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2023年5月9日

4年ぶり入構制限なしの五月祭で何が変わるのか。常任委員会に聞く

 

 本年度の五月祭は来場者の入構制限なし、飲食物の提供ありで行われる方針だ。予定通り開催されれば、入構制限の撤廃はコロナ禍以降初、飲食物の提供は五月祭としては4年ぶりとなる。一方で昨年度に引き続き、対面開催とオンライン開催を組み合わせたハイブリッド開催で行われる。五月祭常任委員会はどのような検討を経て開催形態を決定したのか取材するとともに、「4年ぶり」に合わせて企画を工夫する企画団体の担当者に話を聞いた。前編では五月祭常任委員会の決定の背景と準備にかけた思いに迫る。(取材・金井貴広、佐々ひなた、橋本拓)

 

3年ぶりに対面開催された昨年の五月祭
3年ぶりに対面開催された昨年の五月祭で(撮影・松本雄大)

 

苦心したのは 「食べ歩き」抑制

 

(表1)第96回五月祭の開催形態に関連する動き

 

 五月祭常任委員会で事務局長を務める安部一紗さん(工・4年)によると、開催形態や飲食企画の扱いの検討は昨年11月から始まった(表1)。当初から入構制限なし・飲食物提供ありでの開催を目指していたが、この時点では実現可能か「不透明だった」と話す。委員会内で検討を進め12月末には実現の見通しが立ち、1月の大学との交渉で方向性が確定したという。2月に開催形態を一般向けに公表してからも、変更の検討を迫られることはなかった。飲食物の提供については「食べ歩き」をどう抑制するかが鍵に。マスクを外して歩き回る人の増加につながり得るため、検討当時の社会通念に照らして防止する必要があった。解決策として考えたのは飲食スペース(図)の設置で、屋外での飲食はスペース内で行うよう呼び掛ける。入構制限撤廃による来場者数増加も考慮し、昨年の駒場祭よりも数を増やし6カ所設置。この対応により、当初は懸念を示していた大学の理解も得られたという。駒場祭では原則認められていなかった屋内企画の飲食提供も認める方針だが、企画場所内に飲食専用スペースを設けることを必須としている。

 

(図)飲食スペースの位置(<a href="https://gogatsusai.jp/96/visitor/alcohol" target="_blank" rel="noopener">五月祭ウェブサイト</a>より)
(図)飲食スペースの位置(五月祭ウェブサイトより)

 

 入構制限の撤廃については、構成員間で確保できる距離の間隔や歌唱・パフォーマンスなどの企画で構成員と来場者が確保できる距離などを計算し、クラスターを発生させるリスクが低いことを大学側に数字で実証するプロセスが大変だったと安部さんは話す。一方で、制限の負担軽減を目指す大学側も非協力的ではなく、ともに考えていくスタンスで協議を進められたという。入構制限の人数上限のため昨年度はオンライン企画に限定した1年生のクラス企画についても、今回は対面での出展を認める方針にした。「対面で一つのことをやり遂げることで、仲を深められると考えています」と語るのは組織局長の桶谷倫太郎さん(法・4年)。9割を超える1年生のクラスが企画出展を予定しているという。

 

 酒類は駒場祭では提供されないため、学園祭としても4年ぶりに提供される見込みだ。購入などにはリストバンド型の「アルコールパスポート」が必要で、案内所で年齢確認を受けて入手できる。

 

当初からハイブリッドで計画

 

 完全な対面開催ではなくハイブリッド開催を目指す方針は昨年11月ごろから委員会内で固まっていたという。企画団体にはクラスのように「仲良くなりたい」というところもあれば、学科のように「学術系の内容を発信したい」というところもある。ハイブリッド開催により、企画ごとに出展目的に合った形態を選択できることを委員会として想定している。

 

 オンラインでの企画についても「対面と同様に重きを置いている」と桶谷さんは話す。コロナ禍で初の五月祭だった2020年に委員会がオンライン開催を決断したときは「苦渋の決断だった」が、実施してみる中で、オンラインならではの価値も発見された。対面開催の場合、会場となる本郷キャンパスや弥生キャンパスに来られるのは、主に首都圏の人に限られてしまうが、オンラインではそうした地理的制約がない。実際、地方の高校生などからオンライン開催を歓迎する声もあるという。オンラインで出展する企画団体には音楽系サークルが多いというが団体側にも作品を全国の人に届けることができるというメリットがある。実際受験生向けにアドバイスを行う企画も、オンライン出展を行うことでより多くの高校生と相談ができるようになり、企画団体と来場者の双方に新たな可能性が生まれた。

 

誰でも楽しめる感染対策を

 

(表2)五月祭の感染防止対策(一部抜粋)

 

 五月祭時のキャンパスでは(表2)の感染対策が予定されている(一部抜粋)。新型コロナウイルスのいわゆる「5類移行」決定の報道が1月下旬にあったが、委員会内はこのタイミングで感染対策の方針転換の検討を迫られたという。5類移行の予定日は5月8日。五月祭(13、14日)直前だ。委員会では既に厳密な感染対策の実施を前提とした制度設計が進められていたが、五月祭当日には社会の実態との乖離(かいり)により機能しなくなるという懸念が生じた。

 

 感染対策を再検討するに当たり「どんな方でも楽しんでもらえるように」という点を意識したと安部さんは話す。「個人の主体的な判断」を重視する政府の方針も踏まえ、過度な取り締まりは行わないが、感染を気にする来場者に不安な思いはさせないようにするという目標だ。マスク着用については、企画構成員には必須で求めるものの、来場者には求めない判断を行うことに。飲食スペースの運用についても調整を行った。委員会は企画構成員向けに「感染症対策の手引き」を作成しているが、ここに記載されている内容は全体的な指針に過ぎず、実際には400程度の団体と個別に調整を行っているという。取材日(4月22日)時点で、感染対策上の合意が取れていない企画はなく、感染対策について理解を得られている認識だと桶谷さんは話す。

 

委員会執行代も初めて 不安はあるが

 

 ハイブリッド開催では対面企画とオンライン企画の双方の管理をする必要があるという点で、委員会の準備の量も「2倍とは言わないまでも、1.何倍かは増えます」(安部さん)。しかし、オンライン新歓の導入の影響か、委員の人数がそれ以上に増えているため人的リソース面での厳しさはないと話す。「オンライン開催では十分に仕事ができなかった委員も、自分の実力を発揮できるのではと期待しています」

 

 オンラインを併用すること自体については過去3年分の積み重ねがあるため大変ではないと語る。苦労したことは「対面に戻すこと」。安部さんら執行代の4年生も、入構制限なしの五月祭を委員として経験したことがない。過去の資料を「読みあさった」ほか、コロナ禍前の第92回五月祭以前の委員にもメールや電話で連絡を取った。現役委員の「経験値が圧倒的に足りない」と感じる中で「生の声」を聞けたことは参考になったと話す。

 

 「見たことがない」五月祭を運営するに当たっては、不安は捨てきれないと2人は話す。しかしその分、一人でも多くの人が満足できるよう準備してつくった五月祭を「見てみたい」という気持ちも強い。「何が起こるか分からない学園祭だからこそ楽しみです」(桶谷さん)

 

談・五月祭常任委員会・事務局長 安部 一紗さん(工・4年)

  五月祭常任委員会・組織局長 桶谷 倫太郎 さん(法・4年)

 

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