「インスタブームに迫る①」では学生目線でのInstagram(インスタ)の利用法や魅力を聞いた。では、インスタを使いこなすプロはインスタをどのように捉えているのだろうか。経済学部を卒業後、広告会社で働く傍ら「インスタグラマー」という東大卒としては異色の肩書きを持つ山田茜さん(@chocolat.akane)。今やフォロワー数1.7万人(2018年7月現在)を誇る彼女に、インスタの効果的な利用法やインスタグラマーとしてのやりがい、現在のトレンドなどについて聞いた。
(取材・楊海沙)
──インスタを始めたきっかけは何ですか?
広告会社の仕事でクライアントにインスタの活用法を提案する中で、まず自分がインスタの使いこなし方を分からないと説得力がないと思ったんです。そこで、インスタにとことん向き合う実験をしてみようと思いました。もともと友達だけに見せる用の鍵付きのアカウントは持っていましたが、友達の目を気にせずに思う存分投稿できるように公開アカウントを新たに作りました。インスタを通じて自分オリジナルの世界観を作り上げられることに可能性を見いだしたのもインスタを始めた大きな理由です。
アカウントの“柱”を決める
──1.7万人ものフォロワーを持つに至った経緯をお聞かせください。
インスタと真摯(しんし)に向き合い0から発信力を高めることを目的としていたので、趣味としてではなく、戦略的に投稿しました。自分が投稿してきた内容の中で何の反応が良かったのかなどを分析しましたね。ひたすら食べ物の写真を投稿しているグルメアカウントではラーメンやスパゲティの写真も反応が良いけれど、自分のアカウントの場合あまり反応が良くなくて。逆に、旅行や女子会の写真の反応が良かったので、次第にそのような投稿を増やしていきました。フォロワーが増えた段階でまたラーメンの写真を投稿して反応を見たりして、試行錯誤を繰り返しましたね。最初は「いいね!」が1、2件しか付かないときもありましたが「このアカウントはこういうことを発信していく」という一つの“柱”を決めることで時間をかけて発信力のあるアカウントを育てていきました。
──山田さんのアカウントはどのような“柱”を持っていますか?
私はインスタを始めた2015年から2016年までと、それ以降でそれぞれ別の“柱”を持ちましたね。前者においては、インスタを始めた直後に結婚が決まったこともあって、結婚式準備の様子を投稿したら反応が大きかったので、それを中心に投稿していったらフォロワーが増えました。2016年秋に結婚式が終わると、私の投稿を見た多くの花嫁から結婚式についての相談を受けウエディングの業界向け講演を依頼されるようになり、それらの仕事やインスタ・ブログなどを通じて友達がたくさん増えたんです。今まで延べ300人を超える花嫁とお会いしてコミュニティーが広がり、知り合った花嫁たちと月1回女子会を開催したりして、今ではその様子を伝えつつおいしいお店を紹介するグルメレポートや、旅行に関する投稿が“柱”ですね。
写真だけのメディアではない
──インスタに投稿する上で心掛けていることはありますか?
その人オリジナルのテーマや面白さがそのアカウントの魅力になると思っています。私は友達と遊んだり旅行に行ってきれいな景色を見たりミーハーなことが好きなのですが(笑)、それだけだとよくありがちな女子の投稿になってしまう。ミーハーなことって一見薄っぺらいように思えるけど、人間のミーハーな心が経済を動かしているのも事実。なので、その裏にある深い背景を論理的に分析して説明するようにしています。ただ「◯◯がおいしかった」だけじゃなくて、シェフが話してくださったことやなぜおいしかったのかを書いて一歩踏み込んだり。どういう切り口で発信したら自分をフォローしてくださっている方々が喜んでくれるかを考えて、ただ「きれい」と思わせるのではなく「実際に行ってみたい」と思わせるような投稿をするように心掛けていますね。
よく「ツイッターは言葉のメディアで、インスタは写真のメディア」と言いますよね?ですが、私は文章の情報量も意識するようにしています。情報収集をして文章を書くのが好きで、写真を撮るのがうまい人がたくさんいる中で誰かに見つけてもらうためには、自分の個性を生かさないともったいないと思って。こういうところに東大卒としての独自性は出ている気がしますね。
──ハッシュタグはよく使いますか?
たくさん使います。発信して一人でも多くの人々とつながるためには、MAXである30個までハッシュタグを付けるのがおすすめです。ハッシュタグで検索して私の投稿を見た人が「検索して見たかったものと違う」とがっかりしないように、写真や文章に関係のあるハッシュタグしか付けません。また、よくハッシュタグで「#イケメンすぎる」とかオリジナルの文を書く人がいますよね。でも「#イケメンすぎる」って検索する人は少ないと思います。ハッシュタグに文を入れるのは面白いですし、読み手へのサービス精神としてはいいのですが、他の人の検索でヒットするという役割は果たさないので、私はそのようなハッシュタグを入れないようにしています。
ありのままの自分を見せるように
──これまでのインスタの投稿やハッシュタグの流行はどのように変わってきたのでしょうか?
写真できれいに写りたいと思うのは当たり前のことだと思いますが、最近は決め決めのポーズをするよりはあえて友達と公園にいる時や食事している時など、リラックスしている自分をアップするのが浸透してきていますね。「こんな格好ですみません」という投稿もあるし、インスタにアップする写真のハードルが下がり、素に近くなってきています。例えば女優さんも以前は撮影中の写真や素敵な場所をロケで訪れたときの写真などかっこいい写真が多かったのに対し、最近は逆に「お仕事終わりました」などと、リラックスして素の自分を見せている舞台裏の写真など共感を呼びやすい投稿が多いですね。誰しもオンとオフがあり、オンだけではなくオフの部分もインスタで見せられるようになると、より親しみやすくなります。インスタはこれからも人々の生活に密着していき、人々はもっと素の自分を見せるようになると思います。
ハッシュタグに関しては、最初は「#コーヒー」「#カフェ」など一般名詞だけでしたが、2年ほど前から言葉を組み合わせた造語が多くなりましたね。例えば、靴や洋服などを並べておいただけの写真に「#置き画くら部」と付けたものや「#上下ユニクロ部」「#スイーツ部」のように「部」が入ったもの、あとは「#旅行好きな人と繋がりたい」のように「#〇〇な人と繋がりたい」というハッシュタグが多いですね。「#上下ユニクロ部」の場合、ユニクロの社員ではなく普通の人が最初に「#上下ユニクロ部」というハッシュタグを考えてユニクロの服を使った上下のコーディネートをアップし始めたら、みんなが「これいいじゃん」と思って同様のものをアップするようになり、最終的には「#上下ユニクロ部」の投稿を参考にコーディネートを考えてユニクロに買いに行く人が生まれたり。また「#置き画くら部」は、その言葉がなければただの「#スニーカー」「#Tシャツ」というハッシュタグを付けるしかありませんが「#置き画くら部」という言葉を付けることで自分がアップしていく写真のいくつかが「置き画」という共通点でくくられカテゴライズされ、つまりさっき述べたような“柱”を明確化する感じになります。ハッシュタグを作った人が有名になるという事例もあって、何気なく作ったハッシュタグがみんなに使用されるようになり、その分野の第一人者のようになれるのが面白いと思います。
「インスタ映え」でひとくくりにすべきではない
──山田さんは「インスタ映え」という言葉をどのように捉えていますか?
最近「インスタ映え」を求める人々を揶揄(やゆ)する「インスタ蝿」という言葉がありますよね。でも、きれいなものが好きとか、ふわふわなソフトクリームをかわいいと思う気持ちって当たり前だと、私自身女子として思います。「インスタ映え」という言葉が生まれたばかりの時は良かったのかもしれませんが、企業などが「インスタ映え」と称して商品を人々に勧めることに対しては違和感を覚えます。きれいなものをきれいと思ったり、かわいいものをかわいいと思う気持ちって自然でいいはずなのに「インスタ映えします」と向こうから提示されると、自分が「インスタ映え」を求めているのだと当事者が冷静になってしまうのではないでしょうか。純粋にかわいいからそれをアップしたいと思っていたのに、自分は「インスタ映え」を追いかけているのではと思えて冷めてしまうのはもったいないですね。「インスタ映え」という言葉を気にせずに、自分が好きだと思うものをアップすればいいし、そういう流れに今はなってきていると思います。
また「インスタ映え」するものとはどのようなものであるかは、人によって違うと思います。かわいいものやきれいなものだったり、シンプルなものだったり、レトロなものだったり。フルーツがたくさん盛られたケーキを「インスタ映え」すると思う人もいれば、古き良きカフェの無骨なプリンを「インスタ映え」すると思う人もいる。私自身「インスタ映え」という言葉自体にはただ「良い」という意味しかなく、その言葉を使うよりも、むしろどういう意味で「インスタ映え」なのかを考えるようにしています。カラフルで気分がハッピーになるからなのか、シンプルであるが故にいとおしく感じるからなのか、肉汁がいっぱいで食べたくなるからなのかなど、理由を考えるようにしていますね。
インスタでフットワークが軽くなる
──どのような投稿が人々の心をつかむとお考えですか?
役立つ投稿や、見ていて幸せになれる投稿だと思います。この店行ってみたい、いつかここ旅行してみたいという夢を抱いて、見た人が前向きになれたり実現できるように頑張ろうと思えたりするようなものですね。また、発信する人ならではのテーマがあるといいなと思います。例えば、家族の話をいつも投稿していたら見ている人はその話を毎回楽しみにするし、犬がテーマのアカウントだったら犬好きな人の心をつかむし。
──最後に、インスタの魅力やインスタグラマーとしてのやりがいについてお聞かせください。
一度も会ったことのない人と友達になれたり、一緒にプロジェクトをやれたり、インスタが出会いのきっかけになることが魅力です。普通に生きていたら会えないような、全く異なる業界のトップや海外の人ともコメントを交わせたり仲良くなれたりするし、本当にワクワクします。また、後から自分のアカウントページを見直した時に、「自分はこういうものが好きなんだな」と自己分析ができるのも面白いですね。「気付いたらこんなものたくさんアップしてるじゃん、自分」みたいな。
きれいなものをうまく発信するために腕を磨くのはワクワクするし、自分が投稿した景色を見て、友達だけでなく全く知らない方から「今度ここ行ってみたい」という連絡をいただけると、いい情報をご提供できたかなとすごくうれしく感じます。自分の趣味やミーハーな心が、ただミーハーなだけじゃなくて、他の人の役に立つといいなと思います。
あとは、新しいものを見つけようという気持ちが芽生えやすくなるのもインスタの楽しいところ。「今日こんなものを見つけました」「今日こんなところ行ってきました」などと投稿していると、インスタをやることによって新しいものを探そうというアンテナを自然と張るようになると思います。「楽しいことないな」と家の中でゴロゴロしている人がインスタで見かけたかわいいアイスクリームを見て「食べに行ってみよう」と思ったり、素敵な景色がタイムラインに流れてきて「そうだ、あれ見に行こう」と思ったり、人生の小さい楽しみのきっかけを作ってフットワークを軽くし、生活に彩りを与えてくれますね。
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山田さんはただミーハーになるのではなく、その背景を論理的に説明することで独自性を発揮している。写真だけではなく、その説明文やハッシュタグの言葉にも注意を向けることで、インスタの投稿により深みが増すという。何が「インスタ映え」するのかよりも、なぜ「インスタ映え」するのかが大事だ。
また、インスタの投稿は単におしゃれでかっこいいものから、人々のありのままの生活に密着したものにシフトしてきている。日常の中でつい退屈を感じてしまう人は、インスタを通じて多くの場所に足を運ぶきっかけをもらい、知見を広げてみてはいかがだろうか。
次回は、電通メディアイノベーションラボ副主任研究員の天野彬さんに、「インスタブーム」の裏側には人々のどのような心理があるのか、そしてインスタはビジネスにどのように応用できるのかを語ってもらう。
【インスタブームに迫る】