メール

 

 こうして平日は研究室に出ずっぱりになったが、土日はコアタイムもなく登校する必要はない。休日は研究を離れ息抜きがしたい、そう感じていたが研究の進捗や共同研究に関するメールは休日もお構いなしに届く。

 「メールが来るだけならいいのですが、返信をしないとせっつきのメールが何度も届き、挙句の果てに高圧的な電話がかかってきました。教授の言い分としては『土日も平日も学生である。嫌なら籍を外せばいい』というものでした」と語った。

 

SNSでの監視

 

 連投はメールだけではない。facebook上で研究室のグループページを作りメンバーとして半強制的に追加させられた。

 「教授に見られていると思うと、写真をあげたり文章を投稿したりということはできなくなりました。さぼっていると思われないように、ログインは必要最低限にとどめました」

 

就職 < 博士課程

 

 大学院修了後は民間企業での就職を考えていたCさん。就活はスムーズに進めることができたのだろうか?

 「先輩は大変そうでした。面接がある日も、朝に研究室によって荷物を置きPCを起動させ、さも研究室内にいるかのように装ってから面接会場へと出かけていきました」

 

――就活をすると伝えることはできなかったのですか?

「『博士課程にいかない人間は(研究しても)無駄だ』というようなことを言う先生でしたので、就活すると堂々と伝えることができませんでした」

 

――Cさんの時も就活しづらかったのでしょうか?

 「先輩方ほどは厳しくはありませんでした。別の教授から何か言われたからかもしれません。私は研究の内容に関して突っ込まれないように、常に進捗を出すようにしていました。ただ何かにつけて博士を勧められたのには閉口しました」

 研究室を選ぶ際、研究室訪問だけでは分からないことはある。研究室を選ぶ際には教員だけではなく、その研究室の先輩にも話を聞いたほうがいいだろう。また、この先「就活」をするのか、「研究者」になりたいのか研究室訪問時に伝えることも重要かもしれない。


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