グローバル化が進む中、日本で就職する留学生が増えている。日本学生支援機構の調査によると、卒業後に日本で就職する外国人留学生は、2008年度の8736人から18年度の20402人にまで、10年間で1万人以上増加。東大でも日本での就職を希望する留学生は多い。留学生、大学の留学生支援担当者、留学生を採用する企業それぞれの目に、留学生の就活の実態はどのように映っているのか。当事者に話を聞いた。
日本人学生と変わらぬ対策を
東大工学系研究科社会基盤学専攻の修士課程を修了した林岑蔚さんは、現在清水建設で働く。修士1年の春には、「日本組織事情」という授業で、それまでの人生をまとめ、エントリーシートを準備した。面接の流れを把握し、夏季インターンシップで仕事を体験。12月までに合同説明会と短期インターンシップに参加し、日本の就活文化を深く理解したという。
林さんは「企業説明会で担当者の方へ積極的に質問することで業界用語と知識を学び、意欲と熱意を伝えられる。さらに顔も覚えてもらえる機会になる」という。そして「Webテストに関しては、日本語を母語としない留学生にとって、言語セクションの難易度が高い。数理などの非言語のセクションを押さえることで、Webテストに合格できる」と話す。
また「個人面接では正直に回答し、コミュニケーションを成り立たせることを心掛けた」と林さん。自分の研究が社会貢献につながることを強調し、皆に理解してもらえるよう説明を準備した。日本語のスピーキング能力は母語話者には及ばないが、ボディーランゲージを用いて聞き手を引き付けた。グループディスカッションも同様に、参加の回数を重ねるほど自信がつき、上達を実感した。
最終面接では気を抜かずに入社意欲をアピールすべきだという。辞退する場合には礼儀正しく内定先に伝えることを意識。外国人が日本での就活時に心掛けるべきことは、日本語能力を除いて基本的には日本人と同じであると振り返る。
林さんは、修士1年の3月に本選考が始まり、1カ月後には内定を獲得したと話す。早めの準備が就活成功の鍵だと自身では分析するが、外資系企業を志望する場合、より早めの準備が必要だという。
入社後見据えた就活心掛けて
留学生と日本社会の接点を作り、ジョブフェアなどで就活支援も行うのが、留学生支援室だ。企業の人事担当者から直接留学生向けのアドバイスを受け、自己分析や面接練習を行うセミナーも提供する。留学生支援室の原田麻里子講師(東大相談支援研究開発センター)は、「就職というよりキャリア全般について助言している」と話す。
留学生からは進路選択、企業選び、エントリーシート、留学生特有の秋卒業に向けた就活スケジュール、在留資格など、就活の情報に関する個別相談を多数受けると原田講師は話す。ネット上の日本人就活生向けのマニュアルに左右されず、日本の就活を理解し、自らの専門性やキャリア設計を熟慮した上で情報を多く集めることが望ましいという。日本人学生が多数アピールするサークル活動経歴などに惑わされず、「なぜ日本?」「自分はいかにこれまで頑張った?」といったことを考えて書くことこそが企業人事に響く。
留学生支援室では、現状に合った戦略の立て方を相談に来た留学生に伝えている。日本企業の働き方、雇用慣行も大きく変化している。依然残る日本特有のイメージに固執せず、多様化する現状について伝えるのも大切な役割だ。
新型コロナウイルス感染症の流行で就職が厳しくなる中、勉強や研究に力を注ぐ人こそが社会に求められ、就活に成功すると原田講師。「入社はゴールではありません。留学生に限った話ではないですが、入社後評価を得て、自己充実し、社会で活躍できるようになるかを留学生に意識してほしいですね」
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この記事は2020年9月22日号から転載したものです。本紙では他にもオリジナルの記事を掲載しています。
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