複数の学部・学科などで似た領域の学問を扱っている場合、自分に合った進学先はどこか分からないという学生も多いのではないだろうか。そのような悩みを解決するため、本企画では一見似たような学問を扱う進学先を徹底比較する。今回のテーマは「情報」。工学系の学科から生物学系の学科まで、情報関係を扱う学科は数多く存在する(表)。今回はその中から、理学部情報科学科、工学部計数工学科、工学部機械情報工学科の三つの進学先を特集。各学科に進学した学生に話を聞いた。(時間割は全て24年度3Sセメスターのもの。学科ウェブサイトを基に東京大学新聞社が作成)(構成・岡部義文 取材・山口智優、清水央太郎、海老澤茉由莉)
工学部計数工学科 数学に強み 情報以外の幅広い合併科目も
三井譲さん (工学部計数工学科卒、現在は新領域創成科学研究科複雑理工学専攻博士3年)
──学科で学んでいたことやカリキュラムの特徴を教えてください
工学部計数工学科では、数理科学や物理学についての知見を、プログラミングスキルを身に付けながら学ぶことが可能です。そして、レポートの量が非常に多く、毎週その提出に追われる日々が続くのも特徴ですね。特に必修の授業では、分量や難易度は回によって異なりますが、毎週2、3問の課題が出されます。また工学部物理工学科と共通の授業も多く開講されています。
──学科に入る前に興味のあった分野と現在興味のある分野を教えてください
進学前から微分方程式が好きでした。あの手この手で解くのが楽しかったです。現在はその興味の延長で、様々な現象を微分方程式を用いて調べています。
──情報関係以外の学習内容は
情報系とはいえ、数理科学や物理学の問題は紙とペンで解くことも多いですね。プログラミングの演習では、C言語やMATLABを使ってコードを書き、様々な数値計算を行います。研究室の選択に関しては、学部で卒業論文を執筆する研究室と大学院の研究室とで一度変わることが多く、院の研究室は各自が希望を出してから、院試の筆記試験の点数で決まります。その結果を受けて、院の研究室と被らないように卒論執筆の研究室が決められます。
──実習の頻度や内容は
週に2〜3回、およそ4コマ分が演習にあたります。内容は多岐に渡り、回路を組むものから、筋肉が活動するときに出る電気信号を測る実験もあります。また、プログラミングではMATLABを用いて力学や微分方程式、線型代数などの問題を解きます。これらの演習は時間がかかることが多く、夜遅くまで残る学生も見受けられます。
──今の学科を選んだ決め手は
工学部物理工学科や理学部情報科学科と迷いましたが、数学チックな内容が好きだったため計数工学科を選びました。前期教養課程での数学の授業が面白かったことも決め手の一つです。
──前期教養課程で取っておくべき授業は
特に面白かったのは数理科学 I と数理科学 II(当時)で、微積分の応用を学べます。あとは前期のうちに、プログラミングの知識を身につけていれば、進学後のカリキュラムをもっと楽に進めることができたかもしれません。
──進学前の段階で、プログラミングの技術など、情報関係の勉強はどのくらい進めていましたか
進学先のコースにはプログラミング初学者が多かった印象です。一方、サークル活動などでプログラミングをやっていた学生も一定数いました。私はプログラミングが苦手で苦労することも多かったのですが、周りの学生と協力しながらなんとか付いていきました。
──学科に入る前のイメージと入った後の印象を教えてください
「数学的な内容や情報科学的な内容が豊富」という学科の特徴はイメージ通りだった一方、グループごとの実習も多く、協力し合える環境が整っていることは嬉しい誤算でした。レポートなどが分からない時は、互いに協力し合える関係が築けていました。
──前期教養課程生にメッセージをお願いします
計数工学科は、自主ゼミを行っている学生がいたり、輪講などで教員と直接話す機会があったりします。また学科内の「数理情報工学コース」と「システム情報工学コース」へのコース配属の際は、各自の希望のほか、前期教養課程の点数も加味されます。もしどうしても進みたいコースがある場合は、点数を高めに取っておくことをお勧めします。
工学部機械情報工学科 ハード面、実際の「ものづくり」までカバー
新井翔太さん (工学部機械情報工学科4年)
──カリキュラムの特徴を教えてください
2Aセメスターから3Sセメスターにかけて、機械工学で重要な力学(機械力学・材料力学・流体力学・熱力学)を主に学びます。3Sセメスターから、プログラミングなどのいわゆる「情報」に関する授業や、ロボットをいかに動かすかに関する「ロボティクス」などの授業が増えていきます。それ以外にも、エンジニアリングの観点から脳の機能と設計を考察する講義など、幅広い授業があります。
他の情報系の学科と比べると、やはり機械に関する情報学という側面が強いのが特徴だと思います。また、実習では実際にものづくりをするのも特徴的ですね。
──現在興味のある分野を教えてください
入る前は、ロボティクスに興味がありました。やはり、ロボットを実際に作って動かしたいという思いがあって。しかし学科に入って興味が変わりまして、今は、人工生命や非線形力学、物理リザバー計算(物理現象を活用した人工知能技術)などに興味があります。授業の中で先生がそれらのトピックについて話してくださったことがあったのですが、研究の話が革新的で感銘を受けたんです。今はその先生の研究室に入っています。
──学科に入る前のイメージと入った後の印象を教えてください
入る前は演習が重いのかなと思っていたのですが、入ってみると想定よりは重くなく、比較的余裕はあった印象です。実習では班員とのコミュニケーションや協力が重要でした。情報に興味があって入った人の中には、最初は情報の比重が小さいため、モチベーションが低迷する人もいました。ロボコンサークル「RoboTech」に所属している人が多いのも印象的です。既にサークルでコードを書いてロボットを動かす経験をしている人が一定数いるようなイメージですね。
──今の学科を選んだ決め手は
電子情報工学科と迷いました。どうせなら実際にものを動かすところまでやってみたい、ハードウェアも学びたいと思ったので機械情報工学科を選びました。
確かに学部のうちに習う内容は違いますが、研究室単位で見てみると似たような分野を扱っていることも多いです。実際、機械情報工学科から電子情報工学科の院(情報理工学系研究科電子情報学専攻)に行く人もいれば、その逆もいます。俯瞰(ふかん)的に見てみれば、自分の興味のあるテーマであればどちらにいても学べると実感しました。
──実験の頻度や内容は
2Aセメスターでは、週に1回、午前中にありました。内容は幅広く、機械工学・機械情報に関する実験を行いました。3Sセメスター・3Aセメスターでは、週に4回、午後まるごと実習になります。3Sセメスターでは、班で協力してスターリングエンジン(熱による気体の膨張・収縮を利用して作動するエンジン)を作りました。3Aセメスターでは、「自主プロジェクト」といって、おのおの作りたいものを決めて製作し、最終発表会を行いました。
──前期教養課程で取っておくべき授業は
僕はプログラミングの勉強を全くしておらず、進学後に苦労しました。今も苦労しています(笑)。前期教養課程のうちに「アルゴリズム入門」などの授業を取っておくと、ちょっとしたアドバンテージになるかなと思います。
加えて、ものづくりの際にCADというソフトウェアを多用します。前期教養課程でも「図形科学A・B」などCADの使い方を学ぶ授業があるので、CADに慣れておくと後々役立つかなと思います。
──前期教養課程生にメッセージをお願いします
機械情報工学科は、面倒見が良い学科だと言われていて、実際サポートがとても手厚いです。また、扱っているテーマがとても広いので、一つでも興味がある分野があればぜひ検討してみてください。
理学部情報学科 ハードからソフトまで欲張りに学ぶ
Yさん (理学部情報科学科卒。現在は新領域創成科学研究科複雑理工学専攻・修士2年)
※取材内容に関する注意
Yさんは2020年度に情報科学科へ進学しましたが、ここ数年で時代の情勢に合わせてカリキュラムが変更されているため最新の内容と異なるかもしれません。
──カリキュラムの特徴を教えてください
ソフトウェアからハードウェアまで、コンピューターに関することを幅広く学びました。実験や授業では、コンピューターがどのような仕組みで動いているかという問いを重視します。実験は3~4割が回路を組み立てるようなもの、6~7割がコンピューターを使ったプログラミングなどの作業から成ります。
──情報関係以外の学習内容は
情報系と全く無関係ではないのですが、必修科目である2Aセメスターの情報数学や3Sセメスターの情報論理の授業はいずれもおおよそ情報というより数学に関する講義です。4年生になるとコンピューターの原理だけでなく、コンピューターをどう使うかという応用分野の講義も始まり、画像処理や言語学に関しても学ぶようになります 。さらに、単位要件のために理学部の物理学科や数学科の講義を取る人が多いです。
──学科に入る前に興味のあった分野と現在興味のある分野を教えてください
大学入学時は何となく物理や数学をやりたいなと思っていましたが、同時にコンピューターへの興味もありました。1 年生の時、情報系の科目を履修しているうちにコンピューターがなぜ動いているのかを知りたいなと思い、さらに当時ブームが起きていたAIについても勉強できると考えて情報科学科を第一志望にしました。
現在はAIに興味が移り、インテリジェンスそのものや人間の脳の仕組み・ニューラルネットワークに関心を持っています。
──今の学科を選んだ決め手は
進学選択では数学科と迷っていましたが、数学の世界は非常に広いので情報に関することを学ぶために数学科に進学するのは遠回りだと判断しました。また、他の情報系の学科と比較した際、工学部では応用に重きをおきますが理学部のほうが性にはあっているかなと思いました。
──学科に入る前のイメージと入った後の印象を教えて下さい
学科に入る前は名前から、数学科に近い理論重視の学科だと想像していました。しかし学科に入ってみると、人間からの指令を機械語(コンピューターが理解できる命令文)に翻訳し、コンピューターが実行するまでのプロセスに関して学ぶという実装に関する学びが多かったです。機械語を設計して命令を実行したり、ハードウェアを作ったりするのはとても大変でした。
──他の情報系の学科と比較して、面白い点や強みは何でしょうか
理学部なので時間を掛けて基礎的なところから詰められるのが良い点だと思います。また情報科学科は欲張りな学科なので情報に関して幅広く学べます。科目の数も課題の量もとても多いです。しかし多くの科目に共通しているのが「課題を全部出さなくても単位を出す」という姿勢です。学生の時間と労力では課題を全てやり切るのは無理なので、自分で頑張りたい科目をある程度自由に決めて、そこに力を入れることが前提となっています。
──進学前の段階で、情報関係の勉強はどのくらい進めていましたか
コンピューターが大好きな人から理科I類でない人や情報に関して全然わからない人までさまざまでした。私の場合は、情報系に進むなら取っておくといいとされる前期教養課程の総合科目F系列のプログラミング関係の科目を1年生の時にいくつか履修していました。前期教養課程の必修科目 「情報」に加えて総合科目F系列「アルゴリズム入門」を履修しておけば予習としては最低限大丈夫なのかなと思います。前期教養課程の総合科目F系列「計算の理論」は情報科学科の先生が担当しているので受講することで向き不向きがわかるかもしれません。
──実習の頻度や内容は
3Sセメスターにはコンピューターを触る実習が週2回、回路を触る実習が週1回あり、全て2コマ連続でした 。課題の量はかなり多くて、教員は1回あたり6時間かかることを想定して出題しているそうです。
CPU実験では1セメスターかけて1つのコンピューターを作り上げます。Aセメスターには週1回 CPU 実験があるのですが、この科目については時間割の概念は実質的にはありません。好きな時に好きなだけ作業してよいスタイルで、授業は進捗報告の時間でした。
──前期教養課程生にメッセージをお願いします
全部欲張って学べるのが情報科学科の特徴かなと思います。カリキュラムはハードですが、身になることは多いと思います。そしてコンピューターには人一倍強くなれます。興味がない科目も、最低限の課題を提出して、一番気になる箇所を深く学ぶことが可能なので、コンピューター関連で勉強したいことがある人なら来てみてもいいかもしれません。
個人的には、東大ではどの学科に進んでもやること、頑張ること、辛いことも多いですし、とても優秀な人もいるのでどの学科に行っても大変なのは同じじゃないかなとは感じています。その上で数年間やり込んでも後悔しない場所を選ぶのが大事なんじゃないかなと個人的には思います。自分は情報科学科に進学して少し後悔しましたが、多分どこでもそうだったかなと(笑)。