日本の大学生の大学院進学率は約12%。社会の発展へ大切な役割を担うが、大学院生は決してありふれた存在ではなく、そのリアルは想像しがたい。社会人経験のある人や今年院進した人など前後編あわせて5人の先輩に、院進のきっかけから「研究者」としての活動の実際、そして思い描く未来について聞いた。具体的なイメージを持ち、社会の未来を考えてみよう。研究やアルバイトなどの実際の生活のスケジュール例を各末尾に掲載している。院生の生活のイメージをつかんでみてほしい。(構成・清水琉生、取材・伊藤凜花、清水琉生)
学際情報学府学際情報学専攻社会情報学コース
現場での経験を生かし研究
立教大学で紙のメディアが持つ価値について研究。卒業後は新聞社で5年間、販売業務を担当しました。現場で働く中でさまざまな問題意識が生まれ、アカデミアの分野でもう一度研究したいと思ったのが進学の動機です。大学時代の恩師に相談したところ、現在の情報学環を紹介されました。休職や、学位を得ずに働きながら研究する研究生制度も考えましたが、通学や研究職としてのキャリア、仕事と研究対象との距離感などを考え退職を決めました。
院試に向けては過去問を参考に学部で学んだ知識の肉付けをしました。知識面で現役の学部生に劣ることを心配していたのですが、コロナ禍の影響で筆記試験がなくなり、書類選考と口述試験のみになりました。ゼミの見学会などが全てオンラインになったのも、タイミングが良かったですね。
現在は地域における新聞販売店の機能をテーマに研究しています。1年生で卒業に必要な単位を取得しつつ研究の土台となる知識を学び、2年生で論文にします。節目ごとの提出物や発表以外に決まった予定はありません。研究は自己研鑽(けんさん)が主ですが、研究室の仲間との情報交換や、先生方に指導いただく時間も大切です。授業やバイトもあった学部時代と違い、研究を中心に生活し、発言に責任を持つようになりました。
「学問と現場の橋渡しをしたい」という目標を持って進学したのですが、自己評価は20点ですね。修了後の進路は未定ですが、研究はこれからも続けていきたいです。
社会情報学コースでは……
メディアやコミュニケーションに関わる社会現象や文化現象、情報社会の諸問題を学際的に学び、社会情報という視点から研究と実践を行う。
工学系研究科化学生命工学専攻
「ストーリーの作者」になる楽しさ
「研究の世界をちゃんと知ってから進路を決めたい」という気持ちがありました。学部後期課程では化学と生物学への興味から工学部化学生命工学科へ行きました。ただ、4年生の研究室配属の時間だけでは十分に研究を知ることはできないので修士課程への進学まで決めていました。
院試は自分の学科の場合筆記試験よりも面接が重視されているようです。卒論研究の背景理解や内容の伝え方を指導教員とよく練りました。
当初のイメージより基礎研究寄りでしたが、応用研究との役割分担を知ることができた点や、生命の原理を追求できる点でとても楽しめています。出てきた結果を踏まえてどうストーリーを作っていくかを、ディスカッションをして決めていくので、研究テーマに対する自分の裁量が大きいことも魅力の一つです。また、研究と私生活との両立もしやすく、土日にアルバイトをしても研究に集中できています。
RNAの機能や構造を制御し、遺伝子発現に大きく寄与している「RNA修飾」を研究しています。実験一つ一つに時間がかかるので、異なるアプローチの複数の実験を並行して行っています。
専攻の多くの人は修了後研究に関わる職につきます。自分自身の進路は未定ですが、今の研究を続けることだけでなく、研究活動で得たものを生かして日本の医学・化学に貢献できる別のフィールドでの活動にも興味を持っています。
化学生命工学専攻では……
有機化学や生命工学を用いて、優れた化学反応の創成や化学の力を借りた生命現象の解明、新たな高機能生体分子の創造を探求する。