今回は内田ゴシックの特徴について紹介します。
米国の大学建築を中心に19世紀後半より広まったカレッジ・ゴシック様式を基調とする内田ゴシックですが、本郷キャンパスにおける内田ゴシックの代表作を挙げるのであれば、正門から安田講堂につながる銀杏並木の左右に展開する、工学部列品館、法学部3号館、法文1,2号館、工学部1号館、総合図書館の十字エリアでしょう。
建築学科教授と営繕課長を兼ねていた内田祥三は、「よい建築は必ず施工しやすい」と考えていました。合理主義者である内田のこの考えは、震災復興で早急な対応が求められていた当時の大学側の要求に、見事に合致したともいえます。この内田の思想は、スクラッチタイルを多用したことにも顕著に表れています。
一般的なタイル貼建築はレンガ積建築を模したものであることから、レンガ積建築に従い縦目地が通らない破れ目地を採用しますが、内田は工事がより容易である芋目地(縦目地が直線で通る)を採用しています。また、タイルの色ムラや施工の不揃いも、スクラッチタイル表面の凹凸による陰影で気にならず、かえって面白いと内田は評します。つまり内田がスクラッチタイルを採用したのは、施工のしやすさはもちろんのこと、精度の低さを感じさせないという合理的な考えのもとでした。
他にも、内田ゴシックの特徴の一つに通称「犬小屋」と呼ばれるポーチ(入口)部分が挙げられます。頭頂部(フィニアル)には松かさ(松ぼっくり)様、その下には拳葉飾(クロケット)を配したこのデザインは、関東大震災により使用不能となったジョサイア・コンドル設計にかかる旧法文校舎に用いられていた意匠でした。かつてのキャンパスの姿を継承し、建築家コンドルへのオマージュとしての意味も含まれているのでしょう。
ゴシック建築の尖塔のような急勾配の屋根を持つこの「犬小屋」ポーチは、内田祥三の好みであったらしく、設計担当者は内田の好みに合わせ各所に配してゆきます。法文1,2号館はもちろんのこと、工学部船舶試験水槽など本郷キャンパス各所に見られます。実は工学部1号館にも北側の背面入口に「犬小屋」がありましたが、1996年の改修の際に取り壊し、現在はフィニアルが工学部1号館正面玄関に飾られています。
さらに「犬小屋」ポーチは弥生キャンパス(農学部)や駒場Ⅰキャンパス(教養学部)、医科学研究所など、東大の各キャンパスにもアレンジした物がみられます。各キャンパスめぐりの際には、「犬小屋」探しをしてみてはいかがでしょうか。
文・角田真弓(つのだ・まゆみ) 工学系研究科技術専門職員
(寄稿)
【本郷キャンパス建築めぐり】