東京大学新聞社では例年秋に編集諮問委員会を開催し、外部の有識者に記事の評価を求めている。今年は10月22日に開催され、司会進行は東京大学新聞社理事長である川出良枝教授(東大大学院法学政治学研究科)が務めた。編集諮問委員として、元朝日新聞常務取締役編集担当である西村陽一客員教授(東大大学院情報学環)と弊紙元理事長の宍戸常寿教授(東大大学院法学政治学研究科)が出席。また当日は理事会・評議委員会も同時開催され、編集諮問委員の他、理事や評議員からも多くの意見が出された。
編集部からは編集長を始め計5名が会場に参加。2023年12月以降に公開された三つの記事・企画について、意見を求めた。個々の記事の批評にとどまらず、東京大学新聞社としての記事の在り方・全体の編集方針にまで議論が及んだ今回の編集諮問委員会。当日の白熱した様子をお伝えする。(執筆・赤津郁海)
「学費問題」:月刊紙ならば問題の深掘りこそ真骨頂
最初に講評を受けたのは、学費問題に関連する一連の報道。東大は2024年9月24日には授業料を20%値上げして年額64万2960円(現行53万5800円)にすることを正式に決定した。これを受け東京大学新聞社では、紙面と「東大新聞オンライン」の両媒体で継続的な報道を行ってきた。担当記者は「月刊紙としての報道姿勢の在り方も含めて助言をいただきたい」として、意見を求めた。
編集諮問委員の西村客員教授は、10月号『学費問題&法人化20周年特集号』の特集記事について「各ページのコンセプトが明確な力作」と評した。その上で佐々木毅元総長へのインタビュー記事に言及。「月刊紙であれば、学生の意見が大学に反映させづらくなっている構造的問題についてより深く踏み込むべきだ」と指摘した。また、同特集の取材を参照した社説の掲載も提案した。同じく編集諮問委員である宍戸教授も「東大新聞の記事は記録としても重要であり、今後も継続した報道を期待する」とした上で、報道姿勢として「地方学生や女子学生など多様な学生の声をもう少し拾い上げてほしい」と述べた。オンライン参加者からも、同評議員の加藤陽子教授(東大大学院人文社会系研究科)が学生の動きに言及。「東大への文書開示請求を行うなど、学生運動にも現代ならではの特徴があった。そこまで触れてほしい」と語った。評議員である石田淳教授(東大大学院総合文化研究科)は、授業料値上げに関するニュースの速報体制について指摘。「過去の他大学の値上げ報道や東大の財政状況などから、東大で授業料値上げの可能性があることは事前に見当がついたはず」と述べ、今後は他大学の動向にも目を向けるべきだとした。理事である竹内靖朗氏からも、速報について「大学のプレスリリースをただ流すのではなく、東大新聞独自の切り口を考えることが重要だ」という意見が出るなど、この議題は大いに盛り上がりをみせた。
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「倉本教授インタビュー」:インタビュー記事には盛り上がりを作れ
続いては2023年12月号に掲載された24年大河ドラマ「光る君へ」時代考証で務める倉本一宏教授(国際日本文化研究センター教授)へのインタビュー記事。話題性があったためか、オンライン版の記事で高いPV数を記録した記事である(24年11月14日現在、計90,692PV)。「東大新聞独自の記事になっているか」という担当記者からの質問に対し、西村客員教授は「学術や文化についてその道の専門家にインタビューをする記事は東大新聞の名物記事だ」と答えた。内容面では、前半部分に盛り上がりが少ないことを指摘。こうしたインタビュー記事には、引き込まれる箇所が必要であり、この記事では「日本は戦争の少ない国」という倉本教授の発言をより掘り下げるべきだったとした。
「ビッグイシュー日本」:「東大に関係すること」に縛られず、記者の興味に従った記事を
最後は2024年4月号に掲載された、ホームレス支援を行い、雑誌『ビッグイシュー日本版』を販売しているビッグイシュー日本への取材記事。主な論点となったのは「東大との関連性」と「記者の意見を記事にどこまで反映させるか」の2点。編集部はこれまで東大に関連する記事に限定し、また価値判断を伴わない中立的な記事が主だった。
宍戸教授は「この記事がなぜ東大新聞に載っているのか疑問に思った」と述べ、東大生へのメッセージやホームレス問題を研究している東大の教員に取材するなど、東大新聞の読者に届けるための工夫をすべきだとした。西村客員教授は、記事に取材先の名前が載っておらず、雑誌の販売員の顔が見えてこないことを指摘。宍戸教授の意見も踏まえながら、「東大と関係がないことを取材するのは問題ない。むしろ読者に届けるためのアプローチをもっと議論するべきだ」と語った。担当記者から販売員への取材は断られたことが説明されると、石田教授が「(本郷キャンパス最寄り駅である)本郷三丁目駅付近で販売している理由は質問しても良かったのでは」と提案した。さらに、常務理事を務める村瀬拓男氏も発言。編集部がこれまで取材対象について自己規制をしてきたことに驚きを示し、「もっと記者自身の興味に従って執筆してよい」と語った。西村客員教授も「現場を回り、事実に立脚した上で自分の思いを記事にぶつけるのは当然のことだ」と発言。学費問題関連の報道とも絡めながら、議論は熱を帯びていく。監事の小浦雅裕氏は自身が東京大学新聞社の編集部員だったころ、徹夜で社説を書いた経験を踏まえ「ぜひ現役部員にも社説を書いてみてほしい」と語った。理事の竹内氏は報道と学術・文化に関連する記事は別物として考えるべきだとした上で、後者については「記者の解説がないと面白くない」と述べた。評議員の南部雅弘氏も「取材と編集の中で何を伝えたいか考えることが大切だ」と語った。
今回の編集諮問委員会を踏まえ、編集部内でも会議を実施。学生を対象とした取材を増やしていくことや、記者の伝えたいことを記事に載せていくことなどを話し合った。早速、2024年11月12日発行の11月号『駒場祭特集号』にて、学費問題に関する社説を掲載した。
11月号の見どころはこちらの記事で一挙紹介