今年11月に濱田純一総長に代わる、新たな総長が決まる。2009年の就任以来、「秋入学」「4学期制」など、さまざまな改革を提言し続けた濱田総長。次期総長選の開始を機に、濱田総長の取り組みを振り返ろう。(構成・編集部 石原祥太郎)
濱田総長の選出 「改革の速度緩やかに」
2008年に実施された前回の総長選。第2次総長候補者の段階で6人に絞られ、11月に投票が行われた。
東大の教授・准教授・教授会構成員だった講師の2309人が選挙権を持っており、有効投票数の過半数獲得者が総長予定者に決定する仕組みだったが、3回の投票を経ても過半数獲得者は現れず。4回目の投票は2人での決選投票となり、有効投票数1544票中875票を獲得した濱田総長が総長予定者に選ばれた。
濱田総長は投票の当日に所信表明の記者会見を実施。「知の公共性」を掲げ、学生・職員が社会のためにできることを考え行動する意思をもってほしいと強調していた。
濱田総長の前に総長を務めた小宮山宏・前総長は、積極的な改革を実行。4年の任期で実行した改革は▽広報の積極化▽学生を含めた国際交流の活性化▽部局を超えた研究者の交流推進▽総長直属組織の増設▽財務改善―など多岐にわたった。
同記者会見で濱田総長は、小宮山前総長の改革について「改革への一歩どころではなく、非常に大きな5、6歩を提示してくれた」と評価した。しかし一方で当時の学内に「改革疲れ」の声があることも認め「改革を整理して一息つく時期に来ている」と見直しを行う考えを示した。2008年12月2日発行の東京大学新聞は「濱田次期総長は小宮山総長の改革路線を大枠で引き継ぐ方針だが、改革の速度は緩やかになると見られる」と報じている。
任期の前半 国際化の強化を明言
濱田総長は2009年4月1日、正式に第29代総長に就任した。
4月13日に挙行された学部入学式では「新入生には豊かな知識を持つだけでなく、タフな東大生として成長してほしい」とあいさつ。「タフ」とは社会的なコミュニケーションの場におけるたくましさだと説明し、中国の古典にある「才ありて徳なき」という言葉を紹介した。「『タフ』の基盤にあるのは人間的な力。『徳』の意味を考え続けること自体が君たちを成長させる」と話した。
4月17日には就任後初の記者会見を実施し「改革を定着させる」と抱負を述べた。1期目は「行動の準備期間」と位置付け、2期目が始まるまでに具体策を発表するとした。
7月には文部科学省の国際化拠点整備事業(グローバル30)の拠点として東大が採択され、国際化の動きが強まった。現行のPEAKに当たる、前期教養課程において英語だけで学位を取得できるコースはこの時期から計画が進んでいた。
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2期目が始まる直前の10年3月26日、濱田総長の行動指針となり、東大の運営姿勢を示す「行動シナリオ」が発表された。大きく分けて基本理念を示す「行動ビジョン」、東大全体の運営方針を示す「重点テーマ別行動シナリオ」、学部・研究科ごとの方針を示す「部局別行動シナリオ」の三つで構成された。
行動シナリオには濱田総長が強調する「タフな学生」の理念も明記。重点テーマ別行動シナリオでは、グローバル30に基づく国際化の強化に言及した。
しかし11月には、当時の政権与党だった民主党が主導した「事業仕分け」でグローバル30が「いったん廃止」の判定を受ける。同月中に東大は菅直人首相(当時)に緊急提言を実施し、廃止を免れた。
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3期目となった11年4月からは、行動シナリオで示された本郷キャンパス総合図書館の増築・改修計画も本格始動。夏前には、総合図書館前の噴水広場の2本のクスノキが伐採された。
入学時期を秋に変更する計画の進行が明らかになったのも、この時期。海外からの留学生の受け入れや東大生の留学を促すのが目的で、入試時期は変更せず、4~9月に「ギャップターム」が生み出されるとされた。
12月には「入学時期の在り方に関する懇談会」が「中間まとめ」を作成した。それを受け、1月に濱田総長らが記者会見を実施。他大学と協調し、17年ごろを目標に秋入学の実現を目指すと表明した。
年度末には懇談会が最終報告をまとめ、濱田総長に提言した。その報告書を踏まえ、秋入学導入に向けた議論が進んでいくことになった。
後半の3年 秋入学は当面見送り
任期の折り返しを迎えた4期目の12年。東京大学新聞社の取材に対し濱田総長は「今までの3年間が大学全体の意識を方向付け課題に着手した期間とすれば、4~5年目はその成果が見える形で動き出す時期」と話していた。
10月には、1期目から計画が進行していたPEAKが始動した。11月には、入学後に1年間休学して課外活動に取り組める「FLY Program(初年次長期自主活動プログラム)」を翌年4月から実施すると発表。濱田総長の言葉通り、具体的な改革が実行され始めた。
3月には現行の後期入試を廃止して推薦入試を導入すると発表。16年度からの実施が決定し、東大内外に波紋を呼んだ。
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5期目に突入しても改革は続く。13年4月には、英語一列を刷新。習熟度別・少人数授業を採用した「教養英語」として生まれ変わった。時を同じくして英語論文執筆授業「ALESA」が文系1年生向け必修授業として始動。06年に始まっていた理系1年生向けの「ALESS」の文系版だ。
一方で6月、秋入学などを話し合う全学的な機関「秋入学等の教育基本問題に関する検討会議」が、秋入学の当面見送りを提言した。前期教養課程を担当する総合文化研究科・教養学部などを中心に、学内から多くの懸念が出たことが理由の一つだった。
学内の意見の不一致や社会的整備が進まないことを受け、検討会議は別の改革案を模索。そこで新たに現状で可能な改革として提言されたのが、4ターム制の導入だった。年度末には15年度に4ターム制を導入することが正式に決定した。
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最後の6期目となる今年、4月には国際社会で活躍できる指導的人材の育成を目指す「グローバルリーダー育成プログラム(GLP)」が始まった。その一環として、日英中の3カ国語を使いこなす人材を育成する「トライリンガル・プログラム(TLP)」も始動している。
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4期目途中の東京大学新聞社の取材に対し、進振りについて「任期中の改革を目指す」と言及していた濱田総長。「授業の成績だけでなく面接などの要素を取り入れる可能性がある」と話していた。
進振りに関する改革など、3月末の任期満了までにさらなる改革があるのか。最後まで濱田総長の動向から目が離せない。