インタビュー

2017年11月18日

技術と戦略と人格が出会うとき オンコロジー開発企業に学ぶ先端技術の産業化の仕方

 全国的に産学連携がホットだ。実は東大発のベンチャーも数多い。経済産業省が4月に発表した「大学発ベンチャー調査」によれば、2016年の東大発ベンチャーの数は216社で、2008年の125社から大幅に増加している。国内の他大学と比べても、2位の京都大学(97社)や同率3位の筑波大学・大阪大学(76社)を大きく引き離し首位となっている。

 

 一方で、課題もある。東大と密に連携するベンチャーキャピタルである、東京大学エッジキャピタル(UTEC)代表取締役社長マネージングパートナーの郷治友孝氏は研究を強みとする東大生には、経営者に向いた人材が圧倒的に少ないことを指摘する。実際に、「大学発ベンチャーへの支援で大切なことはお金よりも経営サポート」として、ベンチャー企業の立ち上げ期などに、“経営者探し”を手伝っているという。(「なぜ、「東大発ベンチャー」が増えているのか–UTEC・郷治代表に聞く」2016年11月7日CNET Japan)

 

 東大が、高い技術力を誇っていることは間違いない。ただし、それがすぐさま産業的価値を生み出すわけではない。大学の技術を産業界に移転する際に生じるライセンス供与やコンサルティングサポートを手掛ける東京大学TLO(Technology Licensing Organization 技術移転機関)代表の山本貴史氏は「(東大の)大学ランキングは落ちてきたといわれますが、世界の有名な大学の技術移転オフィスの人たちに具体的な案件の話を聞いていて、日本の大学の技術が劣ると思ったことは、ほぼありません。むしろ海外の大学は、こんな技術でベンチャーを作って大丈夫かと思うことのほうが多いのです。つまり日本は、インベンション(発明)はいいのですが、コマーシャライゼーション(商業化)がまだ弱いと感じます」とコメントしている。(我が国における産学連携の状況2015年11月25日)

 

 技術はあっても経営などの商業化する力が東大には弱いという指摘は、専門的な教育を受けている東大生にとっても人ごとではないだろう。自身の専門性が、社会でどう生かされるのか。大学として誇る高い専門性を、社会にどう生かしていくのか。そのヒントとなるような事例を探したい。

 そう思い訪れたのは、国内の独立系CRO(Contract Research Organization 開発業務受託機関)である株式会社インテリム(以下インテリム)。CROとは、製薬会社から依頼を受け、医薬品の開発や臨床試験などを進める企業のことだ。製薬業界も、グローバル化の過程でも医薬品開発にかかわるすべての業務をアウトソーシングする傾向が見られるようになった大手製薬会社の開発業務を一手に引き受ける。

 

 その中でもインテリムは、難易度の高い臨床試験、とりわけがん領域(以下、専門用語である「オンコロジー」と表記)における実績を積み重ね業績を伸ばしてきた。上場していない独立系CROだが、上場している国内大手やメガ外資CROとのコンペでも勝利し受託するケースが相次ぎ、国内のみならず欧米からの受注が止まない。株式会社インテリム代表取締役、浮田哲州(うきた・まさくに)社長に聞いた。

(取材・沢津橋紀洋)

 

――会社設立の経緯と、ここまで業績が拡大したストーリーについて教えてください

 私がインテリムを起業したのが2005年です。当時、日本ではCROが定着して20年ほどたっており会社が乱立していました。その多くは、製薬会社から言われたことを実施するためにマンパワーだけを提供するサービスでした。我々が目指したものは、製薬会社の開発部門同等以上の能力を持ち、医薬品開発における全ての工程において、ノウハウを提供する高度な専門知識提供型のサービスです。この「シンクタンク」方式のサービスに未来があると思い、参入障壁が高い業界ですが最後発ベンチャーCROとして新規参入しました。

 その中でオンコロジー領域に特化しようと思ったのは、今から約6年前です。当時の製薬メーカーが生活習慣病などすでにニーズのある領域に集中している中、今後はアンメットメディカルニーズ(UMN)と呼ばれているまだまだ治療満足度の高くない領域、これから開発していかねばならず、今後ニーズが増えるであろうオンコロジー領域に先ずターゲットを絞り込む戦略をとりました。

 もちろん、当時はオンコロジー領域での実績は社内にはありませんでしたが、日本臨床腫瘍学会創設者であり、当時近畿大学の特任教授であった西條長宏先生に弊社の顧問になっていただくことになりました。

 西條長宏先生は、国立がん研究センターや大学病院といったアカデミアが臨床試験を実施する場合に、リソースが足りないため、アウトソーシングする必要があり、インテリムのような組織が臨床試験を実施していく上で非常に重要であると認識され、お引受けいただいたと仰っていました。(https://oncolo.jp/feature/20170209t

 

――CROという業態について教えてください

 学生さんの目線でお話しします。皆さん、「製薬会社」といって思い浮かぶ大企業がたくさんあるでしょう。薬学部や医学部の学生さんは、そのような大企業に就職すれば医薬品開発ができると思っている方も多いと思います。しかし、正確には製薬会社の社員だけで新薬を研究開発しているケースは、今では少なく、ほとんどが当社のようなCROにアウトソーシングしているのです。年々新薬開発の難易度が上がるとともに、製薬会社が従来行っていた業務も全てアウトソーシングされるようになり、CROにも高い専門性と開発力・技術力が求められてきています。

 

――あえて上場して資金を集めず、「独立系」という立場を取ったのには理由があるのでしょうか。

 経営の自由度とスピードを重要視しているからです。

 現在インテリムは国内の独立系CROとしては日本最大規模になっています。

 どこかの資本が入ったり、上場をしたりすると株主に向けた経営や情報発信をしないといけません。 どこかのタイミングでIPOは検討すると思いますが、自己資金で経営できる今は、会社を上場するメリットや必要性を感じてはいません。

 買収されるリスクも低いので、独自経営を貫けることが強みだと思っています。

 

――インテリムの独自性について教えてください

 先ほども申し上げましたが、「シンクタンク方式」のサービスが提供できる点です。臨床試験を実施するためのマンパワーを提供するだけではなく、開発、マーケティング、販売、コンサルティング、研修をフルパッケージでカバーしています。

 インテリムの新規事業は全て私が企画から立ち上げ、黒字化するまでの事業責任を社長である私が直轄でマネジメントをしています。例えば、オンコロジー領域における独自の研修資材を持っているので、オンコロジー開発をしている内外資の企業に外販することができます。インテリムの研修制度は、業界内でも知られており、研修内容も充実しています。研修をビジネスとして外販しているCROは、他にありません。

 また、最近反響が大きいのがAIを使ったメディカルコールセンターサービスです。労働人口が減る中で、いかに人に頼らないビジネスモデルを創るのかがベンチャー経営者の仕事だと思います。共通していることは、先ず一番初めに動くことです。

 ファーストムーバーは、ルール作りから出来ることが最大のメリットです。そうすることで、競合他社がいないため、インテリムに最初に依頼が来るのです。業界の慣習やルールに縛られていては、イノベーションは生まれないと信じています。

 

――そのような着眼点で事業構築できている理由はなんでしょうか

 私が文系出身だからかもしれません(笑)。私は、アメリカのシンクタンクで働いたことはありますが、製薬企業に勤めていたことはないのです。文系出身、業界未経験で医薬品開発を行うCROを創業したのは世界でも私だけだと思います。多くの会社は、理系出身者や製薬会社出身がほとんどだと思います。

 先ほども申し上げましたが、業界のしがらみや固定観念がないので自由な発想で事業構築をすることができます。製薬会社からも我々の提案を面白がられて評価されることが多いです。その噂が海外でも広がり、お問い合わせを頂くことが増えています。

 最近、オンコロジー領域だけでなく、再生医療分野も専門部署を立ち上げました。既に次の柱として成長しつつあります。インテリムの今年のスローガンは「Re:Definition ~当たり前を疑え!!~」。イノベーションを起こすためには、既成概念にとらわれていてはダメだと常に社内で説いています。

 

アジアで最も卓越したCROになるというインテリムの目標達成のために必要なことを、社員たちが1日をかけて考え抜く。最終的には8領域、64の項目にブレイクダウンする。自分の頭で考える力が問われている(写真はインテリム提供)

 

――今取り組まれている事業を継続的に発展させるために、一番必要なことはなんですか

 私は「心の教育」だと思います。会社や組織は、自分の人格以上の器に成長することはあり得ません。インテリムは「アジアで最も卓越したグローバルCRO」を目指しています。卓越した組織には「卓越した心技体」を持った社員が生き生きと働いていると思っています。医薬品開発の領域は知識の更新スピードも早いので、常に自己研鑽、学び続けることが必要です。それは最先端に行けば行くほど必要ではないでしょうか。「知識」と「人格」がバランスよく育っていること。そういう一人一人がいる時に、技術は産業になるのだと思います。

 

――ありがとうございました。最後に、学生へメッセージを

 そうですね。領域を絞らずに一般的に言えば、学生のうちに考えてほしいことは、「何になりたいか」ではなく「何をやりたい(成し遂げたい)か」です。「医者になりたい」という人がいたとします。では、その目的は? 「人を救いたい」のであるならば、医者以外にも手段はたくさんあります。そういう志が立っていれば、何があってもぶれることはありません。

 製薬業界志望の方に限って言えば、アジアで新薬開発が出来るのは、今のところ日本だけです。日本の技術力は本当に素晴らしいと思います。しかし、最早内需だけでは今後の成長は見込めません。韓国、台湾のように外需をいかに取り込んでいけるかが成長の鍵になります。

 日本で業界何位かを競うのは本当に意味がないと思います。最低でもアジア、またはグローバルの規模で考えてほしい。国内だけでの価値を決して競い合わないでほしいです。

 私は海外での採用もしていますが、本当に中国、韓国、台湾などのアジアの人材のレベルは高いです。現地語プラス英語を話せるのは普通で、そこからプラスアルファの勝負をしています。

 私は最初からグローバル人材として人を育てる気でいて、研修もデザインしています。インテリムも、アジア展開を加速しています。学生の皆さんには、ぜひ目線を高く上げて、志を持って生きていってほしいと思っています。医薬品開発、それにつながる事業開発に興味を持つ学生さんが増えることを願っています。

 オンコロジーについて、今社会では様々な情報が飛び交って混迷を来している。筆者は文系の学生記者であるがゆえ、技術的に理解しきれていない点があることに留意されたい。今回は「先端技術の産業化の仕方」という視点で読んでいただければ幸いである。

 

※オンコロジーに興味がある方は浮田社長のこちらの対談も参考にどうぞ。

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