劇映画の醍醐味とはなんだろうか?
一つに、「フィクションでありながら、そこに描かれるものが人生にリアルな示唆を与えてくれること」という解答が考えられるだろう。
その意味で、濱口竜介の監督作品は見事だ。強度のある言葉は人間の懊悩や幸福をリアルに描き出し、カメラは奇跡としか言いようのない瞬間を確実に捉える。また、展開・構成は緻密さと大胆さを兼ね備えており、観客に驚きに満ちた上質な映画体験を提供する。
高水準の作品を発表し続ける濱口監督への評価は、批評家・一般の観客を問わず非常に高い。代表作の一本『PASSION』は東京フィルメックス映画祭のコンペティション部門に選出され、さらに今年のサン・セバスチャン国際映画祭では「ニュー・ジャパン・インディペンデント・シネマ」に塚本晋也監督の『六月の蛇』や、黒沢清監督の『アカルイミライ』等と並んで出品が決まった。一方、4時間を越える超大作『親密さ』は、上映されるやいなやTwitterで圧倒的な支持を集め、梅本洋一や荻野洋一ら映画批評家も2012年度ベストの一本に選んだ。
後年振り返った際に、日本映画史の重要なメルクマールとなるであろうこの二本は、しかしながら、単独でのDVD化はされておらず、これまで上映機会が限られてきた。万人が目撃するべきこの二本を上映するため、濱口監督の出身校でもある東京大学で一日限りの「情動を見つめて 濱口竜介監督特集」開催決定!
【日時】
2015年7月19日(日)
12:30-13:00 開場
13:00-14:55 『PASSION』
15:15-19:45 『親密さ』(途中休憩あり)
20:00-20:45 質問会
【会場】
東京大学本郷キャンパス 福武ラーニングシアター
(東京大学 情報学環・福武ホール地下2階) 地図
【アクセス】
丸ノ内線・大江戸線「本郷三丁目」駅より徒歩8分
南北線「東大前」駅より徒歩10分
千代田線「湯島」駅より徒歩20分 赤門入ってすぐ
【料金】一作品あたり1000円
【主催】「情動を見つめて 濱口竜介監督特集」実行委員会
【後援】東京大学見聞伝ゼミナール(http://kenbunden.net/general)
東京大学新聞社(http://www.utnp.org/)
【予約】
こちらの予約サイトよりお申込みください
※予約が満席となった際にも、当日券を販売いたします。
当日45分前から販売を開始し、5分前より整理番号順に入場を開始します。
【上映作品について】
『PASSION』
10年来の友人グループ、カホ、トモヤ、ケンイチロウ、タケシの久しぶりの食事会で、カホとトモヤは結婚を報告する。しかし、トモヤの過去の浮気が発覚し、カホとトモヤは別々の夜を過ごす……。5人という絶妙な人数によって生まれた二つの三角関係は、ふとしたきっかけで揺れ動き、10年の歳月が生んだ友情の歪みをも乗せて衝撃的な結末へと至る。本音を明け透けに吐露し合う登場人物たちの姿は観客に自らの価値観や人間関係についての再考を促す。緻密に計算された台詞と、映画でしか表現し得ない画の美しさが邂逅した本作品は、濱口作品の一つの金字塔となった。
2008年 / 115分 / HD(Blu-ray上映) / カラー
製作:東京藝術大学大学院映像研究科 / プロデューサー:藤井智 / 監督・脚本:濱口竜介 / 撮影:湯澤祐一 / 照明:佐々木靖之 / 録音:草刈悠子 / 美術:安宅紀史、岩本浩典 / 編集:山本良子 / 助監督:野原位
出演:河井青葉、岡本竜汰、占部房子、岡部尚、渋川清彦 ほか
『親密さ』
濱口監督最大の武器である、「言葉」の魔力の真骨頂というべき作品である。公演に向け稽古を重ねる劇団員の姿を描いた第一部と、その演劇の上演をそのままカメラに映した第二部という、異色の二部構成で出来ている作品である。
人は固有の『正しさ』を持つ生き物である。その衝突によって喧嘩が生まれ、争議が生まれ、戦争が生まれる。登場人物たちは演劇を作る過程でそれぞれの「正しさ」をぶつけ合う。飛び交う「正しさ」の衝突と和解の中で、彼らの「親密さ」は揺れ動く。「映画史上、最も美しい」という形容すら決して大げさでない、丸子橋の長回しのシーンは必見だ。
2012年/255分(途中休憩あり)/HD(Blu-ray上映)/カラー
製作:ENBUゼミナール / 監督・脚本:濱口竜介 / 撮影:北川喜雄 / 編集:鈴木宏 / 整音:黄永昌 / 助監督:佐々木亮介 / 制作:工藤渉 / 劇中歌:岡本英之
出演:平野鈴、佐藤亮、伊藤綾子、田山幹雄 ほか
<監督プロフィール>
■濱口竜介(はまぐち・りゅうすけ)
1978年、神奈川県生まれ。2008年、東京藝術大学大学院映像研究科の修了制作『PASSION』がサン・セバスチャン国際映画祭や東京フィルメックスに出品され高い評価を得る。その後も日韓共同製作『THE DEPTHS』(2010)がフィルメックスに出品、東日本大震災の被災者へのインタビューから成る『なみのおと』『なみのこえ』、東北地方の民話の記録『うたうひと』(2011,2013/共同監督:酒井耕)、4時間を越える長編『親密さ』(2012)、染谷将太を主演に迎えた『不気味なものの肌に触れる』を監督するなど、地域やジャンルをまたいだ精力的な制作活動を続けている。現在は神戸に拠点を移して撮影した最新作『ハッピーアワー』が公開待機中。
(文責 近藤多聞)
2015.6.14 15:00 予約方法の変更に伴い記事の一部(中段【予約】の項目)を修正しました。
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