キャンパスライフ

2018年12月21日

東大の海外プログラム特集 世界に踏み出すきっかけに

 学生のうちに、国際経験を積んでおきたいという人は少なくないだろう。そんな学生のために、東大にはさまざまな海外プログラムが用意されている。それらの魅力とは何なのか。本企画では参加者の生の声を紹介する。また、今年の1年生から新たに国際総合力認定制度(Go Global Gateway)が導入された。同制度の企画者や利用者に取材し、すでに多くの海外プログラムがある中で同制度を導入した狙いに迫る。

 

(取材・楊海沙)

 

普段と違う視点で海外を見る

 

 海外プログラムに参加した学生は、活動を通じて何を感じたのだろうか。3人に話を聞いた。賀友如さん(文II・2年)は今夏、第2外国語を集中的に学ぶTLP(トライリンガル・プログラム)の一環としてフランスで語学研修に参加。社会問題を題材に、ロールプレイや議論を交えながらフランス語を学んだ。普段は難しい単語を学ぶことが多く生活用語に疎かったため、ホームステイではホストファミリーとの会話で苦労したという。「身近な単語の勉強の必要性を痛感しました」

 

 観光や現地人との交流を通じて「フランスの文化や社会を学べたし、フランス人は自国の文化や自由平等の精神に大きな誇りがあると感じました」。フランス語能力が上がった実感はないが「とりあえず話せば何とかなる」という度胸はついた。ただ、2週間という期間は短く、ホストファミリーや共に授業を受けた他国の学生と十分に仲を深める余裕がなかった。

 

フランスの西部カトリック大学前での記念写真(賀さん提供)

 

 9月にタイのチュラロンコン大学でサマープログラムに参加した岩永淳志さん(文II・2年)。タイ語に加え、タイの文化や社会の講義で仏教の概念などを英語で学び、最終日は宗教について発表した。「仏教が形を変えずに日常に根付く一方、多くの国々の文化を受容する風土があると知りました」。休日は第二次世界大戦中に日本軍が強制労働を強いた遺跡を訪れ、今まで知らなかったタイと日本の昔の関係を学べたという。

 

 本屋に日本語の漫画があったり、日本語話者が多かったりと「予想以上にタイでの日本の存在が大きいことに気付きました」。また、タイで働く東大卒の社会人と交流し大きな刺激を受けた。偶然の出会いが楽しみに発展することも多く「いろんなところでいろんな人と会うのが大事」と実感。「今まで行ったことない国に行く良いきっかけになり、今度は自分で海外に行こうと思いました」

 

 ただ、2週間では学びが広く浅くなりがちであり、専門性を十分に深めたいのであれば入念な事前準備が必要だと話した。「何かを学ぶというよりはその場の雰囲気を知るためだと割り切ってもいいと思います」

 

バンコクのナイトマーケットの夜景(岩永さん提供)

 

 野中崇遥さん(文III・2年)は2月に北京大学やソウル大学校の学生とともにキャンパスアジアのソウルウィンタープログラムに参加。韓国語学習に加え、映画を見て討論したり、グループ活動で文化の保存をテーマに民俗資料館などを訪れたりした。北京大学とソウル大学校の学生の英語が東大生に比べて非常に流ちょうなことが印象的で、語学に対する意欲が向上。休日は世界遺産や博物館、繁華街を訪れ、博物館では韓国側の視点から、朝鮮戦争などの歴史を学べたという。

 

 街並みや生活様式、文化や価値観が日本と類似し「海外だからと壁を作らずに、自国との類似点を見つけるのも大事だと気付きました」。ソウル大学校や北京大学の学生との交流は今も続き「海外に気軽に会える友達ができ、海外に行く抵抗がなくなりました」と話した。

 

一大観光地である明洞(ミョンドン) (野中さん提供)

 

東大生全員に国際体験を

 

矢口祐人(やぐち・ゆうじん)教授 (総合文化研究科、グローバルキャンパス推進本部国際化教育支援室長)
 89年、ゴーシエン大学卒。99年、ウィリアム・アンド・メアリ大学大学院でPh.D.(American Studies)取得。北海道大学助教授(当時)などを経て、13年より現職。

 

 今年度から始まった国際総合力認定制度(Go Global Gateway)。学生は外国語学修、授業・コース、海外経験、国際交流活動の四つのうち三つ以上に取り組んでレポートを提出し、承認を受ける。最後に、活動を通じてどのように国際総合力が身に付いたかをレポートとして提出し、認定を受ける仕組みだ。導入の狙いや利用者への期待を、グローバルキャンパス推進本部国際化教育支援室長の矢口祐人教授(総合文化研究科)に聞いた。

 

国際総合力認定制度の流れ(国際交流課提供)

 

 「社会に出てから国際化の影響を受けない人はいないでしょう」。同制度を導入したのはそんな時代で生きる力をつけるために「国際体験の門戸を広くし、トップ層だけでなく東大生全員にチャンスを与えたいから」だ。例えば、TLPは入試の英語の成績が上位1割の学生に参加が限られる。また、部活で忙しく海外プログラムに参加しづらい学生もいる。そして、既存の海外プログラムは一度行って終わりということが多い。一方で同制度は1年中継続的に参加できる。

 

 学内でさまざまな国際交流イベントを開催。ベルリン、オーストラリア、ハワイにおけるウィンタープログラムも企画し「パスポートもない学生が海外に踏み出す敷居を低くできれば」と話す。語学だけでなく、言語学やジェンダーについても学べるなど、学問的にも中身がある企画だ。

 

 このように、大学側は学生がさまざまな国際体験を得られるように仕掛ける。海外に行く必要はなく、身近なところからどのように国際経験を積むか、身に付けるべき国際総合力とは何かを学生に考えてほしいという。レポートや活動履歴はポートフォリオとして蓄積され、後から自分の成長の軌跡を振り返ると同時に自己PRや就職活動などにも使うことを期待。活動内容に優劣はつけず「学生が自由に交流活動をできる舞台を作るのが我々の役割で、主役は学生です」。

 

 既に約400人の1年生が登録。レポートを読む中で、国際化について真剣に考える意欲的な学生が多いと感じた。「彼らの声に応えるとともに、より多くの学生が参加するような仕掛けを増やしたいです」

 

Taiwan Nightでの交流を深める学生たち(国際交流課提供)

 

 登録者の森映樹さん(理I・1年)は台湾人留学生と交流する「Taiwan Night」を通じて台湾の文化や大学事情を知った。同制度の別のイベントでの交流がその場限りで終わった反省を踏まえて積極的に連絡先を交換。その結果、駒場祭を一緒にまわるつながりができ、積極性の大切さに気付いた。ウィンタープログラムにも参加予定で「自己負担が交通費だけなのがありがたいです」。

 

 別の登録者は留学経験者との交流会で留学の楽しさや意義を知り、留学への意欲が高まった。ネーティブを招いた無料のIELTS対策講座にも参加し「試験の攻略法を知ることができて良かったです」。

 

留学経験者の話を聞く学生(国際交流課提供)

 

 ただ、2人とも「当初は制度の内容や趣旨がよく分からなかった」と指摘。学生に対するより明確な説明が必要になるだろう。また、最初に出す所信表明のレポートの期限も大学生活が始まって間もない4月中で、慌ただしかったそうだ。イベントやウィンタープログラムの対象者が登録者に限定されていることに対し「もっと全学に開かれたものにしてもいいのでは」という意見も。このようにまだ改善や検討の余地はあるが、2人とも「気軽に参加できるのが良い」と口をそろえる同制度。今後の展開に注目だ。


この記事は、2018年12月18日号からの転載です。本紙では、他にもオリジナルの記事を掲載しています。

 

 

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