研究や商品開発、映画制作などのプロジェクトを達成するためにインターネット経由で広く寄付を募る「クラウドファンディング」が注目を集めるようになり、東大でも自らの企画をクラウドファンディングに発表する学生たちが増えてきた。このシリーズでは、ユニークな試みをクラウドファンディングを通じて成功させようとしている東大生を紹介する。
第一回目に取り上げるのは、「東大生を中心に映画を作り、海外映画祭に出品する」というプロジェクトだ。実行者は、総合文化研究科修士1年の後藤美波さん。監督・脚本、プロデューサー、主役、助演、スタッフに東大生が臨むが、事務所に所屬するプロの俳優や、演技経験のない子役、一般の社会人もキャストとして起用する。
後藤美波さん
コロンビア大学への留学を控えて
後藤さんはプロデューサーとして映画製作に携わる。プロデューサーは、映画の企画リリースから完成作品の上映・配信までを統括する役割をになう。映画監督が作品というコンテンツ自体の責任者ならば、プロデューサーとは、映画を企画し作品を流通させるまでのプロセス全てに対する責任者といえる。後藤さんは、映画プロデューサーになるために、秋から大学院を休学し、米・ニューヨークにあるコロンビア大学大学院のフィルムスクール(修士課程)で映画製作について3年間をかけて学ぶ。
監督を務めるのは、文学部4年生の渡辺賢人さん。渡辺監督と後藤さんは、今年の3月にこの企画を始め、3カ月かけて脚本のブラッシュアップ、キャスト・スタッフ集め、ロケハン(撮影場所の下見)などを行った。6月からは、本郷や駒場など6ヶ所で撮影を行い、8月初旬までに全ての撮影を終える予定だという。完成した作品は、サンダンス映画祭など、世界の各映画祭に出品する予定だ。
東京大学駒場キャンパスでの撮影
製作している短編映画のタイトルは『父は父である』。「親と子の憎しみ、そして愛」をテーマに、父と息子の確執を描いている。
『父は父である』を完成させた後、コロンビア大学大学院に進学する後藤さんに、今回のプロジェクトにかける思いを語ってもらった。
「私は9月からニューヨークで映画を本格的に学ぶということもあり、周りの人から『なぜ、今このタイミングでわざわざ映画を作るの?』と聞かれることもあります。けれども、何よりもまず、私の映画製作の『原点』を、ここ東京大学で作ってみたかったという想いがあります。フィルムスクールでは、ストーリーテリングのルールから撮影機材の使用法、映画ビジネスまで幅広い知識を学ぶことになります。様々な知識や決まり事を学べば、いい意味でも悪い意味でもそれに囚われてしまうかもしれない。
その前に、脚本から何度も何度も自分たちで練り直し、機材の調達からキャスト集め、撮影まで全力でぶつかって作品を創りあげ、映画製作に対する強い思いを結晶化させたいと考えています。私は将来、映画プロデューサーとして映画を作り続けていきたいと願っています。そしてその第一歩としての作品を、ここ東京大学で作りたい。もちろん、やるからにはクオリティが高く、より多くの方々に興味を持ってもらえるものを目指したいと思い撮影に向かっています」。
キャスト・スタッフの集合写真
クラウドファンディングの難しさ
後藤さんにとって、今回は初めてのクラウドファンディングであり、何もかも手探りで進めているという。後藤さんが利用しているクラウドファンディングサイト”Readyfor?”では、支援者は支援金に応じた「引換券」を企画者から購入する仕組みになっている。後藤さんは、当初「サンクスメール」や「映画ダウンロード権」「メイキング映像」といった引換券を用意して出資を募っていたが、「より東大生らしく魅力的な対価を」と考え、3万円以上の引換券に「東大生がSkypeで100分間何でも相談に乗る」というユニークな特典を加えたという。
「今回は、『東大生』による『何でも相談』を目玉の商品として入れてみました。渡辺監督、主役を演じる近藤多聞さん(文学部4年)、そして私の3人の中から1人を選んでもらいます。
渡辺監督は東京大学映画研究会の元代表ということもあり、映画について博識で、私もいつも彼から学ばせてもらっています。彼は暗黒舞踏をはじめとするアンダーグラウンド文化にも詳しく、現在はインターネット上のアイドル番組でディレクターを務めています。
主人公を演じる近藤さんは、シアターマーキュリーで脚本・演出を務めていたこともあり、演劇・映画に造詣が深いです。また、所屬する東京大学見聞伝ゼミナールでは是枝裕和監督等様々な監督へのインタビューを敢行したり、濱口竜介監督上映会やダムタイプ『S/N』上映会を主催したりと勢力的に活躍してきました。就活でもバリューを発揮しているので(笑)、その話もとても面白いと思います。私は、2人に比べて映画や文化への知識は少ないですが、帰国子女でない日本人がアメリカ大学院に入学するための留学準備やTOEFL等の英語学習については何かしらお話できるかと思います。その他にも、関係者の試写パーティへのご招待などの特典も用意しています。映画への思いに共感してくださる方、何かしらのご興味を持っていただける方にご支援いただけたらとても嬉しいです」。
後藤さんのプロジェクトは現在12人のスポンサーが投資し、175,000円が集まっている(※7月23日現在)。”Readyfor?”はオールオアナッシング型(目標金額が達成されればプロジェクト企画者に資金が振り込まれるが、目標金額に寄付金が届かなければゼロになってしまうタイプ)で、目標達成期限は8月9日までというスケジュールの厳しい戦いだ。
それでも後藤さんは前向きだ。「すでに10人以上もの方々にご支援いただいて、とても励まされています。それだけでなく、クラウドファンディングを通じてより多くの方とコミュニケーション出来れば、何よりも嬉しいです。ギリギリまで告知を続けていきたいです」。将来のプロデューサーの手腕を見守っていきたい。
(文責 須田英太郎)
後藤さんの進めているプロジェクトはこちら。
自主映画「父は父である」を制作し、海外映画祭に出品したい!