東大に毎年進学する約3000人の中で、例年20~30人程度が三重県出身であり、十数人が海外の高校出身です。私は14歳まで三重県で過ごし、アメリカで高校を卒業した後に2020年度の東大新入生となりました。この記事では、三重県とアメリカという二つの環境で学生生活を送ってきた者として、自身の体験を基に地方からの東大進学について考察していきたいと思います。
私の地元は三重県いなべ市という、三重県の中でも田舎の地域です。そこの小学校に入学し、学年に一つしかないクラスの中で授業を受け、そのまま地元の公立中学校へ進学しました。私は宿題以外の勉強はせず、塾にも通わず、中学受験もしませんでした。なぜなら、私の地元ではそれが「普通」だったからです。仲間や同僚などが互いに与え合う影響のことを「ピア効果」と呼びますが、東大などの難関校を目指す人々と切磋琢磨するチャンスが多い首都圏と、そのような機会が皆無に等しい地域とではその効果の差は大きいです。見逃されがちですが重要な点だと私は思います。
そして私は中学一年生の冬に父親の仕事の都合で渡米しました。ケンタッキー州という、これまた田舎な地域でした。ここで実感したのは、情報を得ることの難しさです。日本人が多く、東大受験についても情報を得やすいニューヨークやカリフォルニアなどの大都市とは異なり、私が得られる情報は限られていました。日本の大学を目指す他の人たちは何をしているのか、時代とともに変化し多様化する入試形態に対しどんな対策をすればよいのか、自分の学力は一体どの程度のものなのか、と不安に駆られながらも自分なりに勉学に励みました。もちろんアメリカの大学への進学も考えました。しかし、家族の帰国時期が私の高校卒業とかぶること、学費等の経済的な事情、海外経験を踏まえ日本について改めて客観的に学びたかったこと、日本のジャーナリズムに関心があったことなどを考慮した結果、日本の大学への進学を決意したのです。
日本の地方生と海外の地方生を取り巻く環境の決定的な違いは、海外の学校の教育プログラムは日本の大学への進学を想定していないという点にあります。つまり海外から日本の大学を受験する場合、基本的に受験対策は学校外で行うことになります。したがって、学習塾や家庭教師、そして日本の大学受験に関する情報網の重要性がより一層高まり、地域間の格差が大きくなってしまうのです。これに対し、塾はともかく、情報はインターネットから得られるのではないかと思う人もいるでしょう。実際に私もネットの情報に助けられた経験は多々あります。しかしネットで得られる情報は限られており、その情報をどこまで信用していいのかも分からず、地方生の不安はつのるばかりなのです。
そして私は高三の夏に日本へ帰国し、東京で一人暮らしをしながら予備校に通いました。私はそこで予備校の先生に東大受験を勧められ、初めて東大を意識し始めることとなります。そこからは、予備校が持つ膨大な情報をひたすら吸収し、本格的に受験勉強をスタートさせました。志望校の試験内容に沿ったカリキュラムで効率的に勉強したり、プロの講師による分かりやすい解説を聞いたり、周りの受験生のレベルを把握するなど、独学やネットの情報などからでは得られないものを沢山活用しました。このような受験勉強を後押ししてくれた両親には深く感謝しています。予備校に通っていなければ、東大合格以前に東大受験すら考えていなかったでしょう。
その後私は、海外の高校を卒業した生徒のための「外国学校卒業生特別選考」という入試形態の第2種で東大を受験し、合格しました。特別選考は第1次選考と第2次選考に分かれており、第1次選考は学校の成績、TOEFL(英語能力試験)やSAT(アメリカ版のセンター試験のようなもの)の成績、推薦書、志望理由書、課外活動などに基づいた書類審査です。第2次選考では東大2次試験の英語、日本語と英語の小論文試験、面接の総合評価などによって合否が決まります。今年度はこの入試形態のもとで、私が受験した文科Ⅱ類には私を含めて3人が合格しました。
ここで、私と似た境遇から東大受験を考えている数少ない方々に向けて、簡単にアドバイスをさせていただきます。まずは、海外に滞在している間に英語をマスターすることが重要です。その上で、和訳や英訳、要約などの多少テクニックを要する部分を重点的に練習することで、入試本番でも自信を持って高得点をねらえるはずです。そして、現地の学校で習う事柄を日本語でも調べておくことで、日本の大学受験への準備を進めていくべきだと思います。目的意識を持って、コツコツと勉強していきましょう。頑張ってください。
これが私の東大受験体験記です。この記事が、少しでも東大受験における地域間の格差について考えるきっかけを提供できたとすれば、私にとってそれ以上の喜びはありません。