文化

2021年7月2日

【ひとこまの世界 おうちver.】キッチン道具清掃奮闘記

 オンライン授業の自宅受講により在宅時間が多い今。自炊や趣味のために台所の滞在時間も増えることだろう。その一人である記者は、ある日の休み時間にふと料理をしようと思い立った。25分で目的の料理は完成したが、鍋が焦げ付き、包丁も汚れてしまった。

 



 そこで今回は、空きこまを利用して調理器具の手入れに挑戦する。読者は読みながら、作った料理とは何か推理していただきたい。

 

15:10 手始めに包丁を研ぐ。調理中、タマネギのみじん切りで泣いてしまったためだ。切れ味の悪い包丁でタマネギを切ると目に染みやすいという。砥石(といし)をため水に漬けると、泡がプチプチと湧いてくる。研ぎの最中に研ぎ汁が砥石の小さな穴に吸い込まれ、乾くのを防ぐ下準備だ。

 

15:15 へその正面に縦長の砥石を固定する。砥石に対して包丁が10時の方向を指すように置けば準備は完了だ。柄を持つ手が体から離れすぎないための角度なので、左手で柄を持つ場合は2時の方向を指すことになる。

 

 さて、包丁の峰側と刃側では当然ながら厚みが違う(もし峰側の厚みが刃と同じだったら、峰に添えた指が切れてしまう)。包丁は、刃幅の9割程度は峰の厚みを維持し、下端近くから薄くなっていくのだ。ここでは厚い部分を腹、薄くなっていく部分を刃先と呼ぶ。

 

 腹を研ぐには、包丁を砥石にべったり当てて前後させる。シャキシャキとした感触が手に伝わり、気分はやまんばだ。刃先を研ぐには腹をべったり砥石に付けたままだと浮いてしまうので、峰側を10円玉1枚分の厚みだけ上げ、角度を付ける。刃先の工程が切れ味をよみがえらせる肝だ。先端の方は弧を描いているので、包丁の向きをこまめに変えて「し」の字を描く。

 

 

15:30 切れ味を試すため、研ぐ前後でミニトマトを切り比べてみた。感触の差は歴然だ。研いだ後は皮が裂ける瞬間の力が明らかに軽く、吸い込まれるように刃が入った。切り口を見ても果肉が潰れておらず、皮が引きつれていないため流れ出した果汁が少ない。

 

 切れ味を数字で表すべく、はかりの上にミカンを置き、切りながら目盛を読んでみた。最大値の推移は707g→586g。本来、包丁は左手で固定しながらスライドさせて切る道具だが、ここでは余計な重さを加えないため、左手を添えずに押し切っている。そのため参考値だとしても、軽い力で切れるようになったのが分かる。

 

15:45 いくつかのミニトマトが真っ二つになったところで鍋の焦げ取りに移る。大きな鍋にはひき肉の破片が焦げ付き、小さな鍋にはデミグラスソースの焦げが染み付いている。試しに中性洗剤とスポンジで軽く洗ってみたが、一度冷えた鍋はなかなか綺麗にならない。

 

 鍋が二つあるので2通りの方法を試す。鍋の焦げを浮かすには、一般的に重曹、酢、天日干しなどが使われるが、変わり種としてタマネギの皮も使えるという。包丁研ぎのきっかけとなったタマネギの皮が残っているので、大鍋でタマネギの皮、小鍋で酢を煮立ててみる。

 

16:05 弱火に10分かけた二つの鍋を、火を止めて冷ますことさらに10分。酢の匂いが台所に充満している。まずは大鍋の湯と皮を捨て、スポンジで擦ってみた。こびり付いていた焦げが嘘のように剥がれる。ところがすすいだ鍋を見て手が止まった。茶色の色素沈着が残っているのだ。小鍋も同様、黒い汚れの大部分が残ってしまっている。

 

16:25 染みを落とすため、鍋清掃2回戦目に入る。水を張り、中性洗剤を垂らして沸かす。これはチーズや米の焦付きが残った際の定番だが、ほとんど効果はなかった。ふやかすことが目的の戦法なので当然だ。記者は諦めてたわしを取った。今回のような鍋の表面に染み付いた焦げは包丁の表面についたさびに等しく、結局研磨が最良のようだ。

 

 

16:30 鍋を磨き終えて時計を見たら、4限終了の10分前。皿に温め直した料理を盛り付け、試し切りのミニトマトを添える。完成品は写真の通りだ。ハンバーグ、お粗末様でした。【広】

 

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